閑話休題:ビフォー・インターバル・シーン
「…………」
今は海を三日後に控えた日の夜。
「暑い…」
布団に一人で寝ていた筈の俺の横には、霙がいた。俺が寝ている布団の横にはベッド、下にはもう一つ布団。
あまり大きくないベッドに幽霊が二人。布団には斬霊師二人が寝ている。筈だった。
残霊師の内の一人である霙が何故か俺の布団に入り、あろうことか腕に抱き付いてきている。
寝るときはちゃんと雹と一緒に布団に入っていた筈だったんだがなぁ。
霙が入ってくるまで寝ていたので、何でこんなことになったかはイマイチ分からない。
冬なら素直に喜んだんだろうが、今は夏。死にそう。喜び一割苦しさ九割と言ったところだ。
ベッド組は幽霊二人の力により涼しい空間が出来上がっている。そっちと間違えてほしかった。
「くぅ……すぅ…」
この無駄に暑い場所で霙は気持ち良さそうに寝ているので、起こすことも憚られ。
「朝までこれか…?」
首を無理に動かすことも出来ず枕元にある時計が見えないので、何時かも分からない。何時間このままでいろと言うのか。あまり長くはもたないぞ。
少ない喜びで生き残ることが出来るだろうか…
いいや、前向きに考えよう。夏だろうがなんだろうが美少女が隣で寝ているのだ。しかも腕に抱き付いて。こんな状況はもっと喜ぶべき…
「無理だな…」
この状況におかれると分かる。いくら美少女とはいえ、流石に真夏は…。
「…寝るか」
頑張って寝ることにした。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
「おっきろーそうぎー」
耳元で声がする。
「…近いんだよ…」
雹の顔が俺の顔の真横にあった。
「起きたね。んじゃ、この状況を説明してもらおうかな?」
「ん?」
雹が指差した先には霙が寝ていた。いつもなら、紗奈と霙は時雨や雹や俺よりも先に起きているのに。
「紗奈が見つけて私と時雨を起こして、私が霙を暫く起きれないようにした」
「何で」
「お前に説明してもらう為にだ!」
俺の腹の上に馬乗りになってくる雹。暴れんな。
「説明も何も、気付いたら居たんだよ」
「霙が?自分から?」
「俺は何もしてないからな。そうなんだろう」
「神様に誓えますかー」
「誓えまーす」
そう言うと、雹は腹の上から降り、
「つまんないの。霙、起きろー」
霙の頬をぺちぺち叩く雹。
「んん……お姉ちゃん?早いねぇ…」
「あんたが遅いの。まあ何でもいいから隣見てご覧よ」
「隣?」
雹と俺で霙を挟んでいるかたちになっているので、他に見るところもなく此方を見る。視線が逢う。
「……おはようございます」
「ああ、おはよう」
「そうじゃないでしょ!」
「え?あ、えぇ!?な、な、何で想儀さんが隣に!?ここは、えーと布団?どうしてですかー!?」
「想儀がね、眠れないからって、引っ張ってきたの…」
「へ?そ、そうなんですか…?」
「んな訳ねーだろ…」
雹の額を小突いておく。
「たぶん寝ぼけてたんでしょ。昔も霙はよく私の部屋に入って、私のベッドに潜り込んできたもんねー」
「お、お姉ちゃん!」
ということは。
「雹は分かってたのか?」
霙が寝ぼけて布団に入ってきたことを。
「姉妹だからねぇ。でも違ったら大変でしょ」
雹は軽く笑った。
「先降りてるね」
雹は部屋から出ていった。
「あ、あのぅ…すみませんでした…」
「ん、いや、別にいいよ」
別によくはなかったが。一刻も早く水を飲まなければ。
「できれば冬がよかったかな」
「冬…ですか?では次は冬に入るよう頑張りま…す?」
いらんこと言った。
「あの、えーっと、わ、私も降りますね!このお詫びはまたいつか!」
そう言って早足で部屋から出ていった。のそのそと布団から這い出ながら、夜中のことを思い返してみる。
あんな近くで霙の顔を見たのは初めてか。まあなんつーか、あれだ、すげぇ可愛かった。いや、可愛いのは知ってたけど、近くで見ると更に…
こんなこと一人で考えてても気持ち悪いだけなので、そんなことよりもさっさと降りて水分補給をしないと。
汗まみれの布団は、後でなんとかしよう。




