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完全世界  作者: 若君
第一章 毎週金曜日更新。
14/30

第十四話 全員集合

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第十四話 全員集合


俺の名は「灰」。コードネーム『消去(イレイザー)』。未成年の少女だ。


そして、隣にいるこの灰髪で、いつもどこか気怠げな笑みを浮かべている男――彼の名は無。一応、俺の師匠ってことになってる。個人的には大っ嫌いだけど、腹立たしいことに認めざるを得ない事実がある。誰も本当の意味で彼に打撃を与えられないんだ。彼の能力は「自己消去」。自らの存在をあらゆる知覚から消し去り、どんな攻撃も空気を通り抜けるように無効化してしまう。

能力が同じ能力者同士が出会うと、予測不能な厄介な事態が起きるって聞いたことはある。でも、彼が俺を「叩く」時、その感覚は不気味で、むかつくほどに腹が立つんだ。


「ただ、手を振った時に生じた衝撃波を『残して』いるだけさ。だから実際には、お前に触れてはいないんだよ」彼はいつもそう涼しい顔で説明する。まるで当たり前のことを言っているかのように。

「風に当てられたと思ってくれよ」

「冗談じゃないよ!」そんな彼の言葉を聞くたび、俺はカッとなって飛び跳ねてしまう。

いつか絶対に、心ゆくまで彼をぶん殴ってやるって、心に誓ってる!

もちろん、今のところ一度も成功したことはない。


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食卓は賑やかで、料理の香りが漂っている。

「それ、俺が食べるつもりだった唐揚げだよ!」灰髪の少女――つまり俺――は、皿に残った最後の一塊の黄金色に揚がった唐揚げを指さし、ぷんぷんしながら抗議した。

「唐揚げばかり食べると体に良くないぜ」灰髪の男――無――は素早くその唐揚げをつまみ上げ、高々と掲げた。口元には小狡い笑みを浮かべて。

「だからな、代わりに俺が処分してやるよ!」そう言うと、遠慮なく大きな口を開けてかぶりついた。

「俺の唐揚げ!返してよ!」俺は即座に跳び上がり、テーブルをぐるぐる回って彼を追いかけた。


「存在しない奴が唐揚げなんて食うなよ!」追いかけながら叫ぶ。

「失礼な奴だな」無は軽やかにかわした。

「俺だって食事はするんだ」口の中の食べ物を飲み込み、付け加えた。

「胃に届く前に『消去』しちまえばいいだけの話だがな…」

(だから太らないんだよな)彼の顔には得意げな表情が浮かんでいた。


「だったら食う必要ないじゃん!」俺は悔しさで足を踏み鳴らした。

「食べ物を無駄にする奴め!」


「あの二人は放っておきなさい」(くれない)の落ち着いた声が、少し呆れつつも笑みを帯びて響いた。

彼女は自分の皿にある、まだ手をつけていない唐揚げを一つ、そっと隣にいる墨緑色のショートヘアの少女の器に移した。

「あなた、もっと食べなさい」

「う…うん」少女は小さく頷き、うつむいた。

彼女は俺たち不死者(アンデッド)の新メンバー。『色欲(ラスト)』の能力を持つ少女だ。

ただ、今のところ、彼女の能力が具体的にどんな影響をもたらすのか、俺にはまだ完全には理解できていない。


「君の指輪…」紅は優雅に自分の皿の唐揚げを食べながら(注:これは先進技術で生産されたバイオニックフードで、安全性と健康を追求している)、少女の何もはまっていない指先を一瞥した。

「明日には渡すよ」そう言うと、彼女の視線は指輪が投影する光のスクリーン上の映像へと移った。

「とにかく、まずは基礎知識を学んで…」

「任務に出るのは、それからだ」紅の口調には計画者の確信が込められていた。


「本当に彼女を任務に出していいんですか?」テーブルの向こう側で、薄緑色の髪の少年――(グリーン)(通常少年形態)――が食器を置き、疑念を込めた口調で言った。

「街全体が大混乱にならないでしょうか?」彼の隣に座る、顔立ちは似ているがより落ち着いた雰囲気の濃い緑色のロングヘアの少女――同じく(グリーン)(少女形態)――が続けて問い詰めた。

「そんなことになれば…」紅の声は相変わらず平静だったが、その目はかすかにテーブルの反対側を掠めた。

「何とかなるさ」彼女の視線の先には、青髪の女性――(ブルー)――に丁寧に食事を介助されている白髪の女性、(ホワイト)がいた。


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「そろそろ部屋に戻ります」白の優しい声が、食卓の喧騒を破った。

「そう、お送りしましょう」青はすぐに食器を置き、立ち上がると、優しく白の車椅子を押し始めた。

「では失礼します」白は軽く会釈し、青に車椅子を押され、ゆっくりと食堂を後にした。

紅は二人の後ろ姿を見送ると、優雅に立ち上がり、席を立とうとした。


「お前たち」紅の視線がテーブルに残ったメンバー――俺、無、緑(少年体/少女体)、(ブラック)(パープル)、そして新しく来た墨緑髪の少女――を一掃する。

「今日は歓迎会だから、任務は課さなかった」彼女は一瞬、無を一瞥した。

「無を除いてな。彼はゲームに負けた罰だ」

「明日からは…」紅の口調が、疑いを許さない指揮官モードに変わる。

「全員、任務に出てもらうぞ!」


「とにかく、今夜はしっかり休め」彼女はそう締めくくった。


「でも、毎日任務に出てる気がするんだけどなあ…」俺は思わず小さく愚痴った。待ち遠しい休みが遠のいていく気がした。

「灰」紅の足が入り口で止まり、振り返らずに付け加えた。

「報告書の修正が終わったら、今夜中に提出しろ」

「休めって言ったじゃんか!」即座に抗議の声を上げた。これは搾取だ!

紅は俺の抗議など聞き流し、墨緑色のショートヘアの少女の前に歩み寄って立ち止まった。


「君は除いてな」紅の声は低く、力強さを帯びていた。

「俺が許可するまでは、勝手に動き回るな」彼女は少し身をかがめ、座っている少女の目線の高さに合わせた。

「命令だ。わかったな?」紅の赤い瞳が、少女の目をまっすぐに見据える。その口調には逆らえない威厳があった。

少女は瞬間、その命令がまるで熱く焼けた烙印のように、刺すような痛みを伴って、強引に自分の脳裏深くに刻み込まれるのを感じた。

「うっ!」少女はうめき声を漏らし、頬が一気に真っ赤に染まった。言いようのないほてりが全身を襲い、苦しさのあまり丸くなりそうになった。


紅は視線を外し、あの無形の圧迫感も収めた。

「どうやら俺の能力は君のものを抑制できるようだな」紅は少女の反応を観察しながら、冷静に分析した。

「君が俺の命令に反抗しようとすれば、自分の能力に反作用される。どうやらその点は確かなようだ」

「この機会に」紅は入り口に向かって歩き出し、意味深な忠告を残した。「自分の欲望をしっかり抑えるんだ」

「さもなければ、外には出さんぞ」言葉が終わる頃には、彼女の姿はドアの向こうに消えていた。


「俺もそろそろ行くぜ」全身を深い闇色の装束に包んだ男――(ブラック)――が立ち上がり、少し疲れたような声で言った。

「明日は間違いなく任務が山ほどあって休めやしない、先に寝る」彼は重々しい足取りで入り口へ向かった。

「では私も失礼します…」存在感が希薄で、まるで背景に溶け込んでいるような紫髪の男――(パープル)――もかすかにそう呟き、音もなく滑るように外へ消えた。


「残りのケーキは僕たちの!」「私たちの!」テーブルの端で、緑(少年体)と緑(少女体)が声を揃えて宣言し、四つの目が皿に残った最後の数切れの繊細なスイーツをキラキラと見つめていた。

「お前たち食べ過ぎだよ、残りは俺の分だってば!」俺は即座に戦線に加わり、スイーツへの権利を主張した。

「君は甘いもの食べ過ぎちゃダメだよ」「健康に悪いからね」二人は息の合った掛け合いで、俺に健康警告を発した。

「何が悪いのさ、俺はまだ若いんだから!」起伏の全くない胸を張り、自信満々に宣言する。


しかし、二人の動きは素早かった。連携して俺の目の前にある目当てのケーキを持ち去ってしまった。

「俺のケーキ返せよ!」新たな追いかけっこが食堂で始まった。俺はカンカンになって、あの狡猾な双子を追いかけた。


墨緑色のショートヘアの少女は、柔らかいソファに一人座り、目の前の混乱しながらも活気に満ちた光景を静かに見つめていた。

彼女の頬の紅潮はまだ完全には引いておらず、体内で無理やり抑え込まれた抑えきれない衝動がじんじんと疼いていた。

(抑制…もしも私にこんな能力がなかったら…)少女の瞳は次第に焦点を失い、ぼんやりと困惑したものになっていく。

(何かをしなければ、体内の能力に飲み込まれてしまうような感覚…)その思いが重く心にのしかかり、果てしない疲労をもたらした。

誰も気づいていなかったが、今、建物の周囲の鳥や虫、そして植物さえもが、まるで無形の糸で引っ張られるように、屋内の動き、特にソファの上の彼女をじっと「見つめ」ていた。


「やあ~」どこか気怠げな笑みを含んだ声がすぐそばで響いた。灰髪の男――コードネーム無、能力:自己消去――が、いつの間にか彼女の隣のソファに座っていた。

少女の視線はぼんやりと彼に向けられた。

灰色の髪、灰色のダボダボした上着、やや細めの四肢。

明らかに成人の男性なのに、彼女の心は静まり返り、さざ波すら立たなかった。

いつも蠢き、外へ向かって探ろうとするあの欲望の力が、彼に向かう時には、発動することすらできなかった。

「あなたは…人間ですか?」少女は困惑した口調で尋ねた。声には濃い疲労がにじんでいた。


「そうとも言えるし、そうでないとも言える」無は肩をすくめて、曖昧な答えを返した。

「俺を存在しない男だと思ってもいいし…風みたいな男だと思ってもいいさ!」彼は冗談で場を和ませようとしたが、それが本当に冗談なのかどうか、誰にもわからなかった。

少女は彼の言葉を聞いていたが、笑みは浮かべなかった。ただ、どんどん深まる疲労感に襲われ、鉛を注がれたかのように瞼が重くなり、ほとんど支えきれなくなっていた。


「『完全体』になる最初の数日は、みんなこんな感じなんだよ…」無は彼女が昏睡状態に陥ろうとしているのを見て見ぬふりをしたかのように、独り言を続けた。その声は自然現象を説明するかのように平然としていた。

「特に精神系の完全能力者は、初期が一番辛い」

「あまりに膨大な力をまだ完全には制御できず、かえって能力に反作用されやすいんだ」

少女は必死に意識を保ち、彼の言葉をはっきり聞こうとしたが、意志は身体の限界に敵わず、まつげが数度震えた後、ついに力なく目を閉じた。


「最後にこうして『眠る』のは、身体がその反作用の力に耐えきれなくなるからだ」無は意識を失った彼女の安らかな横顔を見つめ、声を幾分低くした。

「まるで気絶するかのように、深い眠りに落ちる状態と言えるな」

少女の身体は支えを失い、柔らかいソファのクッションにぐったりと横たわった。呼吸は均等で長くなっていった。


無は表情一つ変えず、眠る彼女の姿を凝視した。灰色の瞳の奥に、解読不能な感情が一瞬走る。

「俺は思うんだ…」彼はほとんど声にならないほどのかすかな声で呟いた。まるで虚空に語りかけているのか、それとも眠る少女に打ち明けているのか。

「こんな風に、この能力を『冷凍』してしまうのが、おそらく最善の選択なんじゃないかって…」

まるであの「イヴ(夏娃)」システムによって危険性が過大と判定され、能力と存在そのものを冷凍保存された他の能力者たちのように。


(白は…何を考えているんだろう…)そんな思いが彼の脳裏をかすめた。

彼は灰色の上着のポケットから、ささやかな小さな箱をゆっくりと取り出した。

蓋を開けると、中には他の不死者(アンデッド)メンバーと同じ金色の指輪が一つ、静かに横たわっていた。


彼は指輪を取り出し、自らの薬指にはめた。

指輪が肌に触れた瞬間、かすかな光が一瞬走ったように見えた。

「イヴ」彼は街の核心システムを静かに呼んだ。

半透明の光のスクリーンが即座に指輪から投影され、彼の目の前の空中に浮かび上がる。

彼はスクリーン上を高速に流れていく、複雑きわまりないデータの奔流を凝視し、眉をわずかにひそめた。その表情は珍しく険しかった。


「やっぱりな」彼は理解と重苦しさを帯びて呟いた。

「どう計算し、どうシミュレートしても、この街における『色欲(ラスト)』能力の影響は…」その後の言葉は静寂の中に消え、残ったのはスクリーンの冷たい光に照らされた、彼の思索に沈む横顔だけだった。


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