崩れ行く……1
朝――
彼を見かけたけれど、小さく手を振ることしかできなかった。
それでも、夜はほぼ毎日会えている。
本当は前みたいにいっぱい彼と居たいし、彼の姿を見ていたい。
でも、天使と悪魔の間に出来た壁は、未だに高いまま。
そして、どこかで私を監視するような、ルヴェルの視線も……
こんな状況で、これだけ会えている。
それはもう、十分すぎるくらい幸せなんだと思う。
そんなことを考えながら教室に入ると、不穏な会話が耳に入って来た。
「ヤバイよね」
「でも、まだ確定じゃないんでしょ?」
「とは言ってるけど……」
「悪魔との戦争が起こるなんて……」
――戦争?
話しているうちの1人が、入り口で立ち止まった私に気付いて声をかける。
「あ、リシェル、おはよう」
「お、おはよう……。今話してたのって……」
「リシェルも聞いて!今朝、実家から速達の手紙が届いてね、昨日、天界の中央広場で天帝セラフィエル様が『悪魔との戦争を視野に入れている』って仰ったんだって!」
「天帝セラフィエル様が……!?」
その話、ついに公開されたの!?
もしそうなら、事態はずっと深刻かもしれない。
そう考えた瞬間、前にダリウスと話した時に頭に思い描いてしまった、最悪の光景が蘇った。
それは……ダリウスと私が、互いに刃を向け合う光景。
思わず、胸の奥が凍りついた。
「そうなの!でね、これは機密事項なんだけど、悪魔との共学がなくなるかもしれないって噂よ」
「えっ……」
「あんな事件もあったんだし、逆にここまで共学を続けてこれたのが不思議だったと思うわ」
その瞬間、突然耳鳴りがした。
キーンと酷く煩い。
私は震える手で、耳に手を当てた。
「……って、事なんだけど、あれ?リシェル、大丈夫?」
友人は、呆然とする私を心配そうにのぞき込み、眉を寄せた。
「やっぱり……怖いよね。
まだ決まったわけじゃないけど、本当に戦争なんて始まってしまったら……」
セリフが遠のく中、ふら付く頭で教室を見渡した。
すると、不安げな顔をした天使のクラスメイト達が映る。
怖い、不安……
それはんな同じ。
でも、その『怖い』や『不安』は皆とは少し違うと思った。




