ローブの香り1
別れた後、ダリウスは何度も私に声をかけてきた。
『本当の理由を聞かせてくれ』
『話し合おう』って……
そんな言葉に、私は何も答えられず、ただ逃げることしかできなかった。
前世の二の舞にならないためには――
どちらにしても、別れるしか道はないから。
前世では、逃亡してからは、ずっと生きた心地がしなかった。
ダリウスも、逃亡前まで向けてくれていた笑顔もほとんど無くなり、眉間に皺を寄せて悩む姿が増え、次第にやつれていった。
そして、あの結末……
もう、二度とあんな過ちは繰り返せない!
そんなある日――
「えっ……!!」
強く腕を掴まれたと思い振り返ると、怒りを露わにするダリウスがいた。
「ダリウス!やだ!離してよ!」
「離すわけないだろ」
私はダリウスに強引に手を引かれ、人通りの少ない裏庭に連れてこられた。
すぐに背中が冷たい壁に押しつけられた。
逃げようとする私の逃げ道を塞ぐように、ダリウスが私の真横の壁に手をつく。
「や……やめてよ!こんな事されると困る!」
「なんで」
「なんでって……こんな所、誰かに見られたら……」
頭をよぎるのは、父との約束。
私は真っ青になりながら辺りを見回す。
「ああ……その好きな奴とやらに誤解されると困るからか?」
怒りをにじませた彼の声が鼓膜に響く。
でも、一瞬、何のことか分からず黙り込んだ。
すると、やっと浮かび上がる自分が過去に言った言葉。
『少し前から……他に好きな人がいた。だから……もう、引き止めないで!』
そうだった……!
「そ、そうよ。だから困るの」
視線を逸らしながら、眉を寄せる。
「……んと。下手なんだよ……」
悲しげに鼻で笑うダリウス。
「え?なにが」
「リシェルは、何に怯えてるんだよ」
その言葉にギクっと胸が鳴る。
「お、怯えてなんて……」
否定しようとしたその瞬間、ダリウスの視線がまっすぐに私を貫いた。
心の奥の奥まで見透かされるような、赤い瞳。
私は思わず、視線を逸らす。
すると、彼の手がそっと私の顎に触れた。
静かな力で、私の顔を正面に向かせる。
「俺の目を見ろ」
そう言われて、ついつい言われるままに恐る恐る視線を上げる。
そこには、私を逃がさないという意思に満ちた瞳があった。
「前に言ったよな。『このままじゃ、あなたまで危険になる』って」
「だから何?もう終わった話でしょ」
「終わってなんかない」
「終わったのよ!」
そう叫んで手を振り払った瞬間、思いもよらない言葉が返ってくる。
「悪かった」
「……え?」
突然の謝罪に、思わず顔を上げる。
そこには、悲しげな目でまっすぐ私を見つめるダリウスがいた。
「……な、に?」
なんで謝って……




