CASE:018 くねくね 報告書
東京怪異捜査録 − 警視庁特対室CASE:XXX −
警視庁 特異事案対策室
特異事案報告書
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【案件番号】
T-2012-014
【事案名称】
くねくね
【分類】
精神侵蝕型一類/因果干渉型一類/式神型一類
【発生日】
2012年8月2日
【発生地点】
東京都八王子市郊外 多摩川・秋川合流付近水田、及び隣接山林
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1. 初動報告
2012年8月2日、SNS上で「田んぼで白い影を見て発狂した」という噂が拡散。同時期、地元警察より「田圃で白い影を目撃した青年が急性精神障害で保護」との連絡あり。現場周辺では以前より「見てはいけないもの」「白い影」「黒い影」に関する伝承や噂が存在していたことから、当室室長指示のもと捜査官 蜘手創次郎、轟雷蔵、久世灯里の三名が室長指定の式神一体を伴い現地入りし、調査・聞き込み・現場確認を実施した。
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2. 概要
現地調査の結果、八王子市郊外の田畑と隣接山林において、「白いくねくね」と「黒いくねくね」と呼ばれる二つの異常存在が、それぞれ別個に出現していたことが判明した。白い影は田の中央に、黒い影は山中の曰くつきの場所に現れ、いずれも直視した者に精神あるいは肉体の重大な障害をもたらす特徴を持っていた。
これらの現象は単なる都市伝説や偶発的な怪異ではなく、後の現場検証と一連の儀式的対処の過程で、両者が本来二体で一組の式神として設計されていたものが、何らかの理由で分断され、性質が極端化し暴走していた状態であると推定された。現地で発見された白黒それぞれの勾玉状の石は、本体ではなく、強い力が発現した際に現れる「残渣」に過ぎないことが確認されている。
今回の調査・対処の過程で、式神の性質が太極図(陰陽魚)のモチーフを持ち、陰陽道的な「調和」を本質としていた可能性が強く示唆された。二体が分かたれたまま存在したことで、それぞれが精神(白)・肉体(黒)に過剰な侵蝕性を持つようになり、被害を拡大させていたと思われる。最終的に両者を同時に現場で接触させ合一を図ったところ、太極図のような回転現象を伴い、双方の存在の安定化を確認。その後、同行式神による捕食(もしくは回収)が行われた。
なお、事件後の現場には異常の痕跡は一切残らず、住民も日常へと復帰している。しかしながら、調和と消失の過程、そして式神としての本質がなぜ分断され暴走に至ったか、その理由や経緯については、陰陽道が禁止された明治期以降の歴史的断絶や、地域信仰の変質が関係している可能性もある。現時点では詳細な記録・伝承は見つかっておらず、また、2001年以降に匿名掲示板で発生した創作「くねくね」及びそれに類する一連の創作との類似性など、今後も追加調査が必要である。
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3. 発生条件
本事案は、夏季の八王子市郊外の田畑及び山林区域において発生。いずれも住民自身が詳細な発生条件を把握しているわけではなく、出現、発生は偶発的だった。
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4. 特性
白い影は陽炎状・人型に近い輪郭不明の存在であり、直視した者は急性の精神錯乱・記憶障害を発症する。黒い影は揺れる染みのような形態をとり、目撃後しばらくしてから交通事故や重度障害等、肉体的な実害が生じる。
いずれも近距離での本体の直視(光学機器によるもの含む)により影響を被ると思われる。両者は白黒の勾玉状の残渣を現場に遺し、本体は認知・物理干渉の多くに強い耐性を持つものと思われる。白黒の両者が合一した瞬間、太極図状の現象と空間の物理的歪みを伴い、安定化。
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5. 対処方法
単独での接触や封印、物理的干渉はいずれも効果がなかった。同行式神による琵琶演奏による干渉(召喚、退散)が行われたが、これは特異性を有する琵琶による呪的なものと思われる。
恩寵(境界、操糸)を使用し勾玉の残渣を辿り本流を手繰り寄せることにより、両存在(白・黒)を同時に現場で接触させ、合一・調和させることで安定化が確認されたが、今事案でのその後の対処、式神による捕食(もしくは回収)はあくまでも例外的な取扱いであり、本来であれば封印作業、もしくは式神の知識のある者による契約や召喚解除が必要。
なお、調和の過程では既に黒の影響を受けていた捜査官(蜘手、轟両名)に骨折等の後遺症が発生。現場の物理的・霊的圧力が大きいことが示唆された。調和後、現場には痕跡が残らず、噂のみがSNS等で拡散を続けている。
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6. 現在の状況
調和後の太極図型式神及び勾玉状異物は、当室室長が回収と通知あり。
被害者及び家族には精神的ケアと記憶改変を実施済み。ただし被害者には通常の精神カウンセリング等は効果が低く、恩寵などによる特異な精神干渉も今後検討。現場や地域住民には追加の異常は認められない。ネット上では「くねくね」の噂が継続拡散しているが、実害報告は現時点で確認されていない。なお、陰陽道的な式神としての本質、分断・暴走に至った歴史的背景などは今なお未解明であり、今後も調査を要する。
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【報告書作成】
特異事案対策室 捜査官
久世 灯里
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