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奴隷だった少女は悪魔に飼われる 〜居場所のなかった少女は、悪魔に溺愛されていく〜  作者: アグ
双子の過去

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嵐の前の静けさ

2日間――


その時間は、長いようで短かった。


ルミエルが成長したかと言われれば、微妙だ。


攻撃魔法は使えるようになった。


だが、それだけ。


当てることは――まだ、できなかった。


 


「もう少しで屋敷だ。来る途中、若様の連れてきた兵士も見えた」


イオランは木々の隙間から屋敷を見据える。


ルベル達は、二日ほど早く到着していた。


それでも侵入しなかったのは――


ルミエル達を待ち伏せていたから。


そう考えるのが自然だった。


 


「うん……今すぐ、屋敷に……」


ルミエルが一歩、踏み出しかける。


だが、その手首をイオランが掴んだ。


「夜まで待とう」


ルミエルは首を傾げる。


「どうして……?」


イオランの視線は、屋敷から動かない。


「嬢ちゃんの透明化は、昼より夜の方が隠しやすい」


言い切る。


迷いのない声だった。


ルミエルは小さく頷く。


「……わかった。待つ……」


そう答えながらも。


握り締めた拳だけは、納得していなかった。


屋敷の中は、静まり返っていた――


物音ひとつしない。


閉ざされた部屋の中。


オニキスとカリナは、床に伏せていた。


もう、人の姿を維持できない。


限界だった。


白銀の耳は力なく垂れ、

尻尾も床へ落ちたまま動かない。


荒い呼吸だけが、かすかに響く。


逃げ出そうにも、身体が動かなかった。


 


ガチャリ――


扉が開く。


入ってきたのは、エリックだった。


赤い瞳が、弱り切った二人を映す。


「反抗期か?」


呆れたように笑う。


「ちゃんと食事を摂らないから、そんな姿になるんだ」


エリックは小さく息を吐いた。


まるで、聞き分けのない子供を見るように。



オニキスはふらつきながら立ち上がる。


耳を伏せ、

低く唸り声を漏らした。


威嚇。


それでも脚は震えている。


「……そんな事、どうでもいい」


吐き捨てるように言う。


「言われた通り、大人しくしてるだろ」


その言い方が――癇に障った。


 


ダンッ!!


突然、エリックが机を蹴り飛ばす。


激しい音が部屋に響き、

机の脚が鈍い音を立てて折れた。


カリナの身体がびくりと震える。


エリックはオニキスを睨みつけた。


「父親に対して、なんだその口の利き方は」


低い声。


怒気を押し殺した声だった。


「いい加減理解しろ」


一歩、近付く。


「だからお前達は、自由になれないんだ」


カリナは冷え切った目で、エリックを睨んでいた。


その視線に気付いたエリックが、

ゆっくりと見返す。


赤い瞳が細められる。


「……そんなに元気があるなら、着いて来い」


エリックは持っていたムチを軽く振った。


パン――


乾いた音が鳴る。


次の瞬間。


パシッ、と自分の足を叩いた。


その音に、

カリナの身体がびくりと震える。


視線が無意識にムチを追っていた。


呼吸が浅くなる。


「……文句なんて……」


声は弱い。


今にも消えそうなほど弱々しい。


それでも。


カリナの目だけは、逸れなかった。


「……まぁ、そういう目は嫌いじゃない」


エリックが薄く笑う。


誰かを憎むような瞳。


その視線が――どこか昔の自分と重なった。


 


「カリナ、やめて……」


オニキスが小さく声を漏らす。


さっきまでの威嚇は消えていた。


耳を伏せ、

エリックの様子を窺うように視線を揺らす。


刺激するな。


そう言いたげだった。


一歩間違えれば、

エリックが何をするか分からない。


オニキスは、それを知っていた。


エリックはニヤリと笑った。


「オニキスは賢いな。ちゃんと理解してる。」


エリックは顎に手を当て、

何かを見定めるように二人を眺める。


「こうして見ると……不思議だ。」


視線がゆっくり動く。


まず、オニキス。


「こっちは、俺に顔がよく似てる。」


次に、カリナ。


「そして、おまえは――性格がそっくりだ。」


その目は、

子を見る父親のものではない。


自分の血が、

どれだけ濃く残っているかを確かめるような目だった。


エリックは口元を歪める。


「そう考えると……カリナ。」


愉快そうに目を細める。


「おまえの方が、俺の跡取りに向いてるのかもしれないな。」


カリナの目がさらに鋭くなる。


「あんたの跡取りなんて……願い下げです。」


空気が張り詰めた。


だが。


エリックは怒らない。


むしろ、

壊れたように口角を吊り上げた。


「……そうだ。」


低い声が落ちる。


「その目だ。」


エリックはカリナの顎を掴み、

無理やり自分の方へ向かせる。


細い指が食い込む。


「気に入らないものは壊したくなる。」


低い声。


「欲しいものは、どうしても手に入れたくなる。」


カリナの瞳が揺れた。


その言葉を聞いた瞬間――


胸の奥が、

微かに熱を持つ。


理解してしまった。


その衝動を、

自分も知っている。


「……おまえも、そうだろ?」


エリックが笑う。


「俺と同じ目をしてる。」


カリナは声を失った。


違うと言いたい。


こんな男と同じなはずがない。


なのに。


心のどこかが、

“理解された”ことに震えていた。


「その目だ。」


エリックの口角が吊り上がる。


「俺と同じだ。」


その瞬間。


オニキスが無理やり二人の間に割って入った。


「お、お父様……っ」


震える声。


それでも、

必死にカリナを庇うように立つ。


「離れてください……。カリナも、私も……疲れていて……」


エリックは不意に、

カリナの顎から手を離した。


まるで、

もう満足したと言わんばかりに。


そして何事もなかったように背を向け、

扉へ向かう。


ドアノブに手を掛けたまま、

軽い声を落とした。


「二人とも、ちゃんとご飯を食べるんだ。」


振り返らない。


「じゃないと、訓練もできないからね。」


その声音だけ聞けば、

子を気遣う父親にも聞こえる。


だからこそ、

余計に気味が悪かった。


エリックはそのまま部屋を後にする。


重い沈黙だけが残った。


――その頃。


ルベルたちは、

屋敷の近くで静かに待機していた。


「まだ来ないのか……! 早く二人を見つけ出せ!」


ルベルの怒声が響く。


ルミエルとイオランより先に、

ルベルたちは屋敷の近くへ到着していた。


だが――まだ姿が見えない。


焦燥が、

空気を張り詰めさせていた。


「もう着いていても、おかしくはないのですが……」


エルが静かに呟き、

森の奥へ視線を向ける。


その隣で。


腕を組み、

堂々と仁王立ちしていたレヴァントが鼻を鳴らした。


「その辺で、のたれ死んだんじゃねぇか?」


あまりにも無神経な言葉。


空気が一瞬で冷える。


ルベルが、

鬼のような形相でレヴァントを睨みつける。


「――先に死にたいようだな?」


低い声。


だが、

その一言だけで空気が震えた。


ルベルの身体から、

凄まじい殺気が溢れ出す。


周囲の兵たちが思わず息を呑んだ。


しかし。


それを真正面から受けたレヴァントは、

むしろ口角を吊り上げる。


「いい。」


ギラついた目。


獣のような笑みが浮かぶ。


「そういう殺気――嫌いじゃねぇ。」


レヴァントもまた、

いつでも飛び掛かれるように構えた。


今にも衝突しそうな空気。


だが。


そんな二人の間に、

エルはまるで動じる様子もなく割って入った。


「二人とも、落ち着いてください。」


静かな声。


だが、

その場を制するには十分だった。


「敵陣の近くです。それに――」


エルは兵たちへ視線を向ける。


青ざめた顔。


張り詰めた空気。


「……皆、怖がっています。」


ルベルとレヴァントは、

そこでようやく周囲を見た。


漂っていた殺気が、

少しずつ収まっていく。


エルはそれを確認すると、

改めて口を開く。


「相手はイオランです。」


その名が出た瞬間、

空気がさらに張り詰めた。


「こちらの動きを把握している可能性も高い。」


エルの視線が森へ向く。


「もし、ルミエル様の姿を隠す魔法を使われていた場合――」


一拍置く。


「既に、この包囲を抜けている可能性もあります。」


冷静な分析だった。


だからこそ、

余計に重かった。

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