バーチャルらしいことがしたい(3)~死に戻りってそりゃないでしょう~
農夫のような恰好をした小野は手錠をかけられ口を縄で縛られた状態で牢屋に放り込まれる。
牢に着くまでの間はステータスの振り方に悔みながら、離せ、離せと声にならないうめき声で訴えることしかできなかった。だがもう遅い、看守の拘束から解放されたが牢に入れば家畜と同様、冷や飯を待つだけの日々が続くのだ、
「一日反省しやがれ、変態野郎」
看守がゴミを見るような目で小野を見て唾を吐き捨て牢を後にする。
「ステータスの振り方間違えただけで地獄のような展開になったな」
看守は牢の前に座り小野が逃げ出さないか監視している。牢に入れられてから二時間が経過し、看守は大きくあくびをしているどうやら監視することに飽きている様子だ。看守は急に笑いだしたり泣いたりと、気でも狂ったのかと思い看守同士の会話に耳をたてる。
どれだけ感動的な話をしているんだか、小野は暇を持て余していることも相まって、話の内容が気になってしょうがない。
話の内容を要約するとこうだ。
二十代の女性リリーが室内で料理をしていると背後から刀を持つ魔人に襲われそうになったそこでリリーは手元にあったナイフで魔人の腹をひと突き!魔人を撃退したらしい。撃退してハッピーエンドに思われたがリリーはなぜか捕まってしまった。王の客人を殺傷しようとしたことが理由らしい。
王の客人とはいえ許されていい行為ではない、世論も同様の考えのようで判決は物議を醸している。
小野が聞き耳を立てていると同じ牢の中に一人の男が放り込まれる。
薄紫の肌にエルフのように尖った耳、魔人で間違いないだろう。
小野は先程のニュースの犯人なのではないかと疑い深く観察する。だがしかし彼の体には刺し傷は見当たらなかった。そもそも王の客人が捕まるなんておかしな話だ、只の思い過ごしだろう。
小野は数時間しか変わらないのに先輩面をしながら話しかける。
「おい、あんた。見覚えのある顔だな、どこかであったことはあるかい」
「忘れたのか? 一緒に転送されたプレイヤーの一人だよ、名前はジンよろしく」
本当に面識あったんだ。
魔人ことジンは好青年で笑みを浮かべて握手を求めてくる。
魔人ってもっと根暗で不愛想な奴を想像していたから予想外だった。
小野は握手をした後「そういえば職業選択はどうなった?」とジンに尋ねる。
「職業選択の話し合いは小野が帰ってきてからすることになったよ、今頃皆は暖炉で暖まりながら菓子でも摘まんでるよ」
小野は自分がそこにいる姿を想像し仮初めの幸福を味わうが、すぐに我に返って質問を続ける。
「ジンはどうして牢獄に来たんだ?」
「小野が寂しがってるんじゃないかと思ってさ」
「なんて慈愛に満ち溢れた男なんだ! イケメンだなジン!」
「冗談はこのぐらいにしてと」
「冗談なんかい」
「人型のモンスターを討伐するようにエルタニアの王から依頼されてね、それでモンスターらしき女性の後頭部をフライパンで殴ったんだ。そしたらその女性はモンスターではなく人間だったらしい。それで殺人未遂の容疑で牢獄に連れてこられたんだ。あそこにいる暇そうな看守によってね」
ジンは業務を放棄して談話を続けている看守を指す。
「ジンは一生牢獄の中で暮らすことになるのか、さっさと魔王を倒して開放するからな」
小野は自分よりひどい状況下にいるジンに同情していた。
「気に病むことはないよ、ここまでは大方計画通りさ、女性を殴ったと、いちゃもんを付けられたこと以外はね」
「大方計画は失敗してそうだな」
ジンは女ではなくモンスターをフライパンで殴ったと何度も主張を続けた。
「でも牢獄にくるつもりだったんだ。少し計画が前倒しになっただけ、あれもこれも全て計画通りだよ」
「うん、たまたま上手くいっただけだな、偶然の産物だね」
「なんで牢獄に来たかったのか教えてくれないか、くさい飯でも食べにきたのか?」
「この牢獄でしか習得できないレアスキルがあるんだ。それを狙ってここに来たんだよ」
「レアスキル?! 必ずじゃんけんに勝てるようになるとか?」
「そんな地味なスキルじゃないよ、ゲームを有利に進められる強力なスキルだと聞いたよ。詳細は分からないけどね」
小野の目にはジンが頼もしい先輩のように見えた。
「随分と詳しいんだな! ジン」
ジンは鼻頭を指でこすり誇らしげな様子だ。
「このゲームは三回目の参加だらね」
「三回目?! ジンがいれば魔王討伐も楽勝じゃん!」
ジンは照れくさそうに後ろ髪を触る
「やめてくれよ、まだクリアしたことないんだから」
「クリアしたことがない? でも三回目の参加って……」
「そうそう、毎回、魔王陣営のプレイヤーに負けちゃうんだよね。戦闘が苦手でさ。所謂死に戻りってやつかな、強くてニューゲームなことには変わりはないからさ。大船に乗ったつもりでなんでも聞いてよ!」
良い奴だけどどこか頼りないジン。
「誰かジンに死に戻りのスキルを与えて……」
小野は戦艦ヤマトが幽霊船になったような気分になっていた。
次回に続く。