崩れ行く……5
もし……
もし、それが本当だったら……
私――悪魔であるダリウスと何度も身体を……っ!!
「……うっ……」
突然の吐き気が沸き上がり、慌てて口元に手を当てた。
すぐに突然耳鳴りがした。
立っていられない程に目が回り、咄嗟に壁に片手をつく。
その場でしゃがむと、遠くから友人の叫ぶ声が聞こえてくる。
でも、それすらも、霧のように消えていった――
ふと目が覚めた時には、私は一人、医務室のベッドにいた。
「……あれ?なんで……」
そう呟いた瞬間に蘇ってくる、彼女のセリフ。
『その位牌に刻印があったわ。
――滅ぼしの子によって命を落としたって……』
「うっ……」
私はすぐに顔を手で覆った。
ダリウスと、何回身体を重ねただろう。
……数なんて、覚えていない。
ただただ、自分のした行為への恐怖と後悔が襲ってくる。
不確かだと言いながら、確信を得たわけじゃなかったのに……
私は、なんて馬鹿なことをしてしまったんだろう。
目じりに涙が浮かび、ギュっと下唇を噛んだ。
その時、レールカーテンがシャッと音を立てて開いた。
驚いた私の前には、血相を変えるダリウス。
「リシェル……っ!」
「ダ……ダリウス……」
どうしよう。
今、どんな顔を向ければいいか分からないのに。
「大丈夫か!?さっきリシェルが倒れたって聞いて……」
息切れをしたまま、必死に言葉を紡ぐダリウス。
心配して、走ってきてくれたんだ……
昨日、どこか冷たく感じた彼。
もう私への想いが冷めたんじゃないかと思っていたのに……
その気持ちだけで、また泣いてしまいそうになる。
だから、私は必死に涙を堪えて視線を逸らした。
「もう、大丈夫……だよ」
「本当か?」
そう言いながら、ダリウスはベッド脇の椅子に腰を下ろす。
そんな様子が視界の端に入っただけで、困ってしまう自分がいた。
いつもなら、こんなふうに隣にいてくれるだけで嬉しかったのに。今は……
「……うん。ちょっと立ち眩みがしただけ。
今朝、ちょっと苦手なものが出て、朝ごはんを残しちゃったからかも……」
本当は違う。
でも、朝ごはんをほとんど食べられなかったのは、事実だった。
フレンチトーストの生クリーム添えがメニューにある日は、いつも迷わずそれを頼んでいた。
今日も、何も考えずにそのメニューを注文してみたけど……
ひと口食べた瞬間、胸が焼けるような違和感に襲われて、それ以上、どうしても喉を通らなかった。
昨日のショックが大きかったせいで……
「そうか……」
そう呟くと、突然ポンッと頭に手を乗せた。
その仕草だけで、また涙がこみ上げそうになって、下唇を噛んだ。
「昨日、色々思い出したばかりだし疲れたんだろ。俺もそのせいでしばらく頭が混乱していたしな」
ああ。
それで、泣く私をただ見てるだけだったんだ……
その時、ちょうど予鈴が響いた。
「……行かないとな」
そう呟き、立ち上がるダリウス。
「俺、次の授業で最後だから終わったら迎えにくる。それまでゆっくり休んでろよ」
その言葉に、私は思わず叫んでしまった。
「だ、大丈夫だから!」




