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52話・次からはノアールでよろしく



「私はその頃、赤子ではなく竜人の幼体姿だったから存在は秘されたのだと思う。母は幼い私を父に託して戴冠し、戴冠の折に国家と婚姻したと宣言して現在に至る」



陛下は既婚歴を戴冠の際に秘したようだ。ノアールは、それは幼体だった自分を、公の場に出せない為にそのようなことになったと説明した。この国で公爵という高位の爵位を持ちながらアイオライト公爵が王配にならなかったのは、そう言った事情があったのかと納得した。


「ノースデン山には離宮があるのですか?」

「母が子供のころから静養して暮らしていた場所だ。今は父が公爵としてその建物を賜っている」

「じゃあ、そこはノアールさんの実家?」

「ああ。そうなるかな」


 それならわざわざ領主館にお世話にならなくとも、公爵家に身を寄せても良かったのでは? 私の疑問を見て取ったらしいノアールには、「実家に帰っても良かったけど、色々とあってね」と、誤魔化されてしまった。彼にはまだ、何か秘密がありそうな気がする。


「ノアールさんが陛下のお子さんだってことを、王宮にいる方々は御存じなのですか?」

「恐らく知らないと思う。それまで母については、静養しているとしか先代の王から聞かされていなかっただろうから」


 陛下は静養していたと聞く。特権階級者にとって結婚とは政略がありきで、娘が実家と婚家を結ぶ為にするもの。体が弱い令嬢はその役目が果たせないとして、回避される場合があると以前、子爵家で働いていた時に聞いたことがある。陛下もそう思われて、王宮からは遠ざけられていたのかも知れない。


「幼い頃のノアールさんは、母親である陛下と離れることになって、寂しかったでしょうね」

「初めはビービー泣いて、父やロージイ達を困らせていたらしい。でも、皆が構ってくれたおかげで、物心ついた頃には寂しいなんて思わなくなっていた」

「何となく想像がつきます。その頃のノアールさんはきっと可愛かったでしょうから」


 幼体のノアールを一目見てみたかったな。と、言えば、ノアールが不服そうに言った。


「前から思っていたけど、そのさん付けは止めないか? サーラ」

「……?」

「私のことはノアールと呼んで欲しい。さん付けで呼ばれる度に、きみとの間に見えない壁のようなものを感じる」


 ノアールにそのようなことを言われて、面食らってしまった。


「嫌かい?」

「嫌ではないですけど……」

「じゃあ、次からはノアールで」

「あ。はい。ではノアール?」

「そうそう。それで宜しく」


 良いのかな? 陛下のお子さんで竜人族の王のご子息を呼び捨てにして。でも、本人が望んでいるのだし、言って見るしかないよね? ノアールに微笑まれて、声が上ずってしまった。本人は気にしていないようだけど、少しだけ恥ずかしかった。




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