喪う側には、なりたくない
「ねぇ、私のことを、殺してよ」
ずっといとしい貴方に言いたかった、存外、するりと出てきた言葉。あなたは私のその言葉に戸惑ったように笑う。
「……難しいこと、言うね」
私もその言葉に頷く。私だって、難しいことは分かっている。でも、私は怖かったから。
「どうしてか、訊いてもいい?」
「うん」
あなたは少し躊躇ったようにその理由を私に尋ねる。ほんの少しだけ声を震わせながら、私は話す。
「私はね、喪いたくないんだ。喪いたくないから、見送る側になりたくないから、私が何も誰も喪わないうちに、私を殺して欲しい」
「そっか。身勝手だね」
あなたはそんな私に真っ直ぐに言葉を紡ぐ。何も反論できないほどの正しいことを言う。
そんなあなただから、この想いをあなたに話したの。
「そうだね。だからその身勝手を押し付けるのはあなたがいいんだ」
「歪んでるね」
真夜中2時半の2人だけのベッドルーム、生を実感したあとの、ふいに死の恐怖が襲ってくる時間。
あなたの頬に触れて、人の温もりを実感して、自分の手の冷たさに気づくとき。あなたと身体を重ねて、多幸感に包まれて、現実の澱に気づくとき。
私は一人になりたくなかった。未来を考えれば考えるほど、一人になるかもしれない恐怖が襲ってきた。
「私は、一人になりたくないの。一人が怖いの。私は、私だけは自分のことを守っていたいの。自分が一番嫌いな孤独から、逃げ続けたい。死ぬ時すらも、孤独は嫌だ。だから、顔なじみに、大切な人に、殺されたい」
「僕には、わかんないなぁ。僕は一人でもなんでも、生きていたいから」
私とあなたはそういう考え方が全く違う。だから、分かってもらえるなんて思っていなかった。寧ろ、その答えなんだろうと思っていた。
君の答えを聞いて、ただひとつだけ思ったことがあった。
生きていたいと思うひとの前で、死んだら、殺されたら、自殺したら、どうなるんだろう。




