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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
双子の過去

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憎悪と執着する男

暗闇の中、エリックの殺気が周囲を覆っていく。


足元から真っ黒な火花が散る。

夜の闇と黒い火花が溶け合った。


「イオラン、面白い事を口にするんだな。」


一歩踏み込むたび、草が焼けていく。


「喜んでくれて嬉しいよ。でも、そんな顔で近づくのはやめてほしいんだけど」


イオランはルミエルを見る。


ルミエルは青ざめていた。


小さな手が震えながら、イオランの服を掴んでいる。


呼吸が浅い。


幼いルミエルにとって、この殺気の中に立っているだけでも恐怖だった。


「お前の冗談に付き合うのは辞めたんだ。」


エリックの目が吊り上がる。


黒炎が足へ絡みつき、地面を焦がしていく。


「冗談じゃないんだけどな。」


ルミエルが小声でイオランに尋ねた。


「あ、あれも穢魔なの……?」


ルミエルが知る穢魔とは違った。


自分が扱う穢魔とも。

ルベルの穢魔とも違う。


あれはもっと禍々しい。


まるで憎しみそのものが形になったようだった。


「そうだ。アレは本来の穢魔に近いのかもね」


エリックの穢魔が、蛇のようにうねり始める。


イオランはそれを察知し、腰を落とした。


「来るよ。お嬢ちゃんは穢魔で防壁。無理ならアイツの穢魔にぶつけて」


イオランは視線だけをエリックへ向ける。


「俺は後ろから、動揺してるアイツを叩く」


同じ二対二。


だが、イオランはルミエルを庇いながら戦わなければならない。


不利なのは間違いなかった。


正攻法なら、ルベル達の援護が来るまで耐えるしかない。


イオランが足を踏み込む。


魔法陣が展開され、鋭く尖った土槍がリオンへ放たれた。


だが、リオンも同時に剣を抜き、地面を蹴る。


その瞬間。


エリックの穢魔が横から襲いかかった。


「っ――!」


ルミエルは恐怖で魔法を上手く発動できない。


イオランは舌打ちし、とっさに土壁を作り出した。


土壁は黒炎に侵食されていく。


バキバキと音を立て、土が黒く焼け崩れる。


なんとか直撃は防いだ。


だが――


その向こうから、リオンが踏み込んで来る。


剣が振り下ろされた。


早い……!


ルミエルを抱えたままでは躱せる間合いじゃない。


魔法を発動する時間もない。



間に合わない――


そう思った瞬間だった。


ルミエルの手が淡く光る。


次の瞬間。


カキンッ!!


リオンの剣が、何もない空間に弾かれた。


「ご、ごめんなさい……イオランの指示に……従えなかった……」


イオランはルミエルを見る。


震える手が光っていた。


二人の間には、薄い光の壁が展開されている。


「いや、上出来だ」


イオランは即座にその場を離れた。


挟み撃ちを避けるためだ。


同時に、暗い霧を周囲へ広げる。


視界を潰し、紛れるための魔法。


「お嬢ちゃん。姿を消す魔法を」


エリックは黒い霧を見て、低く笑った。


「それで隠れてるつもりか?」


エリックが足を踏み込む。


黒炎が一点に凝縮されていく。


「そんなの、吹き飛ばせば終わりだ」


次の瞬間。


黒い穢魔が地面を突き破り、霧の中へ噴き上がった。


イオランは黒い霧の中で、ルミエルに姿を消す魔法をかけさせる。


そして、その直後には霧の外へ抜け出していた。


黒い霧は陽動に過ぎない。


霧を抜けた瞬間――


さっきまで居た場所を、エリックの穢魔が飲み込む。


「ギリギリだった」


イオランは息を吐き、すぐに視線を動かす。


「お嬢ちゃん。リオンの後ろにある木、見える?」


ルミエルの手は、まだ震えていた。


「……う、うん」


「普通の風に紛れて切るんだ。アイツに気づかれるな」


ルミエルは震える手で風を放つ。


風刃がリオンの後ろにある木を切り裂いた。


ミシッ――!


幹が傾く。


リオンはその音に反応して振り返った。


「っ……!」


倒れてきた木を避けながら、周囲を見渡す。


「どこから攻撃を――」


リオンはすぐに叫ぶ。


「エリック様! まだ生きてます!」


エリックは苛立ちを隠せない。


「分かってる!!」


エリックは、倒れた木とは反対側へ視線を向ける。


「いないじゃないか! イオラン! 隠れてないで出てこい!」


煽るように叫ぶ。


だが、反応はない。


その間にも、イオラン達は静かに移動していた。


「お嬢ちゃん……出来れば捕縛。無理なら、息の音を止めたい」


イオランは隠さなかった。


綺麗事で誤魔化す方が、ルミエルの為にならないと思っているからだ。


ルミエルの肩が小さく震える。


それでも、イオランの服を掴む手は離さなかった。


「捕まえるのは……」


イオランは目を細める。


「正直、そっちの方が難しい」


生かしたまま制圧する方が、遥かに危険だ。


そもそも――


生かしておく方が良くない可能性もある。


ルミエルの表情に困惑が浮かぶ。


目を閉じ、この場から逃げ出したい衝動を押し殺した。


だが。


イオランはもう次の行動へ移っている。


先に、リオンから落とす。


エリックは、見失ったイオラン達を探すように、見境なく穢魔を撒き散らしていた。


黒炎が地面を穿ち、爆音が森へ響く。


その音に紛れ、イオランは静かにリオンへ近づく。


リオンは爆風から身を守るため、腕で顔を覆っていた。


イオランは、その背後で砂へ触れる。


「鉄が混ざってたらいいんだけど」


ルミエルはその言葉に首を傾げた。


次の瞬間。


イオランの魔法が発動する。


黒い砂が浮かび上がり、一本の太い柱のように伸びた。


それは音もなく、リオンへ襲いかかる。


「っ!?」


リオンは気づき、咄嗟に逃げようとした。


だが、一歩遅い。


足へ黒土が絡みつく。


さらに上半身にも巻き付き、動きを封じていく。


「嘘をつくな!」


拘束されたまま、リオンが叫ぶ。


それに呼応するように、エリックの穢魔が再び放たれた。


ルミエルは咄嗟に防御壁を展開する。


光の壁と黒い穢魔が衝突する。


二つは絡み合い、そのまま霧のように消えていった。


「そう簡単に消えないんだがな」


エリックは口角を上げる。


ルミエルの耳の奥で、心臓の音だけが大きく響いていた。


イオランはすでに次の魔法の準備に入っている。


空に、黒い円が浮かんだ。


そして――


黒い雨が降り始めた。


それは地面に触れるたび、確実に突き刺さる。


「お嬢ちゃん。アイツに攻撃して当てなくていいから」


ルミエルは水の塊を生み出す。


だが、それは小さく、歪で、不安定な形だった。


今にも弾けて消えそうなほど頼りない。


エリックはイオランの攻撃を避けながら笑う。


「なんだそれは!随分と貧弱だな」


「今にも弾けて消えそうだ」


ルミエルの水の玉は、恐怖に引きずられるように形を保てず歪んでいた。


「そんな意思でここに来たのか?」


エリックの声が低くなる。


「そうなれば、お前の前で戦ってるイオランは死ぬぞ」


その言葉に合わせるように、空気が変わった。


穢魔が形を変える。


炎が凝縮され、巨大な斧の形を成していく。


「これで首と胴体は真っ二つだ」


エリックの斧が振り下ろされる。


イオランの目が、斧の軌道を追った。


――違う。


自分じゃない。


ルミエルだ。


イオランは咄嗟にルミエルの手首を掴み、強引に引き寄せる。


次の瞬間。


轟音と共に、斧が地面へ叩きつけられた。


「っ……!」


衝撃で土が跳ねる。


黒い穢魔で形成された斧は、

地面へ突き刺さったまま、周囲を侵食し始めた。


ジュゥゥ……と嫌な音が響く。


草が黒く焼け爛れ、

まるで命そのものを喰われるように崩れていく。


ルミエルの頬を、冷たい汗が伝った。


もし避けるのが一瞬遅れていたら。


そう考えた瞬間、

背筋が凍りついた。



「子供から狙うのはどうかと思うけど?」


イオランの調子は変わらない。


張り詰めた空気の中でも、

妙にゆっくりした話し方だった。


「弱いやつから狙うのは戦略の一つだろ?」


エリックはルミエルを見る。


「お前達がしたようにな。」


イオランは小さく息を吐く。


「それなら、なおさらだ。」


イオランはエリックを見る。


「狙うなら先に俺だろ。」


その声に焦りはない。


まるで、

エリックの判断ミスを指摘するような口調だった。


「俺には、お前より横で何もできない人形の方が強いって聞こえるが?」


エリックの声には、露骨な棘が混じっていた。


その瞬間。


イオランの目つきが鋭くなる。


「……そうだ。」


短く返す。


「知ってるだろ。」


エリックはわざとらしく首を傾げた。


「何をだ?」


イオランは静かにルミエルを見る。


「お嬢ちゃんが、穢魔と聖炎を使える事だ。」


空気が止まった。


「知ってる。だから、その血が欲しいんだ。」


エリックの手が震える。


斧を握る力が強くなる。


「あの忌々しい天使の血を引いて、

半身は高潔な悪魔の血だ。」


赤い瞳が妖しく揺れる。


「汚くって、清潔で……」


その声は、

呪いを吐くようでもあり、

祈るようでもあった。


「憎くって、愛おしい。」


エリックはルミエルを見つめる。


「どちらも合わせ持った体が欲しい。」


それを聞いて、イオランは苦笑した。


「エリック……君はどこまで行ってもクソだな。」


呆れたように肩を竦める。


「欲しいって言う割に、さっき殺そうとしてたよね?」


エリックは、にっこりと笑った。


その笑みは妙に穏やかで、

だからこそ不気味だった。


「仕方ないさ。」


斧を握る手に力が入る。


「半分は、殺したいほど憎い血だ。」


赤い瞳が細くなる。


「なのに、もう半分は愛おしくて仕方ない。」


エリックは熱に浮かされたように呟く。


「理解できるだろ?」


ゆっくりとルミエルを見る。


「殺したい。……でも生かしたい。」


その声は、

独白にも告白にも聞こえた。


「そんな感情。」


エリックの手が震える。


斧を握る力が、さらに強くなった。


「知ってる。だから、その血が欲しいんだ。」


赤い瞳が妖しく揺れる。


「あの忌々しい天使の血を引いて、

半身は高潔な悪魔の血だ。」


エリックはルミエルを見つめる。


「汚くって、清潔で……憎くって、愛おしい。」


その声は、

呪いを吐くようでもあり、

祈るようでもあった。


「どちらも合わせ持った体が欲しい。」


赤い目が、

血のように真っ赤に輝いて見えた。


それを聞いて、イオランは苦笑する。


「エリック……君はどこまで行ってもクソだな。」


呆れたように肩を竦めた。


「欲しいって言う割に、さっき殺そうとしてたよね?」


エリックは、にっこりと笑う。


「仕方ないさ。半分は殺したいほど憎い血だ。なのに、もう半分は愛おしくて仕方ない血なんだ。」


熱に浮かされたような目で、

ルミエルを見つめる。


「理解できるだろ?

殺したいし、生かしたい。そんな感情。」


イオランはエリックと会話を続けながら、

別の事を考えていた。


――そろそろ、来ていい頃だ。


二人が合流して、

若様が移動魔法でここへ来るまで。


あと少し。


「俺には難しい考えだ。」


イオランは小さく息を吐く。


「憎いものは憎い。愛しいものは愛しい。それが同時に存在するなんて、俺には分からない。」


エリックは静かに目を細めた。


「そうか。」


その声は、

どこか納得したようにも聞こえた。


「だからお前は、俺を理解できないんだ。」


風が吹く。


焼け焦げた草が揺れ、

黒い穢魔が地面を侵食していく。


その中心で。


エリックだけが、

静かに笑っていた。

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