キャロルサイド
見覚えのある景色がところどころに散らばっていた。
「……エリザ、ベス?」
信者数100万人と言う人々の心の拠り所で一生に一度は訪れたいと象徴的な場所であった聖王国王都は見る影もなかった。
「やっと目を覚ましたわね」
瓦礫の山ーー周囲もあんなに水と緑で豊かだったのに荒廃し、岩石地帯へと変ぼうした。空も真っ黒な分厚い雲に覆われていてどす黒い空気となっている。
「ふふ」
そして変ぼうしたのは王都だけではなく
「会いたかったわ」
エリザベスもだった。全身を黒いモヤにおおわれて気配もまがまがしく感じられる。魔力量も以前とは比べ物にならない。
「ねぇ、キャロル」
邪悪な背筋が凍りつくような不気味な笑みを向けられた。一体、エリザベスに何があったというのか。
「死んで」
全くわからない。
「っ!あっ……」
考えようとすると
「あは」
黒いナイフみたいなものが飛んできて顔以外の箇所を貫いた。
「あっ、ぐ」
死ぬわけにはいかない。
「あははは!」
貫かれるたびに負傷箇所を癒した。
「ぐっ」
全身を抉られる痛みと直後にやってくる癒し、そしてまた痛みーーその繰り返しで感覚がおかしくなった。しかし徐々に回復が間に合わなくなって
「……あっ」
お腹を貫かれた痛みが落雷のように脳を直撃した瞬間、突如として私の意識が飛んだ。
………
……
…
意識を失ってからどのくらい経ったのか。
「あははは!」
エリザベスのカン高い笑い声が聞こえた。
「妖精王ってこんな程度なの?ほらっ頑張りなさいよ」
それに魔力が弾ける余波が肌を指す感じ。様子から言って誰かと戦闘している。うっすらと瞳を開けた。
「ぐっ!」
「ほらほら!」
視線の先ではエリザベスの放った数百の魔力によるナイフを
「……レオン」
レオンが障壁で必死に防いでいた。その戦況はエリザベス有利。
「がはっ」
レオンの展開した障壁を難なく貫き数十の魔力型ナイフがレオンに突き刺さった。
「へえ」
それでもすんでのところでうまく避けて急所だけはさけられた。ただ
「でも、それじゃ動けないでしょ」
急所をそれただけで手足と肩が避けきれずにナイフが刺さった。
「ヒール!」
私のせいだ。私が人質になってしまったばかりにレオンが傷ついた。全身の痛みで集中できなかったけど、それでもなんとか魔法を発動した。
「起きてたのね。そんな状態でよく発動できたわね。でも、いくら治したってあいつじゃ私の敵にならないわ」
エリザベスは不敵に笑い、魔力により今度は数千という槍を創り出した。
「これは耐えられるかしらね」
そういい。いじめを楽しむ子供のような表情を浮かべ、かざした手をおろした。
「あはは」
数千という槍が迫る。だが、レオンはまだ回復したばかりで動けずにいる。このままじゃレオンが死んでしまう。
「レオン!」
障壁?それとも回復?ーー聖女である私には攻撃魔法がない。障壁で守るか、回復するかしかない。あとは剣で戦うか。
「レオン!!」
目の前で大切な人が死んでしまう。というときに私は何もできない。死んでほしくない。助けたい。だから私は無意味かもしれないけどエリザベスに向けて回復魔法を発動した。
(エリザベスから感じるまがまがしい魔力は魔物に近い)
無意味かもしれない。それでも賭けてみる価値はあると思った。
「ヒール!」
どうか、と祈りながら。エリザベスの足元に魔法陣が展開した。
「ちっ!」
エリザベスは展開した魔法陣を見ると舌打ちして大袈裟に避けた。そして
「大人しくしてろ!」
いまいましいと苦虫をつぶしたような表情で私をみると魔力のナイフを出現させ、私の太ももへ突き立てた。
「っ!」
痛みが電流のように走る。だけど、攻撃を放つ前に大きく避けたことで、魔法は発動せずにレオンに攻撃は向かわなかった。
(よかった……それにしても)
しかしいまだに状況は圧倒的不利なことは変わらない。でも一つ小さいけど光明が見えた。
(私の回復魔法を避けた)
なんとかしてレオンのもとへいかないと。
「やっぱりダメか」
しかしいつだって私は遅い。
「使うしか」
どうしていつも遅いのかーーレオンから感じる魔力の波動が跳ね上がった。
「……レオン」
その魔力は以前に感じたことがあった。
"妖精王の力は封じた"
「ダメ」
主神が口にしていた。
"無理に使おうとすれば死ぬように契約している"
「やめて!ダメ!!」
私の叫びは届いているのに
「大丈夫」
やめてくれない。優しく私を安心させるようにレオンは笑う。そして
「絶対に助ける」
力を解放した。
「ダメェ!」
レオンが死んでしまう。




