心、外れることなく
電車に揺られること約一時間。
「見えてきたな。あれだろう?」
「ああ」
窓から見える景色に、東の陽を映す綺麗な青が現れた。
「海、初めて…」
「そうだっけか…ん?待て、海に来たことある人」
手を挙げたのは一人、俺だけだった。
「泳げる人」
雹を除く全員が挙げる。
「んじゃいいか」
雹だけを監督をしていればいい。
「なんか馬鹿にされてる?」
「当然だろう」
「泳げない人みんなに謝れよ」
「泳げない人を馬鹿にしている訳ではない。お前を馬鹿にしているのだ。お前だけを」
「表出ろ」
「死なない自信があるなら勝手に出ていけ」
車内で騒ぐな。幸いこの車両の乗客は少ないが。少なかったらいいってもんでもないけど…。
「ほらもうすぐ着くぞ。荷物ちゃんと持っとけよ」
電車が目的の駅に停車する。この辺で海と言えば此処ぐらいで、夏は当然のように人が集まる。
少し歩いて人が賑わう場所に出る。
「人多いですねー」
「さっさと着替えちゃおう」
「じゃああそこの海の家の前で」
「分かった」
待ち合わせ場所を決め、更衣室へと向かう。パラソルやらなんやらを抱えて待つこと十分。
「お待たせ!」
目の前に様々な色と身長とスタイルが並んだ。低身長順にいくと、
雹は水色。チューブトップって言うのか?よく分からん。
霙は青色。雹のものとよく似ているが、所々に違いが見える。
紗奈は朱色に白のボーダーのビキニ。意外と攻めた水着だ。
マカは白色。雛多ヶ宮姉妹と同じようなデザインに、パレオだっけ?を巻いている。
時雨は黄色。一番布面積が狭い気がする。ずば抜けてスタイルがいいので、水着も相俟って目のやりどころに困りまくる。
何故か幽霊二人の露出が一番多い。
「はい、じゃあ一人ずつに感想をどうぞ」
「え?ああ、みんな似合ってると思うぞ」
「一人ずつっつったでしょ」
取り敢えず雹を頭から足の先まで見て、
「……ほんと…色々小さいな」
「はぁ!?」
「おうっ!?」
雹の右ストレートが、油断しきっていた腹に叩き込まれた。
「もう知らん!」
雹はスタスタと歩いていってしまった。
俺はというと、今年一番の激痛に踞っていた。
霙は雹を追いかけ、 紗奈と時雨はなんとも言えない表情で佇み、マカは、
「そう君、大丈夫?」
ただ一人俺のことを心配してくれた。
「でも気にしてることだったみたいだから、後で謝っておいてね?」
はい、反省します…
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「昼頃まで自由で、その後飯にしよう」
各々遊び道具を持ち、海へ行く。俺は時雨と紗奈が遊べるくらいの位置にパラソルを立て、腹の回復を待つ。
小さいのにやたら重たいパンチだった…っと、そんなことを考えていてはまた口に出してしまうかも知れない。
隣に立っていたマカに、気にせず遊びに行ってきていいぞ、と言おうと思ったら、マカは何かに気付いたように俺から離れていった。
ああ、大体分かった。右隣に居たマカから視線を外し、反対側を見る。
「治った?」
雹が歩いてきた。浮き輪の真ん中に刺さっている。
「その…ごめん」
申し訳なさそうに頭を下げる雹。
「全部俺が悪いよ。ごめんな」
俺は雹の濡れた髪をくしゃくしゃと撫でる。既に海水を浴びてきたらしい。
「……これ、子ども扱いになる?」
雹はやや強めに睨んできた。
「あ、いや、マカによくやるんだ」
言い訳しつつも慌てて手を離す。
「ま、十割想儀が悪いけど、殺す気で殴ったし、一応謝ろうかなって」
「物騒だな…ああ、先に謝らせちまった。立つ瀬がねぇな。許してくれるか?」
「いいよ、私は優しいからね」
雹は表情を一変させて、いつものにこやかな笑顔を見せてくれる。
「んじゃ、行こ!泳ぎを教えてくれるって言ってたよね?」
「そうだったな。…まずは浮き輪を取って」
「此処で取らなくてもいいんじゃないの」
「いいからいいから」
言われた通り浮き輪を取った雹を、抱くように抱える。
「よっと。軽いな」
「ちょ、なに!?」
そして、抱き方を変えてお姫様抱っこへ。雹は困惑しているが、お構い無しに、
「目、開けとけよ!」
「ちょ、ちょ、離せぇぇぇぇ…」
海目掛けて走り出した。




