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世界の終りまで君と  作者: 佑
第一部 第三章 悪役令嬢の理由
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52. 悪役令嬢への道(味方を増やす)

「お姉様、もう夏も終わりそう――っていうか秋が来るわよ。ウィリアム殿下が自分で動く気になるのを待つのはやめて、そろそろ行動に移した方がいいと思う。男子たちは、お姉様が未来に希望を捨てていないってちゃんとわかったら、殿下を説得する方向で動いてくれるって。それにそろそろジョナサン様とニコラス様の二人は誤魔化しきれないわ」


 アリアンヌは律儀に年配の二人に敬称をつけた。

 就寝前のほんの短い時間、エリザベスの部屋に集まったのはアリアンヌとリリアナとリディアだ。


「そうね……。じゃあ、近いうちにまずリュカと話す――それからウィルと話すわ。『本当にサリーに心が移らないか、ちゃんと向き合ってみて』って。みんなのことはその後、再来週末くらいにパートリッジ家のお茶会に招きましょ。ちょうどウィルはその辺りで『ダンジョン』の視察のはずだから――リュカとトリスタンも同行するんですって。いい加減諦めればいいのに。

 ――サリーへの風当たりはどう?」


 聞かれたリリアナが少しだけ眉を寄せた。


「ちょっと、あやしくなってきてるわ――でも、まだまだね。周りからいじめられてるってほどじゃない。私はサリーとできるだけ一緒にいるようにしてるからわかるけど、白い目で見てるのはステファンとジョナサンとニコラスのファンの子たちだけよ」

「じゃあそろそろナタリアにもサリー側についてもらえるように頼んでみるわ。どうせならリュカと話すときにナタリアもいた方がいいわね――そうなると、パートリッジ家にナタリアを呼ぶわけにはいかないから、うちか……お父様に許可をもらわないと。

 私が一人で呼びだしたんじゃ萎縮されちゃうと思うからリディアとアリーにも一緒にいて欲しいんだけど、いいかしら。それにお茶会に男子がリュカ一人なのは気の毒だから……トリスタンにも聞いてみるわ」


 確認しながらエリザベスが話すとアリアンヌが頷いた。


「お父様には私から頼んでおく。水曜の放課後でいい?」

「ありがと、アリー。助かるわ。お父様ってホント苦手」

「なら私はその日はサリーと王都で買い物にする。おしゃれなカフェに行って雑貨屋さんを巡ろうっと。サリーってセンスがいいのよ。かわいいアクセサリーが見つかるといいな」


 リリアナの声は既に楽しそうだ。


「いいわね。後で何を見たか教えて」

「もちろんよ。みんなにお土産も探してみるわね。もちろんサリーには気づかれないようにこっそり」

「お姉様、教えて、なんて言ってないで今度私と行きましょうよ」

「私は学院外に出ようとすると手続きが難しいのよ。それにウィルも煩いし。お父様も。この前も差出人不明の妙な贈り物が届いたとかって言ってて――アリーも多分簡単には許可してもらえないわよ……サリーは大丈夫かしら……」


「うち(ボーンブリッジ伯爵家)の馬車を出すわ。それに、変装することにするのもいいかも。平民のフリで街を楽しむの。そういうの、ゲームでもあったんでしょう?」


 確かに、もと平民のサリーが友人と王都の街を散策するエピソードが何度かあった。ごろつきに絡まれて、攻略対象者に助けてもらうっていうお約束のストーリーの相手は……ナイジェルか。


「念のために――ナイジェルとごろつきに気をつけてね」

「ナイジェルに!? なんで?」

「からまれているところを助けてもらうイベントがあったの」

「なら変装はナシで護衛を連れて行くわ」


 フラグは立つ前に叩き折る感じで進めるリリアナである。頼もしい。


「でもそれ、わかる。ナイジェル様ならきっと女の子がからまれていたりしたら絶対助けそうですよね」


 珍しくナイジェルを褒める発言をしたアリアンヌの言葉にリディアが目を丸くした。


「え? アリー、ナイジェルが好みなの!?」


 そう聞いた声がちょっとうわずっている――。


「普通に素敵だと思うわ。二の腕とか、すごかったし」


 口調を変えずにアリアンヌが応じた。

 エリザベスが軽く咎めるような視線を送ったけれど、アリアンヌは気にしない。


「二の腕、って……見たの?」


 それは普段はシャツで見えない箇所を見たということで、アリアンヌに問いかけたリディアの声にショックがある。恋心はちゃんと成長しているみたい――。


「ええ、この前騎士科に行ったときに。お腹も見たわよ。腹筋がきれいに割れてたわ」


 表情を変えないアリアンヌとは対照的に、リディアが真っ赤になった。リリアナもだ。


「アリー、いい加減にしなさいよ」


 貴族令嬢にそんな話はタブーなのだ。たぶん。

 そう思って止めたのに、アリアンヌはしれっとした顔で続けた。


「だってお姉様が言ったのよ? ナイジェルは『着やせするタイプ』だけど、騎士科だから『脱ぐとすごい』って。せっかくだから待ち時間に訓練を見学させてもらって――」


 ぎょっとした顔が二つ、こっちを向いて――


「アリー!? 私が見たのはゲームの『画面』! しかも『記憶』よ。本人じゃないわ!!」


 二人がほーっと息を吐いたけど、顔は赤らんだままだし、エリザベスの顔も真っ赤だ。


「まあ、いいじゃない。やっぱりお姉様の『記憶』は本当だった、ってことで」

「よくないわよ! そんなおもいきり誤解を招くような言い方を――っていうか、なんであなた騎士科に?」


 アリアンヌは肩をすくめただけだった。


「お父様に届け物を頼まれたの。そうそう、訓練場にはステファン様もいたわよ。背中を向けていたから腹筋は見えなかったけど、背筋はやっぱり綺麗に引き締まってた。ジュリアが「気に食わないのよ」って叫んで切りかかってたわ。あの子、ボルドウィン公爵家の長女だから――でも、いくら軍部とはいえ、筋力では男子に勝てないわよね」


 なるほど、エリザベスの知らないところで、ジュリアとステファンの方も動き出しているのか……うまくいくといいな、と思いつつ、ちっとも動きださないウィリアムのことを腹立たしく思う。


 そして、アリアンヌがさりげなく自分が騎士科にいた理由をはぐらかしたことにも気づいた――こっちでも何か進行しているのかもしれない。


 ほんのりと紅い頬を押さえてリリアナとリディアが部屋を出た後、アリアンヌはエリザベスのベッドに座った。

 消灯時間が迫っているけれど、まだ何か話があるのだとわかる。


 隣に座って待つ。


 小さい時からそう。黙って待つのが一番だ。


「……ねえ、お姉様。ウィルベリー公爵家を継ぐ気は本当にないの?」


 そういう質問が来るってことは、なるほど確かに進行しているらしい。


 エリザベスが断罪&追放されるイベントは記憶にある最速でゲーム開始から一年二か月。それが既に五カ月目。しかもエリザベスの将来が魔王の嫁とくれば、家に残るのはアリアンヌかキャサリンで、才能的にはあきらかにアリアンヌの方が優っているのだ。他家から『嫁に欲しい』と言われる前に婿取りを、と父親が考えてもおかしくない。


 実際『記憶』にあるアリアンヌはエリザベスの断罪&追放の時点で婚約済みだった。


「いい人、なの?」


 アリアンヌが考えるように眉を寄せる。

 そのまま待っていても返事がこなかったので聞いてみた。


「二の腕と腹筋と背筋はどうだった?」


 ふふっ、とアリアンヌが笑った。


「見たことない――でも、『いい相手』ではあると思う。少なくともナイジェル様みたいな人ではないわ。いつも冷静だし。必要のないことは話さない」


 ふむ。


「だけど?」


 そう促すと、アリアンヌは彼女にしては珍しく、ちゃんとしたため息を吐いた。


「私である必要があるのかなって思うの。養子に来てもらって誰でも好きな女性を妻にしていいって言ったら、あの人、それでも私を選ぶかしらって考えたら――」アリアンヌはそこで言葉を切って、もう一度大きく息を吐いた。「ねえ、お姉様、公爵家ってやっかいよね。血を残すことがどれだけ重要なのかしら。サリーと並んだ私を見たら、一体何人が私を選ぶと思う? うちの家系は国際政策部よ。あの子みたいににこやかに誰とでも接することができる妻の方が、夫の役に立つと思うの」


 なるほど。つまり、アリー自身は乗り気ってことなのね。気になっているのは自分でいいのかってことだ。


「それ、相手の方に直接聞いてみた方がいいと思うわ」

「え!?」


 目を丸くした妹を静かに抱き寄せた。


「後からわかるよりいいもの」

「でも、うちは公爵家よ? 向こうから断るなんてできないわ」

「サリーの方がいいなら代わる、って言ってみたら? それで乗り気になるようなら、こっちから断ればいいじゃない」

「断ったりしたらうちが――お父様が困ることになる。辞められでもしたら――」


 ふむ。ということは、相手は――。


「アリー、男の人は年下の小娘に結婚を断られたくらいで仕事を辞めたりしないわ。むしろ向こうの方が身分が低いのなら、断れなくて困っているのかもしれない。

 聞いてみて、それでもあなたがいいんだって言ってくれるなら、それを信じることよ」


 それに国際政策部の男性に必要なのは誰でも簡単に信用してしまうような天真爛漫な妻ではない。それがわからないような相手なら、ウィルベリー公爵家に入る資格も妹の夫になる資格もあるわけがない。


 ポンポン、と背中を叩くと妹は小さい頃のようにきゅっと抱きついて来た。


「ありがとう、お姉ちゃん」


 それはもういつの頃だったかも思い出せないような昔の呼び方――ふふっと笑い合って、その日の姉妹は一緒に眠りについた。


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