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追憶のラビリンス~館の占星術師~  作者: 遠山 龍
第四章 安らぎのひととき
24/86

record24 怖い人

敦司がぼーっとしていると、浩介が肩に手を置いてくる。


「まああんな感じだし、早く樹くんのところに行って来いよ!」

「ああ、そうだな。はや……ん?」


聞き間違えだろうか。

行って来いと聞こえた様な気がする。

一応、敦司はもう一度浩介に確認をとる。


「なあ、お前も一緒に来るんだよな?」

「え、お、俺も?」

「なんだ、一緒に来てくれないのか?」

「あっ、いや……実は俺さ、すごく器用でね。器用選手権で一位とったことがあるほどなんだよね」


――そんな選手権、少なくとも俺は聞いたことがないんだけど……。


「だからさ、河西さんのやってることを見てると右手が疼き始めるんだ!!」


――浩介くんに軽い厨二病が発症してますけど!


「ってことで、今から河西さんの手伝いしてくるわっ!」

「あっ、おまえ!」


敦司が逃さまいと腕をつかもうとするが、それをうまく避けながらも逃げていく。

そしてある程度距離が開いてから浩介は一度振り向くと「ファイト!」とガッツポーズを残して河西の方へと向かっていく。

――あの野郎……とは言ってもあいつは手伝ってくれてただけだし文句は言えないか。

でもやはりそう思い込んでも一人で樹に会いに行くことを考えると気が引ける。

真夜や佳奈とはまた違った話しかけづらさが樹にはあった。

とにかく怖そうなのだ。

人を外見で決めるなという人もいるだろうが、怖いものは怖い。

――浩介も同じことを思ったから逃げたんだろうな。

そんなことを考えながらもここまで来て一人にだけ挨拶をしないのも失礼極まりないので話しかけることを敦司は決める。

それに悪いことをしているところを見たわけでもないし、柄が悪いわけでもない。

本当に何とも言えない雰囲気のせいなのだ。

とりあえず敦司は何か食事をとるようなふりをして樹に近寄っていく。

樹本人は誰かと喋っているわけでもなく、一人で飲み物を飲みながらも食事をとっていた。

そして敦司が近くに来たことに気付くと席を立ち上がり、食べ物を勧めてくれる。


「なんかさっきから見ていたけどあんまり食べてないみたいですよね?もしよければ少し食べます?」

「えっ、あの……」

「もしかして和食とかはあまり好みじゃないですか? やっぱり洋食の方が……」

「あ、いや、別にそういうわけじゃなくて……じゃあ一応」


テーブルの上の大きなざるの上に盛られている蕎麦を一、二回自分の皿に盛らさせてもらう。

パーティーが始まってからというもの、真夜にあげた時のサンドイッチしか食べてなかったのでお腹が減っていた。

つゆも欲しかったが、今更言うのもめんどくさいと思いそのまま食べる。

――やっぱり何かかけないと食べにくい……けど普通にうまい。

お腹が減っていたせいか、それなりに美味しく感じた。


「どうですか……?」

「結構美味しいですね。意外に食べられます!」

「それなら良かったですけど……何もつけず、そのまま食べられるんですか?」

「え、あー、それは……あはは」


何とも言えず、さりげなく笑ってごまかす。

さすがに「そうです」とも言えないし、今になって違うとも言えなかったからだ。

――あ、それより俺は乾杯しに来たんだった!

本来の目的を忘れそうになって、敦司は一旦食べるのをやめ皿をテーブルに置く。


「順番が逆になっちゃいましたけど、良ければ乾杯しませんか? 他の人とはしたので良ければ風間くんとも出きればなって思って」

「あっ、確かに……こっちの方もどうもすみません、忘れていました。今更ですけど、乾杯!」


グラスの音を聞きながらも樹ともうまくやっていけそうだなと敦司は思った。

確かに話しかけづらいというのはあるが、慣れれば平気なような気がした。

――でもこんな強そうな人でも連れてこられるって……俺と同じくやられたのだろうか。

どうやってここへ来たのかも気になるが、聞くのも失礼かと思いやめておくことにする。

けれど、樹の方は何かを感じ取ったのか親切で問いかけてきてくれる。


「なにかあったら何質問してもらっても構いませんよ?」

「あ、すみません……えっと、じゃあどうやってこ――」


と途中まで喋ったところで、食堂にガラスが割れた様なすごい音が響き渡る。

何かと思いすぐに音がした方向へと視線を向けると河西が「フフフ」と不敵な笑みを浮かべていた。

その近くにはガラスが散乱しており、さっきまであったシャンパンタワーはなくなっていた。

柚唯や翔は苦笑いを浮かべており、久遠は「ほら~言ったじゃないですかぁ」と河西に対して説教じみたことを言っていた。

運よく、怪我をした人はでてはいないみたいだ。

みんなから視線を浴びている河西は謝るわけでもなく、まだ不敵な笑みを浮かべていた。


「誰か、僕の代わりに挑戦してみる人はいるかな?」


――素直に謝ればいいのに。

そう思いながらも敦司は笑っていた。


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