ローブの香り9
期待と不安を押し殺して開いたその手紙には、ダリウスがすでにこの世にいないことが淡々と綴られていた。
その瞬間、世界から音が消えた。
呼吸ができず、胸をかきむしるように苦しくなる。
声にならない悲鳴が喉に詰まり、涙があふれて止まらない。
「ダリウス……」
震える指先で、私は手紙の続きを読み進める。
書き手の名は、すぐに分かった。
――魔王だ。
ダリウスの代わりに可愛がってやる。
呼べば、すぐに助けてやる。だから、早く私を呼べ。そして私を選べ。
そんな馬鹿げた内容だった。
「馬鹿にするのも、いい加減にして!!」
まさか、ダリウスが死んだら魔王に行くとでも思ったの!?
叫びながら、手紙を真っ二つに引き裂く。
それでも気が済まず、さらに細かく、何度も何度も破り捨てた。
「誰が……呼ぶわけないじゃない!!
ダリウスを殺した、あんたなんか……絶対にっ!!」
破り捨てられた紙片は、すぐに黒いススのようになり、やがて跡形もなく消えていった……
…………
……
「魔王は、私が欲しくてダリウスを処刑したんだわ……」
「どういう事だ?」
「処刑の前日、魔王から手紙が来たの」
「えっ?」
「ダリウスが処刑されたから……俺を選べ。呼べばすぐそこから助けてやるとか、そんな内容が書いてあった」
私の言葉に、ダリウスは複雑そうな顔をした。でも、瞳の奥に怒りが滲んでいた。
「やっぱり……結局はリシェルを手に入れるためだったんだな。あの処刑は魔王に仕組まれていたと見て間違いないだろう。普通に考えてやりすぎだったしな」
ダリウスは悔しげに自分の前髪をグシャっと掴む。
確かに、考えれば考えるほどそういう気がしてくる。
ということは、魔王が私を欲しがらなかったら……関係がバレることもなかった?
そして、もしバレたとしても、予想していたように投獄だけで済んだ?
……分からない。
こんな事を考えるなんて無意味だわ。
そう分かっていても、考えずにはいられない。
「今の私たちは前世とは違う。簡単に処刑されるような立場じゃない……そう思いたい。
でも……どんな理由であっても、前世は『予想外』の処刑という判断を下されたわ。
だから、私たちの関係を続けていたら、今世だって身の保証はない。
なにより……今世は前世よりもひどく状況が悪いわ」
私の言葉に眉をひそめるダリウス。
「……?」
「――私たちは、禁忌を犯してしまった」




