CASE:021 名に寄るもの 報告書
東京怪異捜査録 − 警視庁特対室CASE:XXX −
警視庁 特異事案対策室
特異事案報告書
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【案件番号】
T-2013-12
【事案名称】
「名に寄るもの」による物質・人体欠損事案
【分類】
音韻干渉型二類 / 異相存在型二類
【発生日】
2013年5月22日
【発生地点】
佐賀県唐津市湊町漁港および周辺地域
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1.概要
本事案は、唐津市湊町に存在した塞の神の破損を契機として発生した。
不可視の異常存在が人間及び船舶の先端部(顎先・舳先・足先・手先等)を欠落させる事例が相次ぎ、被害は複数に及んだ。調査の結果、当該存在は名の呼称に依拠して顕現するものと判明した。呼称対象はイサキ(イッサキ)であり、古来、促音による名の鈍らせ、及び[魚宿](魚偏に宿の旁)の漢字を呪的縫い字として用いた地名を利用し、土地自体に封じられていたが、現代において当該字義・伝承は失われていた。封印当時の儀式、意味の籠められた最後の遺物である塞の神の破損により、封印機構が失効したと認められる。
[魚宿]の文字の使用痕跡については資料
・佐賀県統計書 明治31年度版以前
・農商務省水産局発行 水産調査報告・第11巻67頁
を参照。
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2.初動報告
2013年5月22日未明、唐津沖で小型漁船が沈没。調査により船首部の欠損が確認された。同日早朝、漁港近傍にて下顎部欠損を伴う男性を発見。午前中には市場において複数名が足先・手先を欠損する被害が発生。いずれも通常の外傷ではなく、血液流出量に乏しく「存在情報の欠落」と考えられる現象であった。
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3.発生条件
呼称の集積(例:市場等における多数の発声)により顕現度が上昇。
呼称が閾値を超えた場合に発生。
封印対象の塞の神像が破壊されたことで制御機構が失効。
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4.特性
顕現は不可視であるが、恩寵『透視』では魚類と節足動物が融合したような姿が確認された。対象は近くで最も速く動いている物体の先端部を、優先的に欠落させる。動き、速度共に単調ではあるが不可視のため、観測もしくは解析系恩寵利用のない状態での回避は困難である。
血液流出が乏しく、切断ではなく異相干渉による存在そのものの欠落と解される。
顕現時に腐敗した潮の臭気を伴い、兆候確認に利用可能。
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5.対処方法
市場にて封印文字[魚宿]を提示し、群衆の音声によりイッサキと再定義させ、言霊として縫い留める儀式を実施。
併せて塞の神を補修し、地元神職による祈祷および境界操作による結界再構築を実施。
上記措置により当該存在は再び封印され、顕現は停止した。
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6.現在の状況
被害者は複数名、いずれも生命は維持。欠落部位は、再建手術等の外科的処置や義肢による回復は可能であることが確認された。
封印は再構築され、地域における顕著な異常現象は収束。
ただし、封印の維持は[魚宿]=イッサキの認識継続に依存するため、将来的な伝承断絶による再発の可能性あり。定期的な監視および地域民俗資料の保全が必要。
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【報告書作成】
警視庁 特異事案対策室 捜査官
葦名 透真
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