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世界の終りまで君と  作者: 佑
第一部 第三章 悪役令嬢の理由
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49. 悪役令嬢への道(生徒会前半)

 パートリッジ家の二人兄弟であるディミトリとアントニーに加えて、ナイジェル、ニコラス、ジョナサンの男子メンバーが生徒会会報の編纂作業中。

 ため息だらけのウィリアムと、自主謹慎中のリュカと、基本的な生活が学院になく生徒会には属していないトリスタンはいない。それに今回が三回目の参加でまだ作業に慣れていないキャサリンとリリアナと一緒に学外に買い出しに行っているステファンもいない。


 アリアンヌとウィリアムの弟ロドリックは職員室だ。

 毎年生徒の保護者から生徒会に運営補助費を募っているのだが、『募金をしてくれた保護者の名前を公表する際は身分と金額を考慮した順ではなくてアルファベット順にしたり、個人が特定できない状態で金額を公表することにしたら少額の寄付もしやすくなるのではないか』というキャサリンのアイディアについての教師側の意見を聞くために配ったアンケートを回収に行っている。


 今日のリディアはエリザベスと一緒のはずで、ここには来ていない。

 男ばかり、しかも文章の校正という集中力はいるが面白みのない作業で、各々の手の動きは遅かった。


「……なあ、『悪役令嬢』って、ああいうものなのか?」


 そんな中でボソッとディミトリが呟いた。


「僕はもっとなんか、高飛車で、威圧的なのかと思ってた。あのとき来た王女様みたいに」


 そう呟き返したのはニコラスだ。


「俺、今のエリーの方が怖い……」


 こちらはナイジェル。


「僕だってそうだ。僕らの存在、ほぼほぼ無視、だからな」


 ジョナサンの声は単調だ。


「ああ、無視っていうか、反応がない。この前あの『壁ドン』っていうやつ、ふざけてやってみたけど、リアクション薄すぎて泣きたくなった」

「は!? ディミトリ、お前それウィルに知られたら……」


 ナイジェルの声にディミトリが「意味ナシだ」と首を振る。


「多分誰がやっても一緒なんじゃないか。返ってくるのは冷たい眼差しのみ、だ。エリーが見分けてるのはウィルだけ。ちなみに見分けてるって言ってもいい意味じゃない。あいつのことは誰よりも嫌がってる――このごろじゃ出会った頃なみに避けてるし、前は受け取ってた花とかも今は一切受け取ってない。酷くなってる」


 冷静に観察結果を伝えるのはやっぱりジョナサン。


「なんで関係が日々悪化するんだよ……婚約したんだし、仲良くやってればいいじゃないか。なあ?」


 少々怯えた目になっているナイジェルが聞く。


「エリーは最初から言ってたじゃないか。王妃になりたくないんだよ」

「でも、公爵家の令嬢だろ? 王太子と婚約したんだし……」

「だから、身分を考えるなって。あきらかに嫌がってるし、破棄させようとしてるだろ」


 顔を見合わせて首を振る面々。


「『悪役令嬢』……サリーの方は?」

「今のところいじめてないけど、確実に距離は置いてる」

「いじめるのか? サリーだっていい子だろ? がんばり屋だし」

「だから困ってるんだろ? ウィルがエリーを諦めない限りエリーは自由にはなれないんだよ。今年度に入った頃は何度も説得しようとしてただろ。だけどウィルが聞き入れないから……」


 今度は一同ため息だ。


「ウィルの気持ちはわかる。それに上からは絶対逃がすなって言われてるだろうしな……」

「だけど、完全に脈ナシ、だろ?」

「でもこうなるとエリーは逃げ道ナシだろ。王太子との婚約なんて簡単には破棄できない」

「それで『悪役令嬢』なのか?」


 またしても一同ため息。しばしの沈黙。


「……俺はお前の弟も怖い。あれ、本当に末っ子か?」

「間違いないよ。リュカに似てるだろ?」


 沈黙を破ったナイジェルの言葉にアントニーが首を振る。


「顔は似てるかもしれないけど、雰囲気が真逆だよ。リュカはもっとこう……紳士だろ。トリスタンって俺の記憶だとなんかもっとぼんやりしたやつだったような気がしてたのに。何度か遊んだよな?」

「そうだね。前は何にも興味ないって感じだった。だけど賊に襲われて母親を殺された上に八年間も逃亡生活をしていたんだから、性格も変わると思う。無事で帰って来たことだけでも嬉しいよ」

「家でもあんな感じなのか?」

「ああ。家ではほぼずっと祖父といるんだ。たまに父とも話してる。黒魔法の才能は知識も技能も断トツだそうだ。僕にもわからない内容も結構ある――どこでどうやって学んだんだろう」

「お前の祖父じいさんがこっそり教えてたんじゃないのか?」

「さすがの祖父でもそこまでの時間も余力もないよ――あれで結構忙しいんだ」


 アントニーが首を振る。


「リュカの様子はどうだ? ナタリアとは?」

「エリーの『記憶』の通りだよ。許しが出るまで万事控えめに。だ。エリーとウィルのことが片付くまではあの二人に再度の婚約話なんか出ない」


 三度目のため息が場を満たし、ガラリと戸が開いて、黒髪の少女がロドリックと入って来た。

 テーブルの上を見て眉を寄せる。


「ちょっと! 先輩たち! ちっとも進んでないじゃないですか! 無駄話はやめて手を動かして下さい! さっさと終わらせていただければ、それだけ早く私も姉のところに行けるんですから!」


 容赦ない非難の声に、男子たちが困り顔になる。


「だけどアリー、どうにかしたい、って思うだろう? あれからずっとエリーは――」

「先輩たちじゃ役に立ちません」

「でもどうにかしたい、って思うだろう?」


 繰り返されるのは姉を案じる言葉だが、アリアンヌは揺らがない。


「だったら姉を攻略してくださいよ。乙女ゲーキャラの名誉にかけて」

「なんだよそれ、俺たちのせいかよ。俺たちが落とすのはサリーなんだろ? っていうかサリーが俺たちを落とすんじゃないのか? まあ、全然そんなふうには見えないけど」


 納得がいかない、というように顔を顰めるディミトリに、ツン、と顎をあげるアリアンヌ。


「姉でもいいのよ。『追放されたくない』、『この人とずっと一緒にいたい』って思うくらい好きにならせてくれればそれでいいの――ウィリアム殿下じゃなくてもいいから! っていうか、むしろその方がいい。誰だろうと少なくとも殿下よりはマシよ」

「アリー、それは無理だよ。エリーが僕たちを見る目、知ってるだろ? 庭木に向けるよりもはるかに冷たい」

「ウィルなんてまるで害虫みたいに――」

「それに王妃に、って言われてるのに一貴族の妻に落とすなんて」

「せいぜいがとこロドリック――お前、やってみるか?」


 突然話を振られたウィリアムの弟が即座にバッと両手を挙げ、アンケート用紙が床に落ちた。


「絶対嫌です。兄に殺されます。父からも『エリザベス嬢には近づくな』って言われてるんです」


 未来の王様候補が兄弟揃って『魔王』に立てつくなど、下手をしたら国の存続の危機だから当然だろう。落ちたアンケート用紙を拾うために俯いて、ついつい苦笑したアリアンヌだった。


「そもそもエリーは王妃も大貴族の妻も望んでないだろ。王弟の妻だって同じだ。僕たちは全員『対象外』だってアリーも知ってるだろ?」


 アリアンヌは大きくため息を吐いた――いかにもがっかりしている様子で。


「なんで揃いも揃って役に立たないのかしら? その顔面偏差値の高さはなんのためよ」

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