7.業界内では色んな”ハラ”が流行っているらしい
宜しくお願いします
「この部屋では誰もいないようですね、お入りください。」
「ああ、はい、失礼します。」
どうしよう、一応この監督の品行は調査済みだけど万が一うちの子に枕営業とか強要したらどうしよう?
「アルファード芸能事務所の清原みきさん、でしたよね。」
「ええ、そうです。」
これは事務所にチクるパターンか?
「あなたは俺があなたにセクハラかパワハラするのを恐れていないのですか?」
は、セクハラ?それはわかる、枕営業だみたいのものだ、でも、
パワハラ?
なにそれパワ、うう、パワってなんの略称だ?
ううっ、これはどうしたら、
「プッ、失敬、何もしないよ。」
はあ、一体何をするつもりだったのだ?
「だがやはり困るな、それにあなたは俺がそこにいるということに気づいてもなおX芸能事務所のタレントに嫌味を言うなんて。」
ううっ、
「申し訳御座いませんでした。」
ここは弁明したら負けだ、だからこうやって頭下げて謝るしかない。
「でも嫌味を言った相手が新人で良かったな。
まあ、新人でチーフマネージャーになって責任を感じてるとわかる、だがもし次があったら翔太さんを役から外すことになるぞ。」
「本当に、申し訳御座いませんでした。」
確かに、この世界で経験があるものはとっくに仕返し、いいえ、もっと怖いことをしてくるかもしれない。
ウッ、そう思うとちょっと怖くなってきた。
駄目だこりゃ、これではいつ経ってもバイト新人と言うラベルが外れない......!
「はあ、そしてだが、『ティクランシェ』のチーフマネージャーのあなたに頼みたいことがあってな..........................」
茜色の空とカラスの鳴き声が後で来る夜を歓迎し、街は少しずつ明かりを灯す頃、
「え!少年従者Aに一曲歌わせるですと?!」
とある吸煙室のなか、黒崎監督のトップアシスタントは本心からそれを問う。
「ああ、そうだ、」
「いやいや監督、それはちょっと無茶があるのでしょうか?」
「そうか?お前だって見ただろう、あの少年従者Aを演じるやつの素晴らしさを。」
「確かに彼は魅力的ですが、ですその役には名前すらないんですよ、それに、」
「そうだな、高田がいた頃『ティクランシェ』は敵を作りまくりだからな、でも高田というバックがなくなりあのグループは解散危機、いいや、この業界でメンバー全員の存続が危うい。」
「ですから言ったのです、いくらあの子の親の頼みだとはいえこの劇に参加させるなんて!」
「まあ、俺も最初はそう思ったがな、だがあのグループ、もしかしたら俺たちが思ってる以上にしぶといかもしれねーぞ。」
「え?それは、」
「フ、もしかするとあのグループの真の切り札が隠されてるかもな。」
「なあお前らチーマネ見なかったか?!」
アルファード芸能事務所の休憩室へ走って帰ってきた翔太はただいまも言わず他の二人に聞くが、
「え、チーマネ?」
「翔太と一緒じゃなかったのか?」
「う、」
「何かあったのか?」
「ああ、実は俺がX芸能事務所の斉藤ってやつに例のことで嫌味を言われて、チーマネが俺の代りにがツンと言ってそれを監督に見つけられたんだ。」
「あ~これはこれは、」
「でもまあ、こんな時間に帰ってきてないのも気になるな。」
「どうしよう、もし監督があいつに何かしでかしたら、く、あいつはただの新人だぞ!それに、く、」
「。。。。。。。。。」
「。。。。。。。」
なにか察した二人は何度か言葉を発しようとしたが何度かその言葉を飲み込んだ。
「.............で、チーマネは例のことをなんて?」
ようやく発せた言葉に戸惑う空だがその言葉で翔太は目を伏せながらふっと笑う。
「わからない、だが、やはりいつも通り勝手に希望を抱き、勝手に失望し、嘲笑うだろう、」
「。。。。。。。。。」
「。。。。。。。」
そんな悲しんだ声に何も言ってやれない二人は拳を握りながら翔太を見る、そしてそんな空気に耐えきれなかった翔太は自分を励ますように他の二人の頬を軽くつねる。
「ったく落ち込んでいる暇わない、僕もう一度稽古場に行ってくる!」
「あ、待て、俺も行く!」
「僕も。」
「じゃあ手分けして探そう!翔太は稽古場、空は事務所内、そして俺はーー」
“バタン!”
「お前ら聞いて驚け!!舞台で翔太が一曲歌わせる事になったぞ!!!」
「。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。」
「。。。。。。。。。。。。。。。。」
あ、あれ?一曲じゃ足りなかった?
「今までどこに行ってたんだよ!!」
「え、いや、商談に?」
「まったく、それなら連絡してよ!」
「ごめん、急なものだったから、」
“ガバっ”
急に感じた温もりは一瞬脳内活動を止め、結果的に私はそこでフリーズした。
「なあチーマネ、なんか変なことされたか?」
「変な事?いいや、全然。」
「そうか.............ったく僕たちのチーマネは馬鹿だから次にこんな事があるのなら僕たちを連れて行ってよね!」
「え~俺たちも怒られるのか?」
「まあ、うちのチーマネは馬鹿だからしょうがない。」
な!!このガキ共!!
「でも、無事で良かった、本当の本当に良かった、」
「ーー翔太、」
ほんと、この子は優しい。
それに、私には見せてないみたいだけどこの子はちょっと気が強くて自分にはとても厳しい、だからそんなに良い演技ができるしその彼自身にも魅力を感じられる。
「ねえチーマネ、あのさ、僕の親のことだけどさ、」
「何だ、」
「あ、うう、その、僕、親に頼んで仕事もらえるよう頑張るからさ、だから無理しないでもいいよ。」
「は?何言ってるんだ?」
「え?」
「いや、親御さんは親御さん、翔太は翔太でしょう?確かにいざって時にコネを使っても良いかもしれないけど翔太はそんなことしたくないでしょう?」
だから私に親のこと黙った。
それに、私は彼の親を知る前から翔太たちを知り、彼らの演技に惚れた。
「う、」
それに親って言ったら『ティクランシェ』の親は四捨五入したら私だから、まあ、私の力はいつでも使っていいんだけど、
「だから無理しなくてもいいんじゃね?実力でこの業界を生きたいのならそれ相応の努力は必要だけど、できる?」
「できる、かも、」
は?
「漢ならハッキリしなさい!」
「うう、できる、できなくても絶対にやってみせる!!」
やべ、心なしかちょっと涙目になってない?!
「ああああ、でも、疲れたら休む、これは必要だから!無理は禁物だからな!!」
「うん、そうだね、へへっ!」
は、羽、羽が見えた!!
うあ~~なにこれ可愛い~~天使~~!!
「おい、お前らいつまで抱き合っているんだ?」
あ、そういえば、
「嫌だ、話したくないもん、みきりんも離したくないよね!」
あざとい!でも可愛い!!
あ、でも、
「みきりん?」
「え?だってチーマネだとよそよそしいでしょう?」
あれ?リア充のたまり場に潜れても引きこもりだったから他人と感覚が違うのかな?
「ああ、ああ?ああ~うん、」
「こら、風紀が乱される、やめろ!」
「光ったらいつ風紀委員キャラになったの?」
「翔太、これ、撮られたらいろいろマズイ。」
「う~そうだ、みきりん、なにか聞きたいことがあったらいつても僕たちに聞いて、」
「こら、茶化すな!」
「そうだな、チーマネは馬鹿だからいつでも僕たちに聞いてもいいよ。」
「あ~聞きたいこと、あ、そうだ!」
「うんうんなんても聞いて!」
「しょうがないな、なんだ?」
「僕たち三人がいるから大丈夫。」
「早速聞きたいんだけど、」
「「「うんうん、」」」
「ちょっと難しいかもしれないけど、知らないなら無理しないでもいいよ、」
「「うんうん、」」」
「その、パワハラって、何?」