温度差 ①
「悪いけど、君とは結婚できない」
冷たい視線でキッパリ言葉にされた。
「・・・えっ・・?」
驚きのあまり彼を見上げて声を発し・・そのまま止まる。私の視線が、思考が、開いた口が。
端正な顔立ちから告げられたその言葉が私のどこに刺さったのか、ガッチリと体が固まってしまった。
そのまま息することも止まっていたらしく、酸素を求めて自然と2度短く呼吸をして、やっと唇が震えるように揺れた。
「あ・・あの・・」
ー悪いけど、君とは結婚できないー
目の前の彼は今、そう言った。
彼の言った言葉が受け止めきれず、意味を探ろうとして声にする。
でも今言われた言葉と彼の刺すような眼差しが、私の口元から音を奪う。
ただ唇だけがパクパクと縦に動く。
「君だってこんな話、本気で受けたわけじゃないだろ?」
さっきと全く同じ顔して聞いてきた。ううん、質問じゃない。断言だ。
君だってって・・何故そう決めつけるのだろう。
「そんな・・私は・・」
信じられない思いで語尾が消えるほど小さな声を出して答えると、彼は眉間にシワを寄せて更に強い視線をよこした。
「じゃあ君は、こんな話を真に受けて結婚する気なのか?」
「・・・はい」
「・・・・・」
私の返事に信じられないといった感じに目をつぶり首を振って見せた。
結婚するつもりじゃダメなのかな?
私はその答えしかなかったのに・・・
「あのさ、俺はこの話をハッキリ断って終わりにするつもりで今日来たんだ」
その言葉に再度驚き、瞳が開く。
「そんな・・・」
さすがに度重なるショックな言葉に、見上げながら見つめていた視線がストンっと落ちた。
今、目に映るのは芝生だけ。
さっきまで彩られた庭園に感動し、彼の後ろを喜びと緊張を抱えながら歩いていたのに。
彼の言葉で全ての色彩を失ってしまった。
「今日、用意されたのは確かにお見合いと言う席かもしれない。君はどう言われて来たか、それは俺に分からないけど俺はそのつもりはない。君は22歳と聞いている、俺は27歳どっちもいい大人だ。親が何て言おうと自分の意見も気持ちもあるだろう?」
「・・・・・」
「この話は確かに昔から約束して決まっていたと聞いている。両家で決まっていた、違う、親父同士が口約束していただけの話だ。俺達が子供の頃にな。確かに世の中政略結婚ってものもある。でも、俺はそんなもんする気はない。だから君との結婚もない」
淡々と彼は語ってまた断言した。
さっき結婚できないと言われた時は彼の顔を見つめていられたのに、今は彼の顔をボーっと見るだけ。
断られているのに、どうしてだろう。
腹も立たなければ、悲しくもない。
指先がゆっくり動いて、振袖の袖をそっと掴む。そして、ぼやけていた視線の先の彼の顔がハッキリ見えた時、やっと自分の気持ちが言えた。
「私は、凌さんと結婚したいです!」