第24話 魔獣襲撃③
櫛奈が地中の魔獣をホームランしていた頃、その上空。
眼下を見下ろす一つの影。
ローブを目深に被ったその人物は男か女か、年老いているのか若いのかも判断つかない。
その人影は戦う櫛奈を見て、ゆっくりと首を横に振る。
「どうやらワタクシの見立てが甘かったみたいですね。あれだけの数の魔獣を相手に村人を守りながら戦えるほどの人物となると、下級魔獣では心許ない。中級でも相手になるか怪しいところでしょう」
その言葉と共に、虚空に手をかざす。それにより地上に現れたのは数体の人を装った魔獣。
名はムジナ。人を騙し、人を騙り、人を食う。ただし人の姿になれるのは中級以上の格を持つムジナのみ。下級は櫛奈達が倒したライオンのような姿しており、人を食らうことでその食らった人間の声、姿、経験値を会得する。そうなることでようやく中級となり、ムジナ足りえる。
つまり櫛奈の目の前に現れた数体の人を模した魔獣は、いずれも中級。これまでトゥムクス=ルムダの依頼を受けた傭兵達を屠ってきたわけだが、しかし呼び出した張本人の声音は沈んでいる。
「こんなものでは到底勝てないでしょうね。まさかこんな人がこの国に残っているとは……、想定外でした。まあワタクシが出ればいいか……」
そう言って地上に降りようとするものの、すぐに別の方角へと視線を向けた。
「あのケダモノ共。村の人間は狙うなとあれほど言ったんですが……。しかも狙いはあの騎士団長。……やはり、獣は獣と言ったところでしょうか」
苦々しげにそう声を発したその人物はローブを翻し、村の中央。
孤児院のある方角へと飛ぶのだった。
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「ん? 今、なんか空にもおったような……」
『今は気にしなくても良いかと。それよりも、彼らは先ほどまでの魔獣達とは格が違いますよ。気を付けてください』
「いや、そんなん見た分かるわ。明らかに人やん。さっきまでの四足歩行の奴らとはそら違うやろ」
『造形もそうですが、そもそもアレらは先ほどまで貴方がなぎ倒していた魔獣そのものです』
「え、あれあのライオンみたいなやつらの進化系なん?」
『はい、ムジナという魔獣、その上位種です。彼らは人間を捕食し、その捕食した人間の特徴を得るという性質を持ちます。例えば顔つき、例えば声、例えば技。そうした人間の個性を奴らは奪うのです』
「なるほどな。そら確かにさっきまでのとは格がちゃうな」
そんな会話を虚空と交わしていた櫛奈だったが、俄かに背後がざわついているのに気が付く。
櫛奈は相対する人型の魔獣を警戒しながら、近くにいた村人の男に話しかけた。
「どうかしたんですか?」
「いや、大したことじゃないんだ。ただ、アイツら、以前村で見かけたやつだなと思ってな」
「知り合いなんですか?」
「あー……。知ってるというか、本当に見かけただけでな。一時期孤児院に出入りしていたのは覚えている。なんでも、レィタムさんの依頼を受けた人達だったとか。その後消息を絶ったと聞いているんだが……」
「じゃあ、前に派遣された人なんかもな。で、依頼中にアイツらにやられた、ってことなんかもな。……ありがとうな、おっちゃん! あとはウチに任せてくれればええから、おっちゃんらは避難しといてや」
「そんなことできるか! 俺たちだって戦える――」
そう意気込んだ男の言葉は、風切り音に掻き消える。
人型、あるいは前任者を装った魔獣が男目掛けて剣を振っていた。
当然、その一撃は櫛奈によって防がれるものの、今まで魔獣が繰り出していた攻撃よりも遥かに重く、すっかり油断していた櫛奈は目を見張る。
「なんっ、でこんな強なってんねん……、しっかり構えてへんかったわ……。おっちゃんら、早よ逃げ。ここは大丈夫やから、他のところ助けに行ったって」
その言葉のおかげか、先ほどの魔獣の一撃を間近に感じたからか、村の男達は申し訳なさそうにしながら別の防衛拠点へと向かっていった。
残ったのは複数の人型魔獣と櫛奈、フェイレス。
それと――
「――っ! そういえばおったなあ!」
地面が爆ぜたかと思えば、出現したのは三本の手。地中にいる魔獣のものだ。それらの手は櫛奈の身柄を捕えようと迫り、同時に前方の人型魔獣は持っているその剣で勢いよく斬りかかってくる。
挟み撃ち。片方を防げば片方が活きる形。魔獣の手の三本中一本は既に櫛奈の足首を掴んでおり、逃げることはできない。
そんな状況で櫛奈は怯むことなく、ただ眼前に迫る刃を見据える。
敵の凶刃が彼女の胴を真横に引き裂く。まさに服と剣が触れる、そのタイミングで櫛奈は身をかがめた。
タイミングとしては完璧だった。たったそれだけの行動で、背後の腕二本は切断されて宙を舞う。
さらに足首を掴む手に対して彼女はそれを掴んだ。
かと思えば、直後それはすぐさま爆発して塵となる。
「あっつ!! 火加減間違えたわ!」
慌ただしく火の粉を振り払う櫛奈はちらりと後ろを振り返る。
魔獣の腕がいたその先。木立が並んでいたはずだが、それらは見るも無残に横たわっている。もちろん木々全てが斬撃に晒されたわけではなかったが、それでも十数本という木々が先ほどの攻撃の犠牲となっていたようだった。
「剣振って斬撃が飛ぶなんて、フィクションだけやと思ってたわ」
『極力直撃は避けた方がいいでしょうね』
「アホか。あんなん一回でも当たったらお陀仏やろ。絶対回避や」
櫛奈は改めて目の前の敵を見やる。
こんな危ない技を使う敵があと数体。彼女は警戒心を解くことなく、ゆっくりと息を吐き出し、手に持つ竹刀を構え直した。




