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【大賞作家】天使と悪魔が交われば、世界が滅ぶ。それでも、1万年越しの愛を貫く。  作者: 花澄そう
許されぬ恋のはじまり~終盤~

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崩れ行く……6

 

 今は、ダリウスとまともに話せる気がしない。

 もう少し、自分の中で気持ちを整理する時間が欲しい。


 驚いた顔を向ける彼に、慌てて付け加える。


「と、友達が……心配だから、部屋まで付いてきてくれるって……」


 そう言うと、「……ああ」と納得したような声を出した。


「まぁ、俺は女子寮の中までは入れないし。確かに、それならそいつに任せた方がいいよな……」

 そう話すダリウスは、どこか残念そうな顔をしていた。


「うん……。だから……」

 そう口にして、ハッとした。



 だから……?

 私は何を言おうとした?



 私に構わないで……?



「自分が思ってる以上に疲れてるはずだ。それに、最近ずっと調べものとかで無理してただろ?ちょうどいい機会だから、ちゃんと休んだ方がいい」

「……たしかに。そうだね……そうする」


 私は変に思われないように、無理に笑顔を作った。

 ダリウスは、そんな私の顔をどこか不思議そうに見つめると、そっと私の頬に手を伸ばしてきた。



 その瞬間、私は――その手から逃げるように、ほんのわずかに身を引いてしまった。


 気づかれない程度の、ほんの少しの動きだったと思う。

 なのに、ダリウスは動きを止めた。


 グッと拳を握り、静かに手を引っ込める仕草に、『まさか……、気付かれた?』という思いがよぎる。



「じゃあ、行くな」

 ダリウスはいつも通りに微笑んで背を向けた。


 そんな様子にホッと息をつく自分が居た。



「……うん」



 …………


 ……



 私は、眠れぬ夜を過ごしていた。


 窓の外には、満月のようでいて、よく見ると少し端が欠けている月が浮かんでいる。


 今日の月はいつもよりもひと際明るく、眩しい位だった。


 眠れないのは、きっとこの月のせい。


 そう思って何時間もベッドで横になっていた私は、ようやく体を起こし、重い足を引きずるように窓辺へと向かった。


 カーテンを閉めようと手をかけると、自分の手に青白い月明りが落ちた。


 見上げると、紺色と群青ぐんじょう色が混ざり合ったような夜空に、存在感のある丸い月が浮かんでいた。



『丸い月……って、なんか懐かしいんだよな』

『……懐かしい?』

『ああ、魔界には月や星はないんだ。なのに、なんでか懐かしく感じるんだよな。遠い昔……ひどく長い間、夜空に浮かぶ月をただ眺めていたような……』


 そんな言葉に、ふと、魔王から逃げて無の地に身を潜めていた時を思い出す。



 あの時、私たちは無の地にある古びた城のような建物に身を寄せていた。



 重症を負いながらも、私の体を気遣い、過剰な治療を頑なに拒んだダリウスは、長く床に伏せていた。

 朦朧もうろうとした意識の中でベッドで横たわりながら、彼は何度もぼんやりと月を見上げていた。



「あの時の記憶だったんだ……」




『じゃあ、月を見てはお前を恋しくなる俺を、お前がさらってくれるか?』

『分かった。攫ってあげる』

『それ、攫ってるって言えるのか?』

『ふふ……』

 抱き合いながら、幸せそうに笑う、あの頃の私たち。


 まだ半月ほどしか経っていないのに、あの時間はまるで、遠い昔のことのようだった。



「……羨ましい……。何も知らなかった、あの頃に戻りたい……うっ……」

 私はカーテンをギュっと握りしめ、顔を隠すようにして涙をこぼした。



 でも、どれだけ泣いても、悔やんでも、過去は戻らない。



「ダリウスを守らないと……」

 私は手の甲で涙をぬぐい、まっすぐに顔を上げる。


「今度こそ、間違えない……っ!」





 次の日――


 私は、お父様に呼び出された。


「失礼します」

「入りなさい」

「はい」


 書斎に入ると、山積みの書類の向こうでお父様がひじをつき、指先を静かに組んでいた。

 私の顔を見た途端、ふと目を細める。


「目が腫れているな。……何かあったのか?」


 ドキッとして、私は思わず目元に手をやる。


「……少し、怖い夢を見ただけです」

「そうか」

「それより、何か……ご用でしょうか?」


 数日だけの連休なのに、わざわざ帰宅を命じられるなんて……

 まさか、もう戦争が……



「ちょっと、気になる情報が入ってきてな」

 そう言いながら、お父様は机の上に置かれた白い手紙を人差し指でコンコンと叩いた。


「気になる、情報……?」

「ああ」

 戦争のことじゃない?


 そう思いながらその手紙に視線を移した。


 宛名はお父様。

 でも、差出人まではここからだと分からない。


 お父様は、深いため息をつくと悩ましげに額に指を添え、やがて重い口を開いた。

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