ローブの香り4
目をやると、隣の椅子を引くルヴェルが映った。
「ルヴェル……」
トレー手にするルヴェルが、私の前にあるフルーツ盛りを見てため息をついた。
「リシェル。またそんな質素なもの食べてるの?」
「質素じゃないよ。フルーツはビタミンも取れるし……」
そう返した瞬間、ハッとしてルミナに目を戻す。
すると、ルミナが食堂の出口を出て行く背中が映った。
「あっ……」
ルミナ……
もう、ずっとこのままなのかな……?
あんなに小さい頃から一緒だったのに……
幼い頃の私たちを思い出しては、胸が痛くなった。
「リシェル。どうしたの?」
ルヴェルは不思議そうに出口側に目をやる。
「……ううん。なんでもない」
「それだけだと、夜まで体力が持たないよ?
せっかく飛ぶのが上手くなったのに、また実技授業を休まないといけなくなるよ」
「うっ……」
ダリウスに教えてもらったあの日から、飛ぶのが驚くほどに得意になった。
でも……歩くだけでクラクラするのに、飛ぶなんてずっと危険で、見学を続けている。
私は返す言葉もなくて、静かに目を伏せると、向かい側に座る友人が頬を膨らませて訴える。
「ルヴェル様、もっと言ってください!私が言っても全然聞かないんです!」
「うーん、一度、診てもらった方がいいよ。こうなってから結構長いでしょ?」
ルヴェルは私の隣に座り、優しくも心配そうな瞳で見つめてきた。
「大袈裟だよ。診てもらうほどの事じゃないし……」
私は、なんとか笑顔を作りながら返す。
最近、ずっと胃もたれがしている。
重いものは喉を通らず、フルーツやサッパリしたものしか食べられない。
こんな状態になって、もう1か月は経ったかな?
確かに、かなり痩せてきてしまったし、このままだとよくないって自分でも分かってる。
でも、その原因は病気でもなく――全部ダリウス。
早く立ち直らないといけないって分かっている。
友人に心配ばかりかけているし、勉学にも手がつかない……
何もかも全然駄目。
こんなんが続いたら、卒業なんて出来ない。
そうなったら、なんのためにお父様の反対を押し切って、アルカディア学院に入ったのか分からない。
「大袈裟なんかじゃないよ。本当にリシェルの事をとても心配しているんだよ」
「……ありがとう」
もう1度、無理に笑顔を作ってみせたけれど、ルヴェルは眉をひそめたままだった。
その時――
「大変だ!すごいニュースだ!」
食堂の入り口から大声が響いた。
一斉に視線が集まる。
天使用に時間分けされた食堂がざわつき始めた。
「聞いて驚け!悪魔との共学が……ついに終わるぞ!」
……えっ?
その言葉を聞いた瞬間、手に持っていたフォークがカランと音を立てて落ちた。
一瞬だけ静まり返ったように感じた食堂に、その音がやけに大きく響いた気がした。




