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【完結済】異世界移住パッケージ~保証付きスローライフだと思っていたら拾った男が訳アリ王族でした  作者: りわ あすか
移住編*エオルトリア高地の魔女

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015 THOROUGH 〔知識などが〕深い、詳細な

 ユウの治癒行為の結果をもってして、村人たちの彼女への信頼は、確固たるものとなった。


 翌朝、ユウは老女の容態を確認しに行った。

 お茶の効果は持続しており、老女の顔色も昨日よりはずっと良い。


「おやさしい魔女様のおかげでございます……」


 老女は手を合わせて感謝を述べたが、ユウは照れくさそうに首を振った。


「いえ、お茶が合って良かったです。それと、村長さん」

 ユウは老女の部屋で村長を呼び止めた。

「おばあさんの腰、早く良くなるためには、やっぱり清潔が一番です。それに、皆さんも、できれば毎日、手や顔を洗う習慣をつけてほしいんです」


 村長は、昨日のユウの言葉を思い出し、困惑した顔をした。


「魔女様……水は本当に貴重でございまして……」

「分かります。でも、病気は目に見えない悪いものが原因で、それが体に侵入するのを防ぐために、清潔にするのが大切なんです。特に食事の前や、動物を触った後、用を足した後は必ず手を洗うようにしてください」


 ユウは、できるだけ分かりやすい言葉を選んで説明した。

 しかし、村人たちの衛生観念は、ユウの想像以上に原始的だった。

 彼らにとって、病は悪霊や不運がもたらすものであり、清潔にすることと病気の因果関係は、ほとんど結びついていないようだった。


「しかし……悪いものとは、一体……?」


 村長は、ユウの言葉の真意を探るように尋ねた。

 この世界に細菌という概念があるかどうかも分からず一瞬悩む。


「うーん、悪霊とか不運と同じものだと思ってほしいんですけど、お水で綺麗にすると、消えちゃうんですよ! ロシュディさん、ここって聖水みたいなものは無いんですか?」


 話題を振られたロシュディが静かに口を開く。


「村長。魔女の弟子殿が言う、悪いものとは、目には見えぬが、確かにこの世に存在する穢れのようなものだ。それを洗い流すことで、身体が清められ、病を遠ざけることができる」


 ロシュディの言葉は、村人たちの既存の概念に清潔を結びつける、巧妙な言い回しだった。彼の言葉に、村人たちはようやく納得したように頷いた。


「なるほど! 魔女様の仰ることは、奥が深い……!」


 村長は感銘を受けたように呟いた。ユウは、ロシュディの絶妙な通訳に内心で驚きつつも、彼のおかげで話が通じたことに安堵した。


「それに、手や顔を洗うなら、これを使うといいですよ」


 ユウはそう言って、手持ちの袋からトリアの花弁を取り出した。

 ロシュディとのリハビリを兼ねた散策で採集したので、在庫にかなり余裕がある。


「この花弁を揉むと、泡立って、汚れがよく落ちるんです。石鹸の代わりになります」


 掌で花弁を揉むと、白い泡が立ち、爽やかな香りが広がる。

 村人たちは、その光景に目を丸くした。彼らは、植物から泡立つ物質が出ることを知らなかったのだ。


「おお! これは、まさに魔女様の御業!」


 村人たちは次々とトリアの花弁を手に取り、その泡立ちに驚きの声を上げた。ユウは、子供たちにも洗い方を教え、アリアとアベルは、ユウの小屋でも使用した経験があるため、嬉しそうに手の洗い方を教えている。


 その日から、村の生活に少しずつ変化が訪れた。

 村のあちこちで、人々がトリアの花弁で手を洗う姿が見られるようになった。特に、食卓につく前には、ほとんどの村人が手を洗うようになった。


 最初は「勿体ない」「慣れない」と戸惑っていた村人たちも、ユウの薬草茶で老女の容態が劇的に改善したことで、彼女の言葉を信じるようになりつつあった。


 そして、手洗いを始めて数日後、村では風邪をひく子供が減り、小さな切り傷から熱を出す者も少なくなったのだ。


「魔女様の教えは、まさに神の恵みでございます!」


 村長は、深々とユウに頭を下げた。ユウは、自分が現代社会の常識を伝えただけなのに、ここまで感謝されることに、多少罪悪感を感じる。


 だがしかし、彼女もまた、目的があってここにきたのだ。


 調味料を入手したい。

 砂糖はどうやら希少品らしく、あまり大きな街でも取り扱われていないという話を、以前ロシュディからは聞いていたが、どうやら、岩塩はふんだんにあるようだった。


 しかもこの村からそう遠くない場所に岩塩の切り出し場所があるらしい。

 だからこそ、土地の塩分濃度が高めで、畑の様子が少し寂しいのだろう。


 以前の薬師同様に定期的に薬草を卸すかわりに、岩塩などに交換してほしい事を申し出ようとしたのだが、ロシュディに止められてしまった。


 どうやらユウが気軽に栽培している薬草類は、王都でも大変希少な代物で、簡単に流通させてしまうと、反対にこの村の暮らしを根底から否定し覆してしまう影響を及ぼしかねないそうだ。


 言われた事は理解できるのだが、なんとなく納得もしがたかった。

 自分の持っている力は付加価値でも何でもない。


 ロシュディの意見は、薬草茶とトリアの花弁をこの村に齎しただけでも、十分。気軽に与えると、気軽に無心するようになってしまう。


 年寄と子供ばかりの住まう辺境の村。

 大人の男は街に出稼ぎに出かけ留守にしている間、塩害にもやや強い作物を、残った村人たちが共同で育てている。絶妙なバランスで、けれども確実に成り立っていた村に外部から過干渉すべきではない。


 迷子の子供たちを送り届け、高地の小屋への帰り道すがら。

 粛々とロシュディから説得され、ユウは最終的に納得した。


「でも、たとえば自生しているトリアを加工して石鹸とか石鹸水を作ったりするのを村の人に手伝ってもらうのはありですか? 労働に対する対価なら、問題はないかなと思うんですけど」


 ロシュディは腕を組んだまま考え込んでいる。


「ロシュディさんにだって……ほら、労働に対する対価お支払いしてるし。いつまでも、居る訳じゃないでしょう?」

 

 ユウの言葉に、ロシュディがハッとしたように瞠目した。


「たしかに、魔女の弟子殿の行動を俺に縛る権利は無いな」


 そう返された声は掠れ、どこか物憂げである。

 

 ユウは、自分で振った話題の終着点に、落ち込んでしまう。

 彼女に保護されている男が、いつまでも、居る訳ではないのなら、尚更。外との接点が欲しいのは道理だ。 


 重たい沈黙を抱えたまま、ユウは小屋の扉に手をかけようとしたのだが、ロシュディに先を越される。開いた扉を背にして、ユウを促した。

 

 ――ズン、と響く音。

 そして無遠慮なナビゲーションの音声がユウの耳に飛び込む。

 

【納品クエストが完了しました】

【達成報酬が付与されました】


【生活者の定着度が規定値βを超えましたので、重要なお知らせを開示いたします】

【パッケージプランTの進行を希望しますか?】

【新サブクエスト発生:王子様との信頼関係を築きましょう】


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