第4話 おめぇの仇は、俺らが討つべ
海竜の祠での初戦を無事に終えた4人は、慎重な足取りで祠の入口へと踏み入れた。
内部は外気よりもひんやりとしており、湿り気を帯びた空気が肌にまとわりつく。 足元には、海風に運ばれた砂が混じる石畳が奥へと続いていた。
武三郎が先頭に立ち、清志郎が気配を探るように歩を進める。向日葵とあんずは後方から周囲を警戒しつつ、静かに続いた。
やがて、通路の先にぽっかりと広がる空間が見えてくる。
「……広間だ。ここが最初の玄室か」
武三郎が低く呟いた。
4人が足を踏み入れたその場所は、神域とは言い難い、荒れ果てた巌窟の広間だった。
天井は岩肌がむき出しで、ところどころから冷たい水滴が落ちている。
床は石畳が崩れ、砂と土が混じり合い、玄室の中央には、焚き火の黒い跡、食い散らかされた動物の骨や肉片、乾ききらない血の染み。
まるでここが 地鬼たちの巣そのものであるかのようだった。
向日葵は扇子を閉じ、真剣な表情で口を開く。
「この先の中央玄室には、さっきの倍……20匹以上の地鬼がいるはず。しかも、地鬼群長2匹のおまけ付き」
「あの……向日葵ちゃん……“上位種”って、その......地鬼群長のこと?」
あんずは祓串をぎゅっと握りしめ、震える声で尋ねる。
「うん。式神を潜らせた時に確認したわ。既に大群で私たちを待ち構えているはずよ」
大和では地鬼群長を群長と呼ぶが、西方の呼び名に倣い地鬼群長と呼ぶ者もいる。
だが、呼び方以前に、怖がりのあんずからすれば、全く歓迎されない相手である事には変わりなく、顔から血の気すら引いてくる。
「......浅草に帰ります。みんなも無理しないでね!」
「駄目よ......ここにいなさい」
「......はい」
出口に振り向いた瞬間、向日葵に巫女装束の襟首を掴まれ、垂れた両耳と一緒に垂れる。
武三郎は腕を組み、憮然と呟いた。
「雑魚と言えど多勢に無勢。真正面からぶつかるのは得策じゃねえよな」
武三郎は腕を組み、憮然と呟くと、唐突に悪童顔で清志郎をイジり始めだした。
「……よし、こうしよう。キヨさんを縄か呪術で、ぐるぐる巻きにふん縛っちまったら、中央玄室の地鬼共のど真ん中に投げ込んじまおう!キヨさん齧られている隙に、俺らが地鬼を始末するって寸法よ!どうだい、頭良いだろ?」
「タケ、やめなさい!地鬼ん群れの近ぐで、そんなネタぶっ込むんじゃねぇべよ!それ、さっきの"モフ子を放り込む"から"俺を放り込む"になってるだけべよ!」
清志郎が全力でツッコミを入れる。
向日葵は呆れたようにため息をつき、あんずは「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げた。
「タケくん……冗談に聞こえないよ……」
「何言ってんだモフ子。半分冗談に決まってんじゃねえか」
「半分本気で投げ込む気なんだべ!」
玄室に緊張感とはかけ離れた空気が流れる中、向日葵は扇子で軽く自分の頬を叩き、ゆるんだ顔を引き締めると場の空気を締め直す。
「はい、みんな!シャキッとする。これから中央玄室での策を練るよ」
武三郎と清志郎が姿勢を正し、あんずも祓串を握ったまま耳を傾ける。
「ウチらは4人。向こうは20匹以上。数の上でまず分が悪い。正面から攻勢をかけるのは自殺行為」
向日葵は扇子を顎に軽く当てながら、静かに続けた。
「そこで、まずはキヨの忍煙幕で地鬼の集団を撹乱する。キヨ、忍煙幕の持ち時間は?」
清志郎は腰の袋から小さな黒玉を取り出し、指先でくるりと回しながら答えた。
「発煙すれば10秒間は濃い煙で玄室を覆うべ。そっから5秒かけて薄れていぐから、15秒が勝負どころだべな」
向日葵は頷き、仲間たちへ視線を向ける。
「その15秒の間に、タケとキヨが奇襲で、できる限り数を減らして」
「おう、任せておきな。斬り込みは得意だからよ。片っ端からぶった斬るぜ」
「俺も動きやすぐなるべ。煙の中なら地鬼も混乱するしな。それに、祠みたいな密閉された空間なら、煙幕を最大限活用出来そうだべよ」
武三郎も清志郎も、どこか楽しそうだ。
「私は後衛から式神で地鬼を削る。煙幕の中でも式神なら正確に動けるから」
向日葵は淡く光る呪符を指先でひらひら靡かせた。
「向日葵ちゃん。わたしは?」
あんずが不安げに尋ねる。
「あなたには、戦闘前に全員の速度支援を施してもらいたいの。群れを殲滅する切り札になるからお願いね」
「……うん。任せて!」
向日葵は優しく微笑み、武三郎は大太刀を担ぎ直す。
「で、十分に数を減らしたら、俺とキヨさんとで地鬼群長をぶった斬る」
「んだべ。最後はオラらの仕事だべよ」
戦闘の段取りも決まり、4人は覚悟を決め中央玄室の通路へ足を向けた。
中央玄室の手前にある岩場は、見下ろすような高さに位置するため、身を潜めながら中の状況も見やすい。
最初の玄室よりも遥かに広く、岩肌でできた高い天井。
その天井も、所々に突き抜けるような穴が開いており、そこから差し込む空の光が、薄暗い玄室の床に、淡い光の縞模様を落としている。
岩肌からは、ぽたり、ぽたりと水滴が落ちる音が響き渡る中、無数の地鬼たちが蠢き、荒い息遣い、肉を噛みちぎる音、骨を砕く音が 重なり合って玄室全体に満ちている。
あんずは祓串を両手で握り締めながら、その音に肩を震わせた。
「こんなに……」
清志郎が小声で囁く。
「んだべ……奴らの“巣”のど真ん中だべよ」
武三郎は大太刀の柄に手を置き、目を細めて玄室の奥を見据えた。
「向日葵、構成はどう見える?」
「……確認するね」
向日葵は扇子を閉じ、霊力の気を帯びた翡翠色の瞳で玄室全体をなぞる。
武三郎が低く呟く。
「……まあ、何だ。実際に見ると、こりゃあ、なかなかの数だな」
あんずが不安げに向日葵の横顔を見つめる。
「向日葵ちゃん……どう?」
向日葵は静かに息を吸い、仲間へ向き直った。
「まず、前衛の地鬼が15匹。武器は刀、短槍それと棍棒が中心。明らかに数で押してきそうね」
「15匹ね……斬り放題じゃねえか」
言葉とは裏腹に武三郎は眉をひそめる。
「次に弓鬼が6匹。玄室の左右の岩棚に陣取ってる。侵入者を真っ先に狙う位置ね」
「んだべ……飛び道具を持った、あいつら厄介だべよ」
清志郎が小声で舌打ちする。
「それから、術鬼が2匹。玄室の中央後方、焚き火の跡の近くにいる。呪符と扇子を持ってるから、おそらく簡易の呪術を使える個体」
「うわっ……また術鬼いるの?」
あんずが青ざめる。
「最後に......」
向日葵の視線が、玄室の最奥へ向けられた。
中央玄室の奥。通路へ続く暗い穴を背にして2匹の地鬼群長が、あぐらをかいて座っていた。
筋肉の塊のような2m級の巨体。片方は鉄棍、もう片方は鉄斧を手にして、ただ仲間の地鬼を見下ろす。
向日葵の声は落ち着いた様子で囁く。
「……地鬼群長2匹は、中央玄室の奥の通路を背にしてる。完全に“待ち構えてる”って感じね。タケ、キヨ……いけそう?」
向日葵の問いに、清志郎は眉を寄せ、玄室の奥に座る2匹の地鬼群長を見据えた。
「……郡長は何度もやってるから問題はねえべよ。ただ……問題はあの数だべ」
忍特有の戦術眼でも、前衛15・弓鬼6・術鬼2と数による圧は無視できない。
武三郎は大太刀の柄を軽く叩き、口角をわずかに上げた。
「へっ、あのデカブツ2匹だけならいける。面白ぇじゃねぇか。ただ……キヨさんの言うとおり、正面からあの数に突っ込んだら、間違いなく御陀仏になっちまうよな」
軽口を叩きながらも、状況を冷静に見極める武人の目は健在である。
向日葵は小さく頷き、仲間の顔を見渡す。
「……うん。タケの言う通り、正面突破は無理でも、私たちが“崩す”ことでイケる」
あんずは祓串をぎゅっと握りしめたまま、震える声で絞り出す。
「タケくん、キヨくん……邪魔にならないように……ちゃんと支援するからね」
武三郎はちらりとあんずを見て、いつもの調子で軽く笑った。
「邪魔なんざ思ったことねぇよ。お前の神術もあるから、おいら達は前出られるんだからよ」
清志郎も頷き、あんずの肩を軽く叩く。
「んだべ。モフ子の支援なきゃ、タケなんざ3秒で串刺しだべよ」
「てめぇは1秒で齧られるじゃねえか」
武三郎が小声でツッコ見ながら清志郎に肘を入れる。
向日葵は、そんな2人に苦笑しつつ、再び玄室へ視線を戻した。
「……大丈夫。作戦さえ決まれば、勝機はある。あとは、上手く運べるか......だね」
「だな。こんなところでコソコソしないで、さっさと片付けちまおうぜ」
向日葵が小さく頷く。
「……あんず。しゃがんだままで申し訳ないけど、全員に速度支援、お願い」
「うん……」
あんずは震える指で祓串を握りしめ、胸の前でそっと目を閉じた。
胸元で静かに構え、そっと息を整えると左右に振り、囁き声で詠唱を始める。
「和慈天姫命──天つ空より降りし慈風よ、我らが歩を迅き光と成し、導き給え」
ほ
紙垂がふわりと揺れ、風もないのに袖と髪が淡く揺らめく。
そして、淡い金色の光があんずの足元から広がっていく。
「──天姫・迅羽の衣」
詠唱が終わると同時に、あんずの足元から淡金色の光が円を描くように広がった。
光は羽根の形をとり、ひとひら、またひとひらと舞い上がる。その羽根たちは、仲間たちの足元へ吸い込まれるように寄り添っていった。
武三郎は肩を回し、驚いたように目を見開いた。
「……おお?身体がすげえ軽い」
「んだべ、重さがなくなった感じだべよ」
向日葵は微笑み、あんずの肩にそっと手を置いた。
「ありがとう、あんず。これで動きやすくなったよ」
あんずは胸に手を当て、ほっと息を吐いたが、すぐにまた震え始める。
「でも……これから、あの大群とやり合うんだよね」
「心配すんな。お前と向日葵がいるだけで俺らは大分楽に戦える」
武三郎が真っ直ぐに言う。
「んだべ。オラらが前で全部斬り開ぐから、任せとけ」
清志郎も屈託のない笑みを向ける。
あんずも微笑みながら小さく頷き、祓串を握り直した。
「……うん。みんなで無事に突破しようね」
向日葵は扇子を閉じ、仲間たちを見回す。
「ここから先は、一瞬の判断が命取り。煙幕が広がるまでの10秒、薄れるまでの5秒……この15秒が勝負」
その表情には緊張を走らせている。
武三郎は大太刀の柄に手を置き、呼吸をひとつ整えた。
「いいねぇ……殺るか、殺れるかの緊張感。これだから侍はやめられねぇ」
向日葵が手を上げる。
「それじゃあ、作戦開始。キヨ、煙幕を」
清志郎が黒玉を構え、武三郎が大太刀を抜き放つ。
あんずは祓串を胸に抱きしめ、震える声で呟いた。
「……みんな、気をつけて……」
「タケ。煙が広がったら、すぐ突っ込むべな」
「おう、お前の煙幕期待してるぜ」
2人は拳を軽くぶつけ合う。
向日葵は右手で印を結び、左手の指先に呪符を挟んだまま静かに頷いた。
清志郎は深く息を吸い込むと、カッと目を開く。
「行ぐべ」
その瞬間、4人の呼吸がぴたりと揃うと、張り詰めた弦から弓矢が放たれたかの如くよう飛び出した。
清志郎の指が、忍煙幕の起爆紐を引き地鬼の群れに投げ出した。
間髪入れず2個目の忍煙幕も放たれる。
黒玉は地面に転がり落ちると、ボンッと低い破裂音とともに、濃い灰色の煙が一気に玄室へ広がった。
視界は一瞬で奪われ、地鬼たちの怒号が混じった咆哮が響き渡る。
「ギャアアッ!?」
「グルルル……!」
混乱の声。足音が四方へ散り、岩を叩く音が反響する。
「タケ、今だ!行ぐべ!」
「テメェら!片っ端から刀の錆だ、バカやろう!」
煙の中、2つの影が一斉に飛び出し、武三郎は右回り、清志郎は左回りに展開した。
煙の濃さをものともせず、地鬼の気配だけを頼りに踏み込む。
武三郎が踏み込みと同時に大太刀を横へ薙ぐと、刀身が空気を裂き、残光が弧を描く。その瞬間、地鬼2匹の首と上半身が宙を舞い、白煙の中に影となり消えていく。
武三郎はすぐに体勢を変えると、背後から迫る気配に向けて大太刀を返す。
背後から遅いかかろうとした地鬼の短剣を弾き飛ばし、そのまま袈裟斬りにしていく。
「3匹目だ!キヨさん、そっちはどうだ?」
一方、清志郎は煙の中を影のように滑る。
足音を完全に殺し、地鬼の背後へ素早く回り込むと、忍者刀が静かに喉を裂いた。
「これで……4匹目だべな」
清志郎は煙の濃淡を読み、地鬼が迷っている方向へ先回りする。
「命さ貰うべよ……」
囁くように呟き、振り返った地鬼の胸へ苦無を突き立てる。
そして煙の中から突如襲撃してきた地鬼の攻撃を、涼しい顔で回避すると、その脳天に苦無を深く突き刺す。
前衛2人が奮闘する中、後衛では、向日葵が印を結び式神を召喚していた。
「影結び、闇に紐解け......急急如律令──黒紐狐」
先ほどの偵察で、真紅の陰陽師の呪返しを受け裂けるように消滅した式神・黒紐狐を再度、召喚すると、向日葵はすまなそうな表情で、そっと膝をついた。
「……ごめんなさい。あの時、貴方に呪返しで痛い思いをさせてしまって」
黒紐狐は瞬きをし、向日葵の顔をじっと見つめる。
「私がもっと陰陽師として技量を持ち合わせて入れば、貴方を酷い目に遭わせずに済んだはず......本当にごめんなさい」
声は震え、胸の奥の痛みがそのまま滲み出るようだった。
黒紐狐はゆっくりと近づき、向日葵の脚に鼻先を、ちょんと押し当てた。
まるで「気にするな」と言うように。
向日葵は目を見開き、そして微笑むと、その頭を優しく撫でた。
「……ありがとう。あなたは本当に優しい子」
黒紐狐の尾がふわりと揺れ、影の粒子が舞い上がると、向日葵は続けて印を結ぶ。
「黒紐狐──影爪」
印を結び終えると、扇子を横に払う。
「疾る」
式神が地を蹴り、煙の中へと一瞬で溶け込む。
一方、煙に包まれた弓鬼と術鬼たちは、視界を失い完全に混乱していた。
怒りと焦燥感が極後に達した弓鬼の一匹が、煙幕に向かって矢を放つと、矢は煙の向こうの仲間の弓鬼の頭を貫いた。
「ギャ……」
仲間が倒れた音に、別の弓鬼がさらに混乱する。
一方、術鬼も襲撃者の姿が捉えられない苛立ちから、闇雲に炎の呪術を放つも、煙の中にいる仲間の地鬼に命中。
「ギャアアアアアッ!!」
身体は瞬時に燃え上がり、苦悶の悲鳴を響かせながら地面をのたうちまわる。
清志郎の忍煙幕は、敵を混乱に陥れるだけでなく、ほぼ同士討ちへと追い込んでいた。
その混乱の中、黒紐狐は影のように身を滑らせ、玄室後方の弓鬼へ跳びかかった。鋭い爪が胸を裂き、弓鬼は声を上げる間もなく崩れ落ちる。
続けざまに術鬼の背後へ回り込み、影の尾を鞭のようにしならせると、術鬼の生首が煙幕に満ちた地面を転がっていく。
さらに、倒れた術鬼のすぐ近くにいた弓鬼へと跳躍し、鋭利な爪を薙ぎ払うと、腹部を深々と切り裂かれた弓鬼は、煙の中で膝から崩れ落ちた。
煙の中など意に介さず、黒紐狐は静かに、正確に、地鬼を刈り取っていく。
「狐のあんちゃんもやるじゃねえか」
武三郎が煙の中を駆け、煙の中から躍り出た地鬼を脳天から一刀両断する。
「んだな。それにモフ子の支援で身体も軽い!」
清志郎も赤い襟巻きを靡かせながら、素早い動作で術鬼と弓鬼を忍者刀で切り伏せた。
煙がわずかに薄れ、地鬼たちの姿がぼんやりと浮かび上がり始めると、向日葵が声を張った。
「煙幕、残り5秒!一気に畳み込もう!」
「あいよ!キヨさん、斬れるだけ斬っちまうぞ!」
「任せとけ!」
武三郎の大太刀が弧を描き、清志郎の忍者刀が閃き、黒紐狐の爪と牙が引き裂く。怒号と悲鳴。斬り捨てられた地鬼の血飛沫が地面を染める。
煙が晴れる頃には、地鬼の群れは無数の屍となり、前衛の二匹のみとなっていた。
向日葵は右手で扇子を大きく広げ、左手で印を結ぶ。
「黒紐狐──影砕!」
地鬼の影から黒紐狐が飛び出し、巨大な闇の牙を剥き出しにして地鬼たちへ噛みつく。
「ギャアアアアアッ!!」
地鬼達の不気味な悲鳴が玄室に響き渡る。
煙が完全に晴れた時、残った2匹は式神の牙の餌食となり、すでに絶命していた。
「グルガァァァッ!!」
その咆哮は凶獣そのものだった。僅かな時間で仲間を殲滅され、怒り狂った地鬼群長の2匹が、武三郎たちへ勢いよく襲いかかる。
「来やがったな……!群長も相当怒ってるな」
武三郎は大太刀を構え、足を踏みしめる。
地鬼群長の鉄棍が振り下ろされ、武三郎は刃で受け止め火花が散る。
ガキィン!!
武三郎は右手で刀を握り、左手の武者小手で刀の峰を支え、その一撃を受け止める。怪力から繰り出される重い衝撃が腕に伝わった。
「おっ、相変わらず並の地鬼よかぁ、一撃も重てぇな!」
上位品種相手に怯むどころか、どこか高揚感すら漂う武三郎。鉄棍を押し退けると、瞬時に横一線の斬撃を放つ。
地鬼郡長はかわしたように見えたが、剥き出しの腹部には浅いながらも斬撃の傷が刻まれていた。
一方、清志郎も戦斧を振り回す地鬼群長の一撃を、身軽な動きで回避する。襟巻きを赤い竜巻のように走らせ、斧筋を回避して左へ回り込み、忍者刀で鋭い一閃を放った。
左脇腹に赤い刀傷が走り、遅れて血飛沫が舞う。清志郎は戦斧を構える地鬼群長を挑発し始めた。
「ほれ、鬼さんこちらだべ!」
怒りの表情を滲ませ、戦斧を振り下ろす地鬼群長。しかし清志郎は紙一重で難なく身をかわす。
「そんな物騒なもん振り回したら危ねぇべ!」
すれ違いざま、懐から苦無を放ち、地鬼群長の左目に命中すると、苦悶の声を上げて左目を押さえた。
「向日葵、援護頼むべ!」
「任せて!」
向日葵は形代を浮かせ、印を結ぶ。
「急急如律令──鎮石」
形代が光を帯び、地鬼群長の頭上に“要石”の幻影が現れる。
「沈む!」
向日葵の発声と同時に、群長たちの身体が押し潰されるかのように沈み込み、動きが鈍った。
「あんず!攻撃術式を!」
「う、うんっ!」
あんずは祓串を振り、必死に詠唱する。
「──和慈天姫ノ命……厄災払う数多の破魔の光矢放たん!」
蒼白い光の矢が空中に複数生成される。
「天姫・星渡」
射出された無数の光矢は弧を描き、群長達へ降り注ぐと、身体中に傷穴を刻ませる。
郡長たちの動きはさらに鈍る。
「よし、トドメだ!」
「任せるべ!」
武三郎と清志郎が同時に踏み込み、連携して地鬼群長たちに斬りかかった。
武三郎の大太刀は鉄棍の群長の腹を横一文字に切り裂き、臟物を出して苦痛に絶叫する群長の首を返す一撃で、即座に切り落とす。
清志郎は戦斧の群長の背後に回り、左手で顎を締め上げと、右手の忍者刀を喉元に押し当て、一気に横へ引いた。
喉元から大量の血飛沫が噴き出し、群長は崩れ落ちて絶命した。
上位種を含む20匹以上の地鬼との戦闘は、向日葵の作戦と仲間との密な連携で無事乗り越え、玄室には、霞んだ煙幕と静寂だけが残る。
「……終わったな。何とか凌ぐことできたぜ」
武三郎が息を整える。
「みんな無事でよかったべ」
清志郎が笑う。
「ふぅ……みんなお疲れさま。怪我は大丈夫?あんず、支援ありがとう。すごく助かった」
向日葵が優しく肩を叩く。
「ううん……タケくん、キヨくん、向日葵ちゃんが、あれだけの大所帯を相手に奮闘してくれたおかげだよ」
あんずは必死に笑おうとするが、その足は今にも崩れ落ちそうに震えていた。胸の奥では恐怖と安堵が入り混じり、自分でも情けないほど心が揺れている。
それでも、仲間の前で踏ん張り続けていた。
4人は互いに無事と健闘を喜び合うと、広大な玄室内部に視線を向ける。
玄室は戦場の残滓というべきか、先程まで敵意剥き出しだった無数の地鬼が骸と成り果て転がり、刀、槍、弓も散乱していた。
その中には、先に潜入した冒険者たちのものと思われる、装備品や道具も混ざっている。
おそらくパーティが全滅した際に、地鬼達に剥ぎ取られたのだろう。血や誇りにまみれ薄汚れており、使い物になりそうもない。
向日葵は静かに息を吸い、仲間へ向き直る。
「……私が祠の入口で見た光景、覚えてる?」
武三郎は「ああ、勿論だ」と低く呟き、清志郎も真剣な表情で頷いた。
あんずだけは、顔が青ざめていた。黒紐狐が見た“あの光景”只人の侍の無残な姿を向日葵から聞かされた時、誰よりも強く怯えてしまった。
武三郎が、あんずの方へ視線を向ける。
「……この先は、あんずにはキツいかもしれねぇな」
向日葵も小さく頷く。
「そうね。でもね、あんず。あなたは“命を守る巫女”として、 ここまで勇気を持って私達についてきてくれた」
あんずは唇を噛み、視線を落とす。
「……アタシ、みんなの足を引っ張ってばかりで……」
「そんなことないよ」
向日葵は優しく言葉を重ねる。
「これまで、同業者の亡骸や惨事は何度も見てきた。あんたを強引にでも連れて行こうと考えていたんだけれども……よくよく思うと、私達はまたまだ経験や場数も浅い冒険者。怖くて当然なんだよね……受け止めきれない事実も沢山ある……もし、この先の光景に耐えられなくなったら……その時は逃げていいよ。無理に耐える必要はないから」
向日葵の言葉は、幼馴染であるあんずの心の奥を、そっと撫でるような優しさを帯びていた。
あんずは、幼い頃から人一倍、感受性が強かった。人の痛みを、まるで自分の身体に刻まれるように受け取ってしまう。 目にしたもの、耳にしたもの。
事象の善悪に関係なく、すべてを“自分のこと”として抱え込んでしまう気質があった。
だからこそ、向日葵は知っていたのだ。
この先にある光景が、あんずにとってどれほど残酷で、どれほど心を揺さぶるものになるかを。
そして、それこそが、あんずが怖がる性格の要因になることも全て。
あんずは震える指で祓串を握りしめ、かすかに揺れる声で呟いた。
「……アタシ、怖いよ。逃げ出したいくらい。でも……みんながいるから、みんなだって逃げたいのを我慢して、こうして先に行こうとしているんだから。だから、逃げたくない……」
その言葉は、弱さではなく、震えながらも前に進もうとする勇気そのものだった。
向日葵はそっとあんずの背に手を添え、優しく押すでもなく、ただ寄り添うように言った。
「……ありがとう、あんず」
武三郎も、照れくさそうに鼻を鳴らす。
「すまねぇな。お前さんには酷かもしれねぇけど……俺たちがついてるからよ。絶対に1人にやさせはしねえよ」
清志郎も、北国訛りの柔らかい声で続ける。
「んだべ。お前ぇさんが辛れぇなら、俺らが前、たってやるから安心してついて来い」
あんずは、涙をこらえるようにぎゅっと目を閉じ、そして小さく頷いた。
「……うん、ありがとう。みんなと一緒に行く」
4人は互いに覚悟を確かめ合い、祠の最奥へ続く、暗い一本道の通路へ入る。
冷たい風が、どこからともなく吹き抜ける中、武三郎は大太刀を肩に担ぎ、清志郎は忍者刀を逆手に構え、向日葵は黒紐狐を従え、ひたすら向かう。
あんずは祓串を胸に抱きしめ、その後ろを追うのだった。
一本道の通路は驚くほど短く、次の玄室にすぐ辿り着く4人。
足を踏み入れた先は、先ほどの広間よりもずっと小ぢんまりとした玄室で、天井も低い。
すぐ先の奥中央は最奥へと続く通路、その左右には別室の扉が見える。
だが、奥へ進むにつれ、空気はさらに重く不気味さも増す。
湿気に混じって、鉄分を多く含む臭いが漂う。
血の匂いだ。
「……見ろ」
罠を警戒して、先行した清志郎が指差した先には、壁に叩きつけられたような血痕が広がっていた。
行方不明の冒険者たちのものだろうか、折れた武器、破損した防具、破れた扇子、飛び散った数珠、焦げた札などが、ばら撒かれたかのように散乱している。
そして……血の臭気が一気に濃くなると思った瞬間。
「……っ!」
あんずが悲鳴を飲み込んだ。
玄室の中央。
粗末に放り出された無惨な人影。
只人の侍の惨殺体があった。
「……あんず、ここで待っていなさい」
あんずを入口で待機させ、向日葵は亡骸に歩み寄る。
そこには、向日葵が黒紐狐で視た光景が、現実として横たわる。
原型は、ほとんど留めていなかった。
顔は潰れ、頭部らしき形が辛うじて分かる程度。四肢は右足だけが残り、他は付け根や関節から切断されている。
胸から腹にかけては、縦横に引き裂かれ、内部を抉り取られており、もはや“貪られた残骸”と呼ぶほかない。
武三郎は眉をひそめ、清志郎は息を呑んだ。これまで地鬼、豚鬼、食鬼などの討伐で、同業者の無惨な最期を何度も見てきた2人でさえ言葉を失う。
生きる者を“遊び半分でなぶり殺しにした”痕跡に、嫌悪感が増すばかりだった。
向日葵が袖で口元を覆ったまま、静かに息を整える。
その時、あんずが、ふらりと一歩後ずさった。
彼女は3人から少し離れた位置で立ち尽くしていたか、視界に入る現実に呼吸が乱れ始めている。
胸が上下し、祓串を握る手が激しく震え、耳がぺたりと垂れ下がり、尻尾は内側に巻かれていた。
自身でも視界が揺れ、足元がふらつくのを自覚していた。
様子に気付いた向日葵は、すぐに駆け寄ると、そっとあんずの肩へ手を伸ばした。
「……っ……向日葵ちゃん」
「大丈夫?ここは……私たちがやるから」
あんずは唇を噛み、必死に堪えようとするが、視界の端に映る“人だったもの”の残骸が、心を容赦なく揺さりをかけてくる。
「……ごめん。アタシ……ちょっと」
「いいの。謝らなくていいよ」
向日葵は優しく言い、あんずをそのまま座らせると、武三郎と清志郎のところに戻った。
武三郎が腕を組み、低く呟く。
「……しゃあねぇ、キヨさん。ここから先は、俺たちで確認するとするか」
清志郎も頷き、表情を引き締める。
「んだべ。何があったか、確かめねぇといけねぇな」
向日葵は2人の横に立ち、侍の亡骸へ屈み込む。
「……この人が、どうしてこうなったのか?何が起きたのか?僅かな手がかりかもしれないけど、きっと残っているはず」
向日葵は地面を見渡しながら2人に指示を出す。
「よし……タケ、キヨ。遺体と周囲を調べてみましょ」
「おう」
「んだべ」
向日葵は一度だけあんずの方を振り返り、安心させるように微笑んだ。
「大丈夫。ここは任せて」
あんずは胸に祓串を抱きしめ、震えながらも小さく頷いた。
「……うん。何かごめんね」
向日葵も気遣うように微笑み返すと、侍の亡骸周辺を隈なく見渡す。
武三郎と清志郎は、侍の遺体に近づき、周囲に散らばる物を慎重に見渡した。
「……ひでぇな。ここまでやるとは」
武三郎が低い呟きには怒りが滲み出ている。
「んだべ……地鬼が一斉にかかって、ここまでにしたんだろうけど……奴らの仕業だけじゃねぇ気がするべよ。ここなんか火傷や妙な切り傷まである。刀傷にしては、妙な切り口だべな」 惨殺体の部分を見て、清志郎の声には、珍しく警戒が滲んでいた。
「明らかに、呪術を受けているね。火傷と切り口から、炎と風の呪術」
「お前さんが見た"真紅の陰陽師"の仕業かもしれねえな。えげつねぇことしやがる」
向日葵は、侍の残骸のそばに落ちている“何か”に気づき、そっと手を伸ばした。
それは、血にまみれた、小さな木札だった。
紐は切れ、表面は泥と血で汚れている。向日葵は指先でそっと拭い、刻まれた文字を読み取った。
「……これ、小田瓦ギルドの冒険者証よ。名は数馬とある。村の人達が言っていた冒険者は、このお侍さんのに間違いないね……この人、江戸から離れた南西の海岸沿いの港町から来ていたんだね……」
木札には、三等級を示す紋様が刻まれている。
遺体は間違いなく向日葵たちより前に先行していた、三等級パーティの侍の者だろう。
武三郎が不審そうに眉を寄せた。
「小田瓦のギルドか……随分、遠くから来たにしては妙だな」
清志郎は周囲を見回しながら、低く呟く。
「んだべ……依頼で来たんだろうけど……わざわざ小田瓦の町で江戸の依頼があるにしては、おかしいべ。江戸近隣の冒険者ギルドが出していた依頼さなのに。それこそ黒幕に“誘い込まれた”……そう考える方が自然だべよ」
向日葵は、侍の木札の下にもう一つの物が落ちていることに気づいた。
黒漆に金の線が走る、小さな印籠と短刀。
まずは、印籠を手に取ると、表面に刻まれた家紋が目に飛び込んできた。
──破矢の輪。
細い円の中で、二本の矢が互い違いに交差し、どちらも中央で“ポキリ”と折れている。
向日葵は目を見開いた。
「……この家紋……“破矢の輪”。小田麓の武家の一つ、矢尾津家のものかもしれない」
武三郎が目を細める。
「折れた矢の家紋……縁起でもねぇが、何か意味があるんだろ?」
向日葵は印籠をそっと撫でながら、静かに語り始めた。
「“破矢の輪”には、2つの由来があると言われてるの」
1つ目は破矢の輪。
矢尾津家は、小田瓦の武家の中でも、戦国期や魔物・妖魔との戦いで名を馳せた勇猛な士族。
ある戦で、強大な妖魔を討つため放った矢が、妖力に弾かれて空中で折れた。刀も折れ自身も瀕死だった矢尾津家の侍達は、それでも果敢に立ち向かい、最後は折れた矢を手に捨て身で妖魔の脳天を貫き絶命させたという。
「武器が折れても、魂は折れない」その象徴として、折れた矢が家紋になった。
2つ目は無常の理。武は朽えど、また生まれる
矢尾津家は「武はいつか朽ちる」という無常観を信条とする。
折れた刀や矢を手にしてでも足掻き、修羅場を越えた者こそ、真の武の高みに至る。古い武は朽ちても、新たな武の潮流を生み出せる。形に囚われない深い哲学が、折れた2本の矢に込められている。
向日葵の説明に、武三郎は感心したように頷いた。
「おいらも侍のはしくれだけどよ……戦場も魔物との戦いも、綺麗事なんざ一つもねぇ。勝つために使えるもんは全部使う。……こういう家紋、嫌いじゃねぇな。カッコいいじゃねえか」
清志郎も印籠を覗き込みながら、低く呟く。
「忍のあり方にも、通ずるものがあるべよ。もう叶うごとねぇけど……このお侍さんとは、生きて会いたかったべな。もしかしたら、為になる話も聞けたし、気が合ったかもしれねえべな」
次に向日葵が短刀手に取ると、柄の根元に刻まれた文字が見えた。
「“数馬”」
武三郎が目を細める。
「自分の名を刻んだ短刀か。武家の者が持つ“護り刀”ってやつだな」
清志郎が柄の断面を見て、眉を寄せた。
「これ……折れ方が妙だべ。地鬼に折られたってより……“呪力で弾けた”感じだべよ」
向日葵は印籠と短刀の柄を並べ、静かに呟いた。
「……数馬さんは、真紅の陰陽師と対峙した。そして……呪術を受け、最後に地鬼に一斉になぶり殺しにされた可能性が高い」
あんずが震える声で尋ねる。
「……じゃあ……数馬さんは?仲間の人たちは?その陰陽師に?」
向日葵は小さく頷いた。
「ええ。姿が見えないから断定は出来ないけど、生きていても無事では済まされないはず。これも真紅の陰陽師の仕業といって間違いない」
玄室の空気が、さらに冷たく沈んだ。
向日葵は静かに印を結び、数馬の亡骸へ防腐結界を張った。 淡い青白い光が遺体を包み、空気がわずかに澄む。
「……これで1日くらいは腐敗もさないし虫も寄らない。数馬さん……て呼んでいいかな……?私たち、まだやる事あるから、終わるまで、少しだけ時間を下さい」
向日葵の声は、祠の冷気に溶けるように静かだった。
あんずも震える手で祓串を構え、おそるおそる退魔術式を施す。白い光がふわりと遺体を包み、穢れを遠ざけていく。
「……向日葵ちゃん、これで、いい?」
「うん。十分よ、あんず。ありがとう」
武三郎は大太刀を地に突き立て、数馬の亡骸へ向き直り両手を合わせる。
「……あんちゃん。お前さんの無念、おいら達が必ず晴らしてやるからな。武人として、ここで死んだままにはさせねぇ」
清志郎も隣に立ち、両手を合わせて、静かに頭を垂れる。
「んだべ……黒幕は必ず見つけ出す。おめぇの仇は、オラらが討つべ」
向日葵はそっとあんずの肩に手を添え、静かに頷く。
「……共に鎮魂の祝詞を送りましょう。ねっ……あんず」
「……うん。向日葵ちゃん……」
二人は並んで両手を合わせ、祠の冷気の中で、陰陽師と巫女の祈りがひとつに重なった。
向日葵は扇子を胸元にしまうと、静かに膝を折る。
その声音は、祠の闇を鎮めるように澄んでいた。
「その御魂、いま穢れの鎖より離れ、安らぎの道へと還り給え。我ら、そなたの志を継ぎて歩まん。どうか、心安く眠り給え」
言葉を終えると、向日葵はそっと扇子を伏せ、深く、深く頭を垂れた。
向日葵な続き、あんずは祓串を胸に抱きしめ、震える指先で紙垂を整えながら、亡骸の前に膝をつく。
耳は伏せ、涙をこらえながらも、その声は真っ直ぐで、どこか幼い祈りの響きを帯びていた。
「掛けまくも畏き、和慈天姫命の大御前に白さく。
迷へる者、傷み負ふ者の心の翳を祓い清め給え、安らけき道へ導き給え。
天つ風は和ぎ、地つ水は澄み渡り、御身の光、我らが胸に満ち満ちて、穢れ・禍事を遠ざけ給え。
ここに願ぎ奉るは、人の子らの命、健やかに、清らかに、災より守り給へと申すなり。
かく宣り給ふ御心のまにまに、光の道、いま開けたり。畏み畏み白す」
向日葵は、礼を重んじる凛とした祈り。
あんずは、生命と御霊を尊ぶ、素朴で健気な祈り。
2人の性格と真摯さ溢れる、その祈りは、まるで命散らした者を包み込む柔らかい温かさと、清らかさに満ちていた。
2人の祝詞が終わり、改めて4人で両手を合わせ、侍の冥福を祈り、玄室の扉に向いたその時だった。
かすかに……だか。
左手の玄室の奥から「……う……ぁ……」と、か細い呻き声が聞こえた。
武三郎が即座に顔を上げる。
「……今の、聞こえたか?」
清志郎は忍び足で一歩前に出る。
「んだ……生存者がいる?いや、まさか……」
向日葵は扇子を握りしめ、あんずは祓串を胸に抱きしめたまま震える。
祠の奥から漂う、生者とも死者ともつかぬ気配。
4人は慎重な足取りで、声のした左の玄室の扉に向き直った。




