マドーラの革命(4)
マドーラ公爵邸には、反乱を起こした若者たちが詰めかけてきていた。
先頭に立っていたベルトは、明るい邸内からアイラたちが出てきたことに気づくと怒声を上げた。
「ライア、ルル! お前たちよくも裏切ったな!」
のんびりと屋敷の中から出てくればそう思われても仕方がない。
しかしワンピースのような寝間着を着たアイラを見たベルトたちは、一瞬、別のことに意識を捕らわれて怒りが消えたようだ。
彼らはぽかんとした顔でアイラを見て、呟く。
「……女?」
クワやナタ、ナイフや弓などを手に持ったまま、ベルトもジスもみんな固まってしまった。ジスの隣にはスコップを持ったテレジアもいて、彼女も驚いた表情をしている。若者の集団の中には女性がちらほらいたが、みんなあまり戦力になりそうもない。
「やっぱ可愛い」
フォンクがまじまじとアイラを見て言うと、ベルトはハッとして話を戻す。
「親父が、ライアたちが急に用事ができたって家を出て戻らないって心配してたんだ。それにお袋は昨日ルルに領主の屋敷がある場所を聞かれたって言ってたから、ピンときた。お前らは俺たちのことを領主に密告しに行ったんだって」
ベルトは手に持っているナタを強く握りしめたまま、こちらへ一歩踏み出した。
「お前たちは貴族としての生活が忘れられなかったんだろ。俺たちみたいに豚の世話をして生きていくのは嫌だったんだ。だから俺たちを領主に売って、代わりにまた優雅な暮らしをするための手助けをしてもらうつもりだッ! 裏切りやがって!」
アイラたちが裏切ったと完全に思い込んでいるベルトは頭に血が上っているらしく、ナタを振り上げアイラに走り寄ってきた。ベルトは真面目な人間だが、だからこそ他人の裏切りも許せないのかもしれない。アイラやルルのこともきっと信用してくれていたのだ。
そしてベルトが動き出したのをきっかけに他の若者たちも再び騎士に向かっていく。屋敷の周囲に怒号と勇ましい叫び声、そして若者たちの武器と騎士たちの剣や盾がぶつかる鈍い音が響き渡った。
アイラはその騒音に眉をひそめながら両手を持ち上げ、こちらに向かってくるベルトを含めた全員に向ける。
「落ち着け」
若者たちも騎士も、戦っている全員を魔力で包むと、アイラは彼らを宙に浮かせた。そばに生えている木よりも高く持ち上げると、みんな悲鳴を上げる。騎士たちは「また!?」と驚きつつも、二度目なのでいくらか落ち着いてじっとしている。
一方、若者たちは何が何だか分からず混乱していた。
「何だこれは!?」
「怖い! 浮いてるわッ」
「一体何がっ」
「助けてくれ!」
ポルティカで船を逆走させたことに比べると、百人以上の大人を持ち上げるのは簡単だった。
空中でバタバタしながら情けなく悲鳴を上げるフォンクのそばで、ベルトは両手のひらをこちらに向けているアイラを見て叫ぶ。
「ライア、お前がやってるのか!? 魔法が使えたのか?」
「うん」
素直に頷いたアイラは、そこで屋敷の門の外にも騎士と若者以外の人間がいることに気づく。暗闇に灯りがいくつか見えたのだ。
そしてその灯りに顔を照らされているのは、年齢的に、ここに来ている若者たちの親のようだった。ベルトやフォンクを心配して来たらしいアラドもいる。
アイラが裏切ったと思ってベルトたちは急いで他の若者の家に声をかけて回ったのだろうし、多少騒ぎになって親も気づいたのだろう。夜中に息子や娘が武器を持って家を出て行けば不安になってついてくる気持ちも分かる。
親たちは武器を持っていないので本当に心配をして来ただけのようだ。保護者付きの反乱というのも珍しい。
アイラはアラドたちから視線を移し、空中で悲鳴を上げて騒いでいる若者たちを見た。そしてベルトに向かって言う。
「貴族の生活が忘れられないだとか、豚の世話して生きるのは嫌だとか、私のことを勝手に想像して決めつけるなよ。そんなこと考えてない。私が考えていたのは、パッシェにもお前たちにも死んでほしくないということだ」
屋敷の玄関では、公爵一家が身を寄せ合っていた。マーカスたち三人は震えているが、パッシェは杖を持ちながらも背筋を伸ばして立っている。
「パッシェは有能だ。失うには惜しい。そして私はお前たちにも死んでほしくない。エストラーダの大事な国民だから」
「パッシェって……」
フォンクが戸惑って呟く。アイラの、まるで公爵よりも偉い立場にいるような言い方にみんな引っかかっている。
「ライアは自分のこと王子だと思い込んでるとしても……」
フォンクは、公爵一家がアイラに怒らないことを不思議に思った。無礼だと怒鳴りつけていてもおかしくはないのに。
それにアイラは自分のことを王子だと思い込んでいるはずなのに今は普通にワンピースを着ている。あとはこの魔力。気になる点がいくつもあって、フォンクやベルトは黙り込んでしまった。
他のみんなも大人しくなったので、アイラは彼らを地上に下ろした。
「話をしよう。お前たちがお互いに話ができるよう、私はここに来たんだ。攻撃しようとする奴は、今度はもっと高く空に飛ばすからな」
話をしようと言いながら脅すアイラだったが、みんな空に飛ばされるのは嫌だったので神妙な顔をして言うことを聞いた。
「で、何を話すんだ?」
ジスはアイラの後ろを睨みつけながら尋ねてくる。公爵一家が護衛の騎士に守られながらこちらにやってきたのだ。
両者が揃い、親たちも状況を見てそろそろと近づいてきたところでアイラは話を始めた。
「まず、お前たちが反乱を起こすに至った原因を整理しよう。原因をパッシェたちにも聞かせて、改善してもらうんだ」
「改善なんてするはずがないさ」
「まぁ聞け」
アイラはジスを制して続ける。
「一つ目の原因は、元々公爵一家の印象が悪かったってこと。これはパッシェたちが悪い。改善するように」
上司のようにパッシェたちに物を言うアイラに、ベルトたちですら少しひやひやした。
アイラは詳しく続ける。
「パッシェは自分や家族の利益を一番に考えている節がある。自分が危険な目に遭わないよう、損をしないように動いていて、それが結果的に領民の安全や利益に繋がっているだけという部分もあるだろ? 養豚業を進めたのも、一番の目的は領民を豊かにするためではなく、領地を栄えさせるためだろう」
パッシェは言い訳することなくアイラの話を聞いていた。
「パッシェは領民のことを全く考えてないわけじゃないが、もっと考えていいんじゃないか? 損得だけでなく情を持つことは必要かもしれない。それに自分の考えを領民にもっと話したり、領民の意見を聞く機会を設けた方がいいと思う。庶民や若者を見下すことなく、聞く耳を持つことだ」
情ばかり持って優しいけれど領地経営には向いていない領主でも駄目だし、為政者というのは難しい。と、話しながらアイラは思った。
パッシェはゆっくりこう言って頷く。
「分かりました。善処します」
アイラが恐ろしいから意見を受け入れたのではなく、おそらく悪い意見じゃないと思ったからパッシェは聞き入れたのだろう。
アイラはさくさくと次の議題に移る。
「二つ目。マーカスとテレジアの結婚の件。これは全面的にマーカスとレジーナが悪い。結婚は取り消し」
「わ、分かりました」
「そうします……」
マーカスとレジーナはパッシェと違い、アイラに逆らうのが怖くて了承した様子だ。
「え? 取り消し? 本当に……?」
テレジアは、自分の命を犠牲にしても拒否したいと思っていたマーカスとの結婚話があっさりとなくなったことで、目をぱちくりさせながら呆然としていた。目の前にあった大きな障害を急に取り除かれたら、人間はこんな顔になるらしい。
「一体何が……」
ジスは先ほど宙に持ち上げられた時と同じくらい混乱した様子だったが、テレジアに手を握られると、そちらを見てぎゅっと手を握り返していた。今は展開に面食らっているので、愛する相手と結婚できる喜びを爆発させるのはもう少し後になりそうだ。
他の若者、そしてその親たちも、アイラの言うことを素直に聞く公爵一家を見て驚き、口をぽかんと開けている。
みんな話がちゃんと頭に入ってこない様子だったが、アイラはそれに気づかず続ける。
「最後、三つ目。徴税について。さっきも私は話を聞いたけど、領民にも詳しく説明してやれ。徴税は隣国との戦争に備えてってことで行ったんだな?」
「はい。少し厳しい取り立てになったのは事実ですし、少ない金額ではありませんでしたから一時的に領民の生活が苦しくなったのも理解しています。しかしもしもの時に備える必要がありました」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
ベルトが動揺しながら話を止めた。
「徴税の話の前に、一つ聞きたいことがあるんだが……ライア、お前は一体誰なんだ? なぜ公爵一家と対等以上に話しているんだ」
他のみんなも「そっちの方が気になる」というように頷いている。アイラは自分の正体を話そうかどうしようか迷ったが、結局パッシェが説明してくれた。
「この方はこの国の元王女、アイラ様だ。田舎に住む庶民のお前たちでも、魔力を操る美しい王女の噂くらいは聞いたことがあるだろう」
「お……王女!?」
叫ぶように言ったのはフォンクだ。ここにいる領民全員、驚きすぎて目がこぼれ落ちそうになっているし、口が閉じなくなってしまったようだ。
「王女って……」
「王女……」
みんな「王女」としか言葉を発せられなくなってしまったらしく、ただそれを繰り返している。よほど衝撃の事実だったらしい。
神のように敬われていた王族が、庶民のような恰好をして自分たちに混じって行動していたことが信じられないのだ。
息子たちを心配してここにやって来ていたアラドとバーラは、表情を凍らせて呟いた。
「も、元王女を物置部屋で床に寝かせて、豚のフンの片づけをさせちまった」
「わ、私たち処刑されてしまうわ……」
アイラの正体に驚いたみんなが静まり返っていたので、少し離れたところにいたアラドたちの呟きはアイラの耳に届いた。
アイラはアラドとバーラの方を見て言う。
「処刑なんてしないさ、そんなこと。今の私にはその権限がないし、何より世話になったことは感謝してるんだから」
そう言われるとアラドたちはホッとした顔をした。一方でフォンクの顔はずっと青かったが、その理由を知っているのはこの場でルルだけだ。
「で、徴税についてだけど。お前は本当に戦争が起こるって危惧してるのか?」
「隣国ネツィアとの戦争は差し迫った危機だと考えています」
「何故そう考えているのか、みんなに説明してやれ」
アイラにそう言われると、パッシェはやや面倒そうではあったが領民の方を向いて話を始める。
「東の隣国ネツィアは、簡単に言えば我が国のライバルのような存在だ。国力も同じくらいだからな。昔は大きな戦争も起こったし、小さな諍いもずっと続いていた。しかしここ十年ほどは、ネツィアは我が国に対して挑発的な行動を取ることはなかった。それはアイラ殿下が抑止力になっていたからだと私は確信している」
そこでパッシェはアイラの方を見て尋ねてくる。
「アイラ様がまだ幼い頃、先代の国王陛下は、ネツィアを含めた周辺国の要人たちを招いて友好のための食事会を開かれました。覚えていますか? その食事会の本当の目的は、アイラ殿下の超人的な力を周辺国に見せつけるためだったと私は思っています」
「ああ、覚えてる」
アイラはあごに手を当て、宙を見上げて記憶を探った。
「確か余興をやれって言われて、大きな庭木を引き抜いて持ち上げさせたり、小石を矢みたいに飛ばして的を射抜くよう父に言われた。軍隊の動きを魔力で止めて、丸ごと一団戦闘不能にすることもできると自慢していたな。今思うと、確かに父の目的は私という戦力を見せつけて、周辺国に威嚇することだったんだろう」
実際、わざわざアイラの父が用意させたいくつもの人型の的の頭を小石で連続して打ち抜いた時、異国の要人たちは顔を引きつらせていた。小石一つで、アイラはここにいる全員の頭を次々に打ち抜くことができると悟ったからだ。
パッシェは再び領民の方を見て言う。
「その食事会以降、ネツィアは分かりやすく大人しくなった。けれど今、またかの国が水面下で動いている気配を感じる」
「気配を感じるって?」
何かそういう能力でもあるのかと、ジスが片眉を上げて質問した。
しかしパッシェには超能力などありはしない。厳格な表情で答える。
「ネツィアには調査員を送り込んでいるのだ」
「え? そんなこともしてたのか」
「私だけでなく、ネツィアを警戒して人を送っている領主は他にもいる。特別なことではない。逆にネツィアの密偵も我が国に少なからず入り込んでいるはずだ」
密偵が入り込んでいると聞いて領民たちはざわめいた。
それを落ち着かせるようにパッシェは言う。
「これも特別なことではないし、あまり深刻に考えることでもない。大抵は市井で一般市民に紛れて暮らし、定期的に情報を本国に送る程度。国と国との関係で、相手の国を調査するために秘密裏に人を送るのは普通のことだ。王の側近などに密偵がいれば問題だがな。そして心配せずとも、大した情報も流れて来ず、他人との距離が近いマドーラにはまず密偵はいないだろう」
冷静に話をするパッシェを見て、みんな少し印象を変えたようだ。若者たちは小さく呟く。
「領主って、異国に人を送ったりとかそんなこともしてたのか」
「領内のことだけやってるのかと思ってた」
「ネツィアなんてここから遠いし、気にしたことなかったな」
パッシェは説明を続ける。
「ネツィアが襲ってくるのではと私が危惧している要因は二つ。一つ目は今言ったように、アイラ殿下というネツィアにとっての脅威がいなくなったこと。二つ目は、我が国でエストラーダ革命が起きたことで、隣国ネツィアの国内情勢も不安定になっているということ」
指を二本立てた後、パッシェは厳しい表情で言う。
「エストラーダほどではないがネツィアも王族の力が強い独裁国家で、我が国で革命が起きて以降、ネツィアでも王族を倒そうという気運が高まっている。まだ反乱が起きるほどの大きな動きではないが、ネツィアの王は危機感を抱いているようだ」
アイラはすでに先ほど聞いた話ではあったが、興味を持って耳を傾けた。
パッシェは続ける。
「そこで反乱を起こさせないため、ネツィアの王はエストラーダと戦争を起こして国民の意識をこちらに逸らすかもしれない、と私は考えている。ネツィアのことを知らないお前たち領民からすれば杞憂に思えるかもしれないが、調査員からの情報や過去のネツィアの行い、ネツィアの王の性格などから私はそう予見し、戦争は近いうちに起こるとほぼ確信している」
戦争という言葉に息をのんだ後、ベルトはパッシェに尋ねる。
「近いうちって、どのくらい……」
「今年中。遅くとも来年だろう」
今は夏だから、今年と言うとあと半年も残っていない。
「マドーラはネツィアと接しているわけではないが、大きな戦争になれば王都に近いここも戦火に巻き込まれる可能性はある」
そこまで言われてやっと領民たちは危機感を感じてきたようで、表情に焦りが見え始めた。
「それを最初から説明してくれよ!」
「したが」
「こんなに詳しい説明はなかったぞ!」
「……そうか」
パッシェは敬語を使わず話しかけてくる若者への不満と、自分の説明不足を反省している様子で眉間に僅かに皺を寄せた。
アイラは若者たちに向かって言う。
「私も領民から集められた税の使い道を確認したが、本当に戦争の備えて武器を買っているようだった。武器はまだなかったが、武器商人とのやり取りの手紙や、どんな武器を買うべきかと他の領主に相談している手紙が残っていたぞ。誰からいくら納められたか帳簿もつけてあった。食料や医療品、領民のための備えもしてある。お前たちも見せてもらえ」
「じゃあ……この屋敷の改築のお金は? 俺たちから集めた税金を使ってるんじゃないのか?」
ベルトは公爵邸を指さして尋ねた。パッシェは不快そうに答える。
「私費だ。私はマドーラ領主だし豚肉加工会社も経営しているんだぞ。収入は十分ある」
「……そう、か」
反論の言葉もなくベルトは納得した。一度誰かを嫌いになると、その人物のやることなすこと気に食わなくなり、不正しているのではと疑ってしまうのだろう。
アイラは腕を組んで言う。
「私は徴税は悪い判断とは思わない。敵国が攻めてくる可能性が十分あるから、多少厳しく徴税するのも分かる。お前たち領民にとっては唐突な取り立てかもしれないが、エストラーダ革命が起こって実際に突然状況が変わったのだから、急な徴税になるのも仕方がない。パッシェはベルトたちが考えてるほど悪人じゃない」
アイラがベルトを見ると、もう武器を持つ手には力がこもっていなかった。
アイラは今度はマーカスとレジーナを見て続ける。
「で、一番の問題はマーカスだ。レジーナもだけど。パッシェは領主としては完ぺきではないが有能な方だと思う。だがマーカスは次期領主の器じゃない。頭も良くないし領民のことを全く考えられていない」
「なっ……!」
頭も良くないと言われて、マーカスは一瞬真っ赤になって怒鳴り返そうとした。しかし目の前にいる相手が魔力を操る元王女だと思い出して、結局言葉を飲み込んだ。
アイラはアイリーデでも自分の叔父にこんなようなことを言ったなと思いながら、マーカスに警告する。
「今から頑張らないと、パッシェが引退した後に領民にまた反乱を起こされるかもしれないぞ。その時お前が庇う価値のない領主であれば、私は今度は間に立つことはしない」
自分の前に立って視線を合わせてくるアイラに、マーカスはおどおどと目を伏せた。
「分かってるか? 生まれ持った地位にあぐらをかいていては駄目なんだ。王族ですら処刑され、私だって今や庶民だ。エストラーダの公爵でマドーラ領主という立場も、努力しなければ簡単に失うことになる。サンダーパトロスが言ってた。『民があっての王』だということを忘れるな」
「サンダーパトロス?」
有名な異国の賢王の名を聞いても頭を傾げるマーカスを見て、パッシェは険しい顔をした。そして次にはため息をついてアイラに言う。
「確かに少し甘やかして育てました。マーカスもレジーナも、責任を持って今から厳しく勉強させます」
「うん。お前たちもそれでいいな?」
アイラは若者たちの方へ顔を向けて尋ねた。彼らは若者同士で顔を見合わせた後、「ああ」と頷く。
「反乱を起こすなら、次はよく考えるんだぞ。人数でお前たちが勝っていると言ったが、戦ってたら負けていた。だって相手は騎士だぞ。日々鍛錬している、戦いや護衛の専門家だ。武器の扱いだって慣れてるし、人を殺す覚悟もある」
ベルトたちは騎士が持っている剣を見て、少し表情を曇らせた。
アイラは胸の前で腕を組んで続ける。
「そしてお前たちが騎士を倒し、公爵を殺したとしても、その後どうなる? 王都かアイリーデか、パッシェと繋がりが深い他の地域から応援が送られてきてお前たちは捕らえられるだけだ」
黙っていたベルトも、その言葉には反論した。
「だが王都には聖女様がいる。彼女は革命を起こすことに賛成なんだ。こっちに騎士を送ったりはしないさ」
「いや、聖女がしなくても現国王がする」
さらに続けたのはパッシェだ。
「隣国の脅威もあるし、ただでさえ国は不安定な状況なのだから、必ず騎士を送って事態を収めようとするだろう。陛下はお前たちを殺したりはしないだろうが、お前たちの中からマドーラの統治者を選ぶこともしない。どこかから領主に相応しい人物を送ってくるだけだ。第一、お前たちの誰かが領主になったとして、ちゃんと務めを果たせるのか?」
教師のような口調でパッシェは若者たちの甘さを指摘する。
「他の領主との繋がりもなく、王とのコネもないお前たちが? 貴族の世界はお前たちが思っているより薄汚かったり、油断ならなかったりするのだぞ。元庶民が飛び込んでいっても、良いように利用されるだけだ。賢くないとやってはいけない」
パッシェに続いて、今度はまたアイラが口を開いた。
「例えば私だって賢くはないし、領地経営や政治のことをよく勉強しているわけでもない。でもそのことについて詳しくて、私を助けてくれるであろう人物は何人も思い当たる。だけどお前たちは助言をくれる人物すらもいない。それでどうやってマドーラを治めていくのか。他の領民にパッシェの方が良かったって思われるのがオチだ」
そこまで言われると、ベルトは少し間を置いた後でぽつりとこう呟いた。
「ライア……じゃない、アイラ様が俺たちを止めてくれて良かった」




