馬鹿だよなあ
「じゃあとりあえず一週間の動画の再生回数を確認すると…」
週末。仕事終わりにまたマスターの店で集合した。
なんだろう、今までにない疲労を感じる一週間だった。
両腕にある怪我を見ながら青あざができた右お尻をさする。この一週間で僕はいくつ怪我をしたんだろうか。
今日のマスターの店「reve」は大繁盛で仕事終わり直行で来てもギリギリだった。今日はバイトの藤井さんもキッチンでマスターの手伝いをしていた。
来ているお客さんの格好はやはり僕たちと同じスーツばかりでカウンターに座る僕たちを見て「こんな若い子が…お目が高いねえ」なんていわれる始末。いやもうアラサーです。
そうだ、僕はアラサーだ。来年は29。そしてすぐに30になるだろう。
撮影やSNS、メンバー集め等今までにない経験をしていて最近よく感じるようになったのは勿論楽しさもあるんだけど、その裏にある義務感。年齢が年齢なだけに心のどこかが焦っている。
急がないと、30になるまでには音楽で有名にならないとって。それはつい昨日小学校の同級生だった男友達から結婚の報告を受けて、現実を見るようになったからかもしれない。
2,3か月前に彼女と別れて、職場に出会いなんてないし、こんな年齢で低収入のクセに音楽をやりたいなんて言ってる男、世の女性は絶対結婚したくないよなぁ。
「はぁぁぁ。」
「何だよそのでっけえため息。てか俺の話聞いてた?」
「え?あ、ごめんボーっとしてた。」
「もう…だから!動画投稿したでしょ?アレから毎日夜9時に動画を投稿したんだよ。再生回数は全部カス。良くて300回。ショート動画って普通の動画よりも平均再生回数が高いから1000~5万程度は内容さえしっかりしていれば意外とすんなり行ったりする。俺らが投稿してた動画はイイ方、だ。だからもうちょっと、いやもっと行くと思ってた。マジやばい。」
つまりそれって、内容が良くない、と視聴者が感じているってこと?
僕たちが投稿している動画は弾き語り動画だ。こういうことを始めてから実はショート動画を見るようになっていった。SNSにはすごい人がいっぱいいた。もちろん弾き語り動画も見たけど、ああいうのって結局歌が上手いかどうかにかかってる気がするんだけど……。
「俺が昔やってた時は「すんなりパターン」だったから…。でもまだ初めて1週間しか経ってないからさ!多分SNSで発信する人が増えて動画が伸びにくくなってんじゃね?な?とりあえずこれを一週間続けて…そのあとにまた再生回数を見ながらどんな動画が伸びるか模索していこう!大体何か1つでもバズレばそのあとはイイ感じに伸びていくからそれまでが我慢の時期だと思う!ちなみにカメラのアングルとかもどうする?もうちょっとここをこうして…」
“結局才能なんじゃないの?”
“もう今更遅いんじゃないの?”
いつもどこかからか聞こえていた、でも聞こえないふりをしていた僕の声が今は鮮明に聞こえる。
正直、温度差になんか疲れた。
僕が始めた物語なのに、もう嫌になってる。
結局才能なんじゃないの?って。
こういう時に限って店内にいる誰かの声が僕の耳に刺さった。
「いやあ。アイツも馬鹿だよなあ、だって大学で建築やっててこんな良いトコ就職出来てんのに辞めるとか。なんか誰か言ってたんだけど、アイツ、この仕事辞めて漫画家になるらしいぞ?ププッ、いい年こいて気色悪ぃよなあ!!夢叶えられるのはほんの一握り。それを追っていいのは社会にでるまで。アイツ26だっけ?もうアラサーにもなって、いつまで学生気分なんだよって話だよなほんと、何やってんだか。」




