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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
許されぬ恋のはじまり~終盤~

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ローブの香り5

 

 次の瞬間――

 歓声が湧き起こった。



「マジか!やっとだな!」

「これで悪魔に怯えなくて済むわ!」

「あんな事件があったのに、教室や寮分けだけで済んでるなんて、おかしいと思ってたんだ!」

「やっと、やっと悪魔が追放されるのね……っ!!」


 笑顔に包まれる食堂内。

 そんな様子が目に映っているのに、なぜか妙に現実味がなかった。




 ……ダリウスが……

 天界から、いなくなる?



 ……嘘っ……




 悪魔との共学が終わる。

 それは、もうダリウスの姿を目にする事さえできなくなるという事だった。



 私はあまりのショックに放心した。

 頭が真っ白になり、視界がぼやける。



「……リシェル?大丈夫?」

 ルヴェルの声がかすかに聞こえる。


「……ごめん……私、ちょっと……」

 言葉も途切れがちに席を立つと、「僕もついていくよ」と、すぐにルヴェルが後を追ってきた。


 もう、そんな事はどうでもよくて、私は何も言わずに壁伝いにふらふらと食堂を出る。



 遠くない未来でこうなる事は、ある程度分かっていた。


 でも……

 実際にそんな現実が訪れてみると、全く受け入れられなかった。



 別れていても、同じ敷地内にいる事で、どこかでまだつながっているような……そんな気がしていた。



 なのに……

 嫌だよ。


 ダリウス……


 ダリウス……




 足元がふらつき、視界が揺れる。


 クラッと視界が反転し、すぐに意識が遠のいた。




 …………


 ……



 シャーっと水の音が、耳に優しく響いてくる。

 薄くまぶたを開けると、斜めになった視界の中で、虹色に輝く噴水が映った。


 ……あれ……?私……


 身体を動かすより先に、頬に温もりを感じた。

 そして次に、肩に掛けられた柔らかな布の存在に気づく。

 指先でそっと触れてみると、それは滑らかな白い布だった。



 天使の男子用のジャケット……?どうして?



「気が付いた?」


 優しい声とともに、顔に影が差し込んだ。

 見上げると、青い空を背景に、ルヴェルがこちらを見下ろしていた。


 視界いっぱいに映り込むルヴェルに、思わず目が大きくなる。


「……ルヴェル?」


 あまりの近さに慌てて身を引いたその時、くらっと視界が揺れ、反射的に頭を押さえる。


「う……っ」

 もしかして、ルヴェルに肩を貸してもらっていたのかな。なんでそんなことに……?


「無理しちゃだめだよ。もう少しこうしていた方がいい」

 ルヴェルはそっと私の肩を抱き寄せ、そのままジャケットを掛け直してくれた。



 そうだ……

 私、食堂を出たあたりでフラついて……



「……ごめん……迷惑かけて……」


「ううん。そんなの、気にしなくていいよ。リシェルが倒れかけたんだ。心配するのは当然だよ。少し休めば、きっと良くなるよ」


 その優しい声が、かえって胸に刺さった。



 ……ダリウスが、もうすぐ天界からいなくなる。

 本当に……もう……



 その事を思い出しただけで、息が出来なくなりそうなほどに苦しくなる。



 泣いたら駄目なのに、じわりと涙が浮かび上がってくる。



「ねぇ、次の休みの日、気晴らしに僕と出かけない?」

 突然の誘いに顔を上げる。


「……えっ……?」


 ルヴェルは優しく微笑んでいた。


「リシェルが好きなセレネアの花が沢山咲く場所があるんだ。もうすぐセレネアの開花の時期も終わっちゃうし、一緒に見に行こう。絶対綺麗だよ」


 そんな場所、興味がないと言えばウソだった。


 でも……

 ルヴェルは、私の事が好きだと言った。

 その気持ちに応えられないのに、そんな優しさに甘えていい訳がない。



 そればかりか、そんな景色をダリウスと見れたら、どれだけ幸せだろうって……

 二人で肩を並べる姿を想像してしまう自分がいた。


 私は、どこまで行ってもダリウスの事ばかり。

 自分でも呆れてしまう。


 いくら想っても、ただ辛くなるだけだって分かっているのに……



「無理はさせない。約束する。なんならペガサスを用意しておくよ」


 やっぱり彼の優しさが痛い。

 本当はそんな優しさにすがれたら、少しは楽になれるのかもしれないって思う。


 でも……


 私はゆっくりと身を起こした。


「あっ、リシェル。もう少し休んだ方が……」


 これ以上、ルヴェルの優しさに甘えていたら駄目だわ。



「もう本当に大丈夫。ありがとう……」

 そう口にすると、ルヴェルの表情が曇った。



 本当は、全然大丈夫なんかじゃない。

 でも、ここで休んでいたからよくなるようなものじゃないって、自分でよく分かってるから……




 そう思った次の瞬間――突然、目の前のルヴェルが横に大きく吹き飛ばされた。



「……へ?」


 何が起きたのか分からず目を向けると、ベンチの脇で尻もちをついているルヴェルが映った。

 その直後、背後から怒りを滲ませた声が落ちてくる。



「……おい、てめぇ。いい加減にしろよ!」

 その声にハッとして振り返る。

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