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ブラック・パペット   作者: 氷川泪
第一章 黒いパペット
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最低の人間


「きみたち知り合い?カレはイヌカイくんか。で、きみの名前は?」


 わざとらしい笑みを浮かべて、銀髪が楓に(たず)ねる。


「あの、この車ってあなたたちの車ですよね」


「そうだけど?」


「のんびり自己紹介なんかしてないで、はやく車をどかして下さい。下に人がいるんですよ」


 楓の正論に、銀髪の顔から笑顔が()がれ落ちた。


「おれに命令するんじゃねぇよメス豚。死にてぇのか?」


 人に対して絶対に言ってはいけない言葉を銀髪が喚き散らした。

 ひとしきり捲し立てると、銀髪は床に転がっていた缶コーヒーを拾い上げて一気に飲み干した。


「微糖かよ。脳みそに糖分がいかねぇとどうにもイラつくんだよな」


 つきものが落ちたように落ち着いた口調で呟くと、銀髪は空き缶を投げ捨てておれに顔を寄せた。


「お前の彼女か?」


 答えあぐねていると、背中に鋭い痛みが走った。背後の昌二がナイフでおれの背中を抉ったらしい。


「ち、違う。ただの知り合いだ」


「じゃあただの知り合いちゃん、スマホを捨ててこっちへおいで」 


「言う事を聞きますから、店長さんを助けさせて下さい。ついでに犬養さんも」


 スマホを投げ捨てた楓が銀髪に近づいてくる。


「約束するよ、知り合いちゃん。大丈夫だ。悪いようにはしねぇ」


 銀髪がおれに向けてウィンクして見せた。こういう態度を取る奴が約束を守るとは到底思えない。


 案の定、楓が車に駆け寄ると、昌二が楓の髪を(つか)んで腕を()じりあげた。表情に乏しい奴だと思っていたが、楓の髪に鼻を近づけてくんくんと匂いを嗅ぐ様は(ひど)く嬉しそうに見えた。


「じゃあ行こうかイヌカイくん。下手な真似したら女の腹を刺す。すっげぇ苦しいうえに、死ぬまでに結構時間がかかる場所だ。正直気の毒で見てらんねぇぞ」


「約束は守るから彼女を離してくれませんか?人質ならおれひとりで充分でしょう」


「かっけぇじゃん、イヌカイ。おれが女だったら処女を(ささ)げちゃうかもな。だけど提案は却下だ。男なんか殺しても面白くねぇんだよ。豚みたいにぎゃぁぎゃぁ喚くだけで、みっともねぇったらありゃしねえ」


 この男は本物のクズだ。だけどそのクズに、おれと楓、この店の店長は命を握られている。


「楓さん、ひとまずこの二人の言う事を聞きましょう」


 昌二に体を拘束されているかえでが(うなず)いた。おれは楓に頷き返すと、RV車の荷台にあるジェラルミンケースに手を掛けた。

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