僕が音楽を好きな理由
僕が音楽を好きな理由、これは単に音楽が好きだからではないんだ。
昔から自分の思いや考えを言葉にすることがとても苦手だった僕は思ったことを口にできる人を心底尊敬してきた。どうしても「これを言ったら…」が過って、「また今度」が度重なってきた。そんな僕は人間のコミュニケーションツールなんて言葉しかないと思ってたんだ。
でも違った。言葉なんか無くたって思いを伝えることはできる。それが音楽だった。音楽には言葉は無いのに、想いを伝えることができるんだ。
中学生の反抗期真っ只中だった頃、一人部屋に引きこもって、頭がカチ割れるほどの音量をイヤホンから流して曲を聴いていた時に、本当にそう思ったんだ。その曲の長いイントロから伝わる何かによって僕の頬は知らぬ間に濡らされ、その頬はなかなか乾いてくれなかった。
まるで僕でも見えていない僕の心をすべて読み取って書き起こしたかのようなこの曲に自然と涙が出てくる。
ラスサビに入るとハモリが入ってくる。その瞬間頭の中に浮かぶ一人でギターを持って歌う僕の隣にゆりが現れて僕の肩に腕を回す。いつものように僕たちが歌っているとすぐ隣にアツと桃花ちゃんが現れる。そんな僕たちを囲む雰囲気があまりにも優しくて、穏やかで、あったかいから、止まらない。
「どう、かな、」
「めちゃくちゃいい曲だったよ!!こんな曲1日で作れちゃうの!?桃花天才だね!?」
「あ、ありがとう」
「ほぉら、泣いてないで律感想は?」
「…すごい、よか、った」
「…ふふ、ありがとう」
「…うん、ほんとうに、ありがとう」
「…ぁぁぁぁああああああああああ!!!!天才だな!!!!桃花は!!!!いますぐ練習するぞ!!!!!!」
ゆりに家にはもちろんドラムもベースアンプもないのでスタジオを借りて練習をすることになった。予定をみんなで調整して一回目は2週間後の土曜日に決定した。そして僕に課せられた一つの課題が。
「んーじゃあ律が歌詞かけば?」
「ん!?゛ん゛ん゛ぉほッ、゛ん゛ん!!、キカンニ、オチャ、ハイッ、゛ん゛ん!ごめん、歌詞?゛ん゛ん、ごめ…」
「律、落ち着けって、、、ッぷ、ハハハ!!何にそんな焦ってんだよ!!アッハハハハ!!あ~腹いてえ…」
驚きで口に含んでいたお茶が一滴残らずすべて気管に入った。そりゃあ焦るでしょ!咳止まらないし、それに歌詞?僕がそんな大切な役目かっていいの?いやいや僕にそんな才能ないし、これは桃花ちゃんがつくった曲だから汚すわけにはいかないし…。
「゛ん゛ん…僕、そんな才能ないし、桃花ちゃんが作ったほうがいいよ」
「いや私、打ち込み作るので精一杯なんだよ」
「打ち込み?」
「うん。だってこのバンド、キーボいないから本番は同期演奏しないといけないじゃん?だから冒頭のピアノとかSEとかもうちょっと詰めたいんだよね」
「あー俺もこの曲のギソロ難しそうだから作詞までする時間ないね」
「俺は作詞できん」
「じゃ!よろしくぅ!」と言って各自この部屋から出ていく。残ったのは僕とゆりだけ。いや逃げ足早すぎるでしょ…。
「えぇ……」
「大丈夫だって。律ならできるよ。もし厳しかったら一緒に考えよ?」
「え、いいの?ギター忙しいんじゃ…」
「俺を誰だと思ってるの?要領だけは人一倍いいんだよ」




