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キルポコ最高なカーニバルナイト  作者: モモル24号


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その2 伝説のパーティの敗北

 

 魔王が出現したのにも関わらず、常に平穏を保っていたアマネスト王国。そこに訪れたのは、いつもの冒険者達や商人ではなく不気味な姿をした使者。血の腐臭と鼻を刺す異臭の混じる大きな馬車。馬車の屋根には、誰の使いかわかるように一際大きな魔王茸を掲げていた。


 使者は魔王から直接遣わされた、いかがわしい姿の魔人だった。中途半端に黒いローブを身をまとい、アマネスト王国の女王の城門まで来ると門兵に静止される前に馬車から無造作に降りた。暴れ狂う魔王の使者にしては礼儀をわきまえていた。


 今まで他国から何度も使者は来たものだが、用件の大半は冒険者の一団の入国挨拶や、倒した魔物から得られる素材の取り引きが主だった。冒険者達は自信過剰で隙も多く礼節を叩き込まれ追い返されるようなものが大半だった。商人達は代々の付き合いの長さもあって、女戦士達の気性をよく知っていた。


 魔王からの使者などは、使者が届く前に討伐が済んでいた。だから使者が来訪する事など聞いた事はなかった。


「⋯⋯⋯⋯キーン・マースラカサマノオクリモノダ。ウケトレ」


 黒いローブを着た使者は、かろうじてわかる人語で言葉を述べ、馬車の荷台から血と汚物に塗れた首を投げ捨てるように城門へと放った。雄臭い匂い、血と排泄物に塗れた女達の八つの首は、生ける伝説とまで呼ばれた女狂戦士(ヴァルキルクス)達の首だった。


 ◇


「女狂戦士(ヴァルキルクス)達が敗れただと⋯⋯⋯⋯」


 並べられた首は洗浄されていたが、腐りかけた臭気と崩れかけた表情の悍ましさが増している。


「信じられぬ⋯⋯」


 アマネストの女王が目の前の現実を、受け入れられないのは、彼女達が自分を超えた力を持つ女狂戦士(ヴァルキルクス)だったからだ。


 過去に二度の魔王討伐により、彼女達の力はさらに上がっていたはずだった。


「娘達を呼べ。辛かろうが、現実の厳しさを教えねばならぬ⋯⋯」


 キルポコ村の戦士達は強い。だからこそ自信過剰になりがちだ。目の前の首だけとなった戦士がそんな傲慢さを持って魔王に挑んだとは女王自身も思わない。だが、当人だけではなく村人や周辺国に緊張感がなくなっていたのは確かな事実だろう。


 魔王がわざわざ首を届けたのは、そんな舐めた行いをする人々への挑発と嘲笑だろう。過去の魔王の記憶が継承するような話は聞いた事はないが、「女狂戦士(ヴァルキルクス)同様に、世代を重ねる度に強さは増している。


「活性化の様子がいつもより荒れていたのを、もう少し考えるべきだったな⋯⋯」


 魔物の数が増え、強さが増していた時点で異常は感じられていた。男達の滾りが増していたのも、強力な魔王誕生の兆候として見えていた。慎重に動いていたのならば、たった八人で討伐に向かわせず、追加でもっと人数を送れたのだ。


「後悔したところで、彼女達は戻らんのだが⋯⋯」


 魔王に敗れた伝説のパーティの無惨な姿を見て、何人の娘が女狂戦士(ヴァルキルクス)として、心を折らずにいられるのか。女王は首だけとなってしまった戦士達の魂が、安らかな眠りにつけるよう冥福を祈る。そして誇り高き彼女達の魂が、魔王などに負けず、次代の戦士の力となってほしいと願わずにはいられなかった。


 ◇


「⋯⋯⋯⋯酷い」


 呼び出された娘達は、自慢の母親達の惨たらしい首だけの姿を見て絶句した。そして哀しみの涙を流すもの、目を背け崩れ落ちるものと、反応は皆違った。


 女王は何も言わず首を軽く振る。伝説となるほどの強者の弊害、それは次代の芽の成長の機会を奪う。八人の娘の内、涙せず立ち尽くすのはキルルという少女とドアラという少女だけ。ドアラは一言だけ声を発し、哀しみにくれている。キルルは言葉を発せず、目の前の現実にただ呆然としているように見えた。


 激しい怒りを誘発し、女狂戦士(ヴァルキルクス)の力を覚醒してくれれば⋯⋯そう思ったが難しいと女王は悟る。女狂戦士(ヴァルキルクス)の魔王討伐失敗により、近隣諸国には動揺が走る事になる。


 若い英傑の血を引く若い戦士達に期待出来ない以上、魔王討伐とムコウリト大陸の混乱の鎮圧のために、女王はアマネスト王国全戦士をもって対応すると宣言した。


 ◇


 新たな魔王誕生までの期間は、本来十年はあるはずだった。前回の魔王はその前から6年ほどしか経ておらず、魔王としての力は弱かった。短いサイクルで誕生する魔王は実際弱い事は証明されている。だからといって、今回もそうだとは限らないとキルルは思った。


 母達は実力を見誤った。いや異常事態に気づき、あえて少人数に抑えたのかもしれない。キルル達より強いかもしれないが、所詮未熟な子供。年齢による衰えを母親自身が自覚していた。


「いいかい、キルル。私らが最強だと言っても、それは今まで負けなかっただけ。私らが戻って来なかった時は、キルル、泣き言なんか言わず、あんたがやるんだよ」


 子育てなどろくにせず、乳母に任せっきりで戦い続けていた母親。たまにキルルに稽古をつけてくれても容赦なく打ちのめす。そして自分を越えたいのなら強くなれと偉そうに笑っていう。自信過剰に見えて、実際はいつ生命を落とすかわからない生活の中で、母親なりにキルルを導こうとしていたのだろう。


 だからキルルは誰よりも強く唇を噛みしめ、涙する事なく母親の醜く汚された首に誓う。


「魔王⋯⋯⋯⋯あたしが絶対にブッ殺す!!」


 普段、感情が抜け落ちて無反応なキルルの激しい怒りに、ドアラを始め、母親を亡くした子供達が震えた。女王だけはキルルの力を測るように、その怒りの強さを見定めようとする。


「弱い⋯⋯厳しいか⋯⋯⋯⋯」


 母親の世代が強かった弊害が出てしまった、それがキルルの怒りに見えてしまう。涙を堪えるための、義憤。女狂戦士(ヴァルキルクス)の力に目覚めるにはあまりに弱い怒りだった。


 過酷な現実を前に、それだけでも大したものと普段なら言ってやるところだった。しかし今、幼い戦士達を労る余裕がない。魔王討伐失敗の余波は、魔物達だけでなく、猛々しい男達の相手も必要になる。


「異変を異変と捉えなかったワシらの不明と不覚⋯⋯。同じ屈辱を受けようと、必ずや魔王は討ち滅ぼす」


 戦いの場から引退してかなりの時が経っている。それでもアマネストの戦士を率いるものとして、敵わぬまでも‥‥次代の目覚めの為にその身を持って礎となろうと女王は覚悟した。


 ◇


「⋯⋯⋯⋯キルル、いる?」


 木造りの小さな家の扉の前に、涙で目を腫らしたドアラが立っていた。いつもの明快な声と違い、小さく消え入りそうな声。魔王の使いによりもたらされた首は丁重に葬られる事に決まり、娘達は解散した。


 居た堪れない気持ちを抱えたドアラは、同じ心境であろう親友と慰め合うしかなかった。自分の家に帰った所で、戻って来るものはもういない。普段から留守だったのたから⋯⋯そう思えば寂しさは変わらないはずなのに。


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯キルル、入るよ?」


 しばらく待ったがキルルから返事はない。鍵は開いていたので、ドアラはキルルの家に入る。キルポコ村の家の大きさや間取りは殆ど同じだ。


「⋯⋯⋯⋯⋯」


 キルルは部屋にいた。慰め合うというよりも、ドアラは自分の弱い心を叱って鼓舞してほしい、そう思っていた。部屋の隅に身体を向けて、足を組んでジッと動かず座るキルルを見たドアラは、キルルが一人泣いているのかと思った。同じ境遇の親友に甘えようなんて、やはり駄目だね、そう考えたドアラはそっとキルルの家から出ようとした。


「ドアラ⋯⋯旅支度は済んだ?」


 いつものように無表情なキルルの顔と、無感情に落ち着いた声。他の娘達のように泣き腫らした目はしていない。


「キルルは平気なの⋯⋯?」


 母親達の無残な死に方、何より最強の女狂戦士(ヴァルキルクス)達が魔王に敗れた事実に、強さが全てのキルポコ村の女達は震えた。


「何となく今回はの魔王はおかしいって、母さん達はわかってた。負けるつもりはなかっただろうけど、戦士が戦って散ったんだ」


 キルルは自分に言い聞かせるように呟く。悲嘆に暮れても魔王軍も暴漢達も待ってはくれない。魔王の天敵アマネストの民さえ滅ぼせば、ムコウリト大陸はいずれ魔王と魔物達の楽園に変わってゆくだろう。


「いまのあたしちでは魔王に勝てない。雑魚狩りでもいい、ムコウリトの人々を助けながら力をつけよう」


 自分が女狂戦士(ヴァルキルクス)に目覚めないのは、母親達が勝てないだろう推測を本人から聞いてしまったからだと思った。強いものが勝つ。単純な真理に、怒りなど発するわけがない。怒りに似た咆哮は、ただ自分を鼓舞したようなもの。


「泣くのは今日だけ。準備してくるから少し待って」


 自分の家に急ぎ足で向かいながら、ドアラは自分の心から傷心に弱音を吐く思いが消えていたのに気づく。キルルが慰めてくれたわけでもない。何時ものように狩に行こう‥‥そう誘いかけるようなキルルの変わらない感情に、ドアラも自然に落ち着きを取り戻した。


 キルルはやっぱり強い、ドアラは女王とは違う感想を持った。彼女を支えながら、どこまでもついてゆこう‥‥ドアラはそう決心したのだった。


 女王の号令で討伐軍が組まれる事になった。キルポコ村から村に残る女狂戦士(ヴァルキルクス)を始め、大人の強い戦士達が選ばれ魔王側を中心に、各方面へ部隊が派遣される。


 これは元々討伐部隊とは別に計画されていた。伝説のパーティが魔王を倒してしまえば各地を巡回して安全を確認し、戻って来る予定だったのだ。討伐が失敗したため一時は動揺したアマネストの民も、自らの役割を果たすために冷静さを取り戻した。


 慌ただしく大人達が出発する中、キルルとドアラは狩を装い、キルポコ村を密かに出る。いつもより荷物が多いのは、魔王により活性化した魔物がうじゃうじゃいるからだ⋯⋯誰かに見つかった時は、そう誤魔化すと二人で話を合わせた。近場の狩場も様子が変わり、その日に帰って来れなくなったものもいたので疑われる事はないはずだ。


 もっとも最強の女狂戦士(ヴァルキルクス)達が敗れたばかりなのに、たった二人の少女達が魔王退治に向かうなどとは、誰も考えないだろう。彼女達には無謀だと止めるものも、待つものもいない。それに‥‥たとえ野垂れ死のうと、気にかけるものはいないのだから。

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