第13話 第九回歓迎会
第13話 第九回歓迎会
目が覚めると、見知らぬ場所だった。
完全能力を手に入れたはずなのに――ここの人々には全く効かない。
逃げようとしても阻まれる。
少女は手のひらのパンを見下ろす。
(食べたら頭が少しクリアになった……でもあの奇妙な感覚はまだ残っている。)
視線を上げ、食堂で騒ぐ人々を見渡す。
「パンばっかり食べないで、他の料理も食べなよ!」
灰色の髪の少女が隣に座り、キーボードを叩きながら文句を言う。
「三つも報告書なんてありえない――!!」
(他の料理…)少女はテーブルの料理を見つめる。
ゆっくりと手を伸ばす。
「フォークを使いなさいよ!」グレイが慌てて彼女の手を掴む。
少女ははっとし、静かに彼女を見つめる。
「ほら、これを持って」グレイはフォークを手に握らせる。
「パンはともかく、他の料理は出来立てなんだから」
そう言いながら、空中に投影された任務ウィンドウをちらりと見る。
「はあ、私もお腹空いてるのに…報告書が終わってない…」
「なんで現代人はこんなに報告書書かなきゃいけないの?」
「イヴに任せればいいじゃん!『精神鍛錬』だとか言って!」ただボーっとしたいだけなのに!
ぶつぶつ文句を言いながらタイプし続ける。
少女はフォークを握りしめ、静かに料理を見つめる。
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「そういえばレッド、彼女のコードネームどうするか決めた?」
黒髪の男性が食べながら口を開く。
コードネーム:『黒』、能力は『死』(完全体)。
「今考える」彼女は培養肉のチキンナゲットを一口(バイオテクノロジーで作られた模造食品だ)。
「今までは髪の色で決めてた」
他のメンバーを見渡す。
「いよいよ直面する時が来たか…」色が被ってしまった。
「最初は色分けがいいアイデアだと思ったのに…」
「絶対に七人を超えないと思ってた」
大失算だ。
「薄緑と濃い緑を使うか…」考え込む。
「ダメ!ダメ!」二つの声が同時に響く。
「それじゃあ私たちと同じじゃない!」
薄緑色の髪の少年が言う。
「そうだよ!そうだよ!」
濃い緑の長髪の少女が同調する。
コードネーム『緑』、能力は分裂、自分を二つの個体に分けられる。
「一つに戻ればいいじゃん」
黒が横から口を挟む。
「二人いるとちょっとうるさい…」
「ケーキ食べたい!」
「二人で食べる!」
「そうすれば二倍楽しい」
二人は声を揃える。
「やっぱりうるさい…」
黒は呆れ顔だ。
「さあ、白、口を開けて」
青髪の女性がスプーンでスープを白に食べさせる。
コードネーム:『青』、能力は反転、認知内の物質や現象を反転させられる。
「ありがとう」白が言う。
「自分で食べさせればいいのに?」
存在感の薄い薄紫色の髪の男がぽつりと言う。
コードネーム:『紫』、能力は否定、自分の存在を否定して他人に見つからなくできる。
「あなたにはわからないわ」青が言う。
「わからん…」肉を一切れ口に運ぶ。
「食べた気がしない、あ、味覚を否定しちゃった…」
彼の能力の副作用は、否定したことを忘れてしまうことだ。
「そのうち自分の存在ごと否定しちゃうんじゃないの?」
「そうなったら誰も見つけられなくなるよ」
そしてそのことさえ忘れてしまう。
「わかってる…」
「だからみんなの記憶の一部を否定してるんだ…」
でも、やっぱりバレた。
彼の視線はレッドに向く。
「私の能力に挑もうとしても無駄よ」レッドは冷たく言い、肉を食べる。
「私は自分が知っていることだけを信じる」
「任務を倍にする」
「うっ…」
「任務苦手なのに…」小さく呟く。
「書き終わった!」灰色の髪の少女がはしゃぐ。
「ケーキ食べていい?食べてもいい?」期待に胸を膨らませる。
「見せて」レッドは報告書を開く。
「書き直し」冷たい一言。
「なんでよ!」
「報告書の中に反省が全くない」レッドが指摘する。
「イヴ、削除」ファイルは消去された。
「報告書って私の考えが重要なんでしょ!」
「私の考えを聞きたいなら、正直に書いたまでだよ!」
反省の欠片もない内容だった。
「本当に自分が悪いと思ったことを書け」
「でも悪いと思ってないのに書いたら嘘になる」
「書き直すまでケーキはなし!」
「くそ…」すぐに書き直し始める。
レッドは隣で美味しそうに食べる少女を見る。
「はあ、イヴ、組織でまだ使ってない色のリストを出して」
画面の情報を見つめる。
「どれどれ~」緑の髪の少年が覗き込む。
「結構残ってるじゃん」黒髪の男性も顔を寄せる。
「ところで『無』さんのコードネームって色じゃないよね…」存在感の薄い男が言う。
「あの人はあえて違う名前にしたがったから」
青髪の女性が説明する。
おかげでグレイと被らずに済んだ。
「えー…いいなぁ、『無』って響きがカッコいい…」
存在感がなさそうで。
「暑いわよ、私の周りに集まらないで!」
中央のレッドが怒る。
「白、選ぶ?」レッドが尋ねる。
一同は白を見る。
「いいえ、皆で決めてください」白は微笑む。
「答えを先に聞こうとしたわね、それはダメ」青がからかう。
「ただ聞いただけ」レッドは呆れ顔だ。
「まだ黄色やオレンジがあるわ、これどう?」
「でも彼女には合わない気が…」
「その色の服を着ればいいんじゃない?」
「いや、コードネームの色に合わせて服を着るなんてルールないでしょ…」
「黒はそうしてる」一同の視線が黒に集まる。
「あまり似合わない気がする」
「同じ色ばかり見てると飽きる」
「じゃあ俺の話はするな…」
黒が好きなだけなのに…
「『墨』はどう?」レッドは色のリストを見ながら言う。
「それって黒じゃないの?」
「彼女の髪も墨緑色だし」
緑の要素を抜けばいい。
画面を閉じ、向かいで食べる少女を見る。
「とにかく、今日からあなたの名前は『墨』よ」
レッドが宣言する。
「名前?」彼女はきょとんとし、報告書に没頭する灰色の髪の少女を見る。
「彼女は『グレイ』、対外的には『消去』、好きな方で呼べばいい」
「前に言った通り、私はレッド、他のみんなも髪の色で呼んでる」
そうすれば見分けやすいからね。
「ちょっと待った!」空中から突然男の声が響く。
「俺がいない間に歓迎会か!」口だけが空中に現れる。
「やあ、二回目かな?」
灰色の髪の男性が現れる。
「俺は『無』だ、よろしく」




