CASE:020 くしゃみひとつ、千円也 報告書
東京怪異捜査録 − 警視庁特対室CASE:XXX −
警視庁 特異事案対策室
特異事案報告書
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【案件番号】
T-2013-021
【事案名称】
鼻蛭
【分類】
生物型五類/寄生型三類/感染型三類
【発生日】
平成25年9月18日(防犯メール配信日)
【発生地点】
東京都葛飾区立石周辺を中心に、都内各所
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1.概要
当初は不審者事案として扱われたが、以下の異常が確認された。
当該人物と接触した若年層に顔面蒼白・倦怠感などの身体的変調が発生。
・被害者本人は自覚が乏しく、SNS投稿等により症状進行が可視化された。
・恩寵「透視」を用いた観察により、鼻腔奥に術式状の回路構造を確認。血管や神経とは異質であり、呪的結節を含む。
・本体寄生宿主は常人を超える身体能力を示す。
最終的に当室捜査官 南雲美優が接触、鼻腔内より蛭状の黒色影を確認。恩寵「分解」により消滅処理し、寄生主体は倒れ込む形で救急搬送。その後、分体の一部の本体化を確認。
初期本体宿主の趣味が登山であった為、登山の際に本体との接触および寄生が行われ、都市部へ持ち込まれたものと思われる。
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2.初動報告
9月18日、葛飾区内にて「不審者が『くしゃみをすれば千円を渡す』と声掛け」との防犯メール配信あり。その後SNS上で流布、都市伝説化の兆候を呈した。
当該異常言動を示した人物は痩身・蒼白・乾燥した唇を特徴とし、千円札および紙縒りを所持。当室捜査官 蜘手創次郎によるモニタリング開始。
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3.発生条件
Ⅰ.本体至近でくしゃみを行うことにより、鼻腔より寄生が行われる。一定体格以上の哺乳類全般が宿主となり得る。
Ⅱ.本体宿主至近で被接触者がくしゃみを行うことで、寄生虫状分体が鼻腔より侵入。
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4.特性
寄生性:蛭状の黒色影が鼻腔を通じ寄生、宿主の生気を吸収。寄生後は自覚症状に乏しく、外見の変調(顔色不良・倦怠感)が進行する。
嗜好の変化:本体宿主は証言によりくしゃみに対する異常な性的嗜好が確認された。寄生性生物ではハリガネムシの宿主に対する行動の操作等が知られているが、それと同様に宿主への何らかの干渉による嗜好等の変化をもたらしている可能性が高い。
感染様式:くしゃみという生理現象を媒介とし、瞬間的に「魂の防壁」が脆弱化する隙を利用する。
名称由来:「鼻をひる(=くしゃみをする)」という古語、および蛭の外見から「鼻蛭」と命名。
残存性:本体が消滅後、分体は時間経過で自然消滅するが、分体の一部が独立し本体化する事例が確認されている。現時点では完全殲滅は困難と判断される。
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5.対処方法
本体および分体ともに寄生宿主となった者は衰弱が見られるため、生命維持を優先しつつ処置が必要。
対象は視認困難だが、物理的な除去が可能。また、分体はごく稀だが自然排出された事例が確認されている。
本体再構成の恐れがあるため恒久封印は未確立。
直接対処は本体宿主からの交渉に承諾する体で接近するなどにより、確保および摘出が有効。
尚、本来の生息環境では、宿主個体間の接触頻度の低さにより感染力は限定的と推察される。都市部においては人口密度の高さ、およびSNSを媒介とした行動模倣が加わることで、爆発的拡散が成立したものと考えられる。
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6.現在の状況
初期本体宿主は寄生解除後、病院搬送。生命の危険は回避。その後のモニタリングにより多数の分体は時間経過により自然消滅したと思われるが、一部の分体が本体化。新本体宿主を確保、新本体摘出。
新本体は当室にて隔離観察中。完全消滅の兆候は見られず。生態、寿命等調査中。新本体隔離により、都内での分体の本体化再発例は現時点で確認されていない。
また、生物性の強いものである為、特に大型野生動物生息数の調整など、生態系の一部を担っている可能性が考えられる。野生動物生息数などの追跡調査結果によっては、本来の生息域に放流することも検討する。
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【報告書作成】
警視庁特異事案対策室 捜査官
葦名 透真
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