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魔法使いもどきの冒険  作者: 雨澤はる
第一章 転校生と魔法使い
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03


 ここは、雲海市にある雲海高校の、3年2組の教室だ。

 雲海高校の校舎塔は3階建てで、3年2組の教室は3階にある。生徒の数は31人で、窓際からは校庭が一望できる。その先に広がるのは、雲海市の街並みだ。大量の一軒家が並んでいるのが見えるし、高層マンションが点在しているのが見えるし、ところどころに田畑も見える。

「みなさんお静かに、お静かに」

 教壇に立った担任の、(おお)()()()()先生は、生徒たちが静まるのを辛抱強く待った。

 きょうは、特別なイベントのあることを察知してか、生徒たちは普段とは違う興奮状態にあった。太田先生が、身振り手振りで生徒をなだめ続けたので、教室は徐々に落ち着きを取り戻しつつあった。

 生徒たちが静まったのを見て、先生が朝の挨拶を始めた。

「ニュースがあります。渡辺真さんは、きょうは熱を出してお休みです。どうやら風邪のようです。インフルエンザじゃないといいんですが。お母様の話によると、日曜の夜、ゲームで夜更かしをしたのが原因のようですね」

 教室が少しざわついた。

「お静かに、お静かに。受験生の皆さんは真似をしてはいけませんよ。もちろん、受験生でない皆さんも真似をしてはいけません。ゲームで夜更かしをしたかったら、社会人になってからですよ。わかりましたか」

 生徒たちが返事をしたのを見ると、太田先生は話を続けた。

「さて、もうひとつニュースがあります。こっちはビッグニュースです。皆さんすでに、噂が耳に入っているかも知れませんね。このクラスに転入生です。では倉田惠美さん、入ってきてください」

 太田先生が廊下を見ると、カバンを持った倉田惠美が教室に入って来て、先生の隣に立った。

 新しいクラスメイトたちから暖かい拍手が起きた。

 先生は拍手がやむまで待った。

「倉田さん、自己紹介をしてもらえるかしら?」

「はい、わかりました」

 倉田惠美は、チョークで黒板に自分の名前を書き始めたが、途中でチョークを落としてしまった。慌ててチョークを拾って自分の名前を書ききり、自己紹介を始めた。

「はじめまして、倉田惠美といいます。めぐみの字は旧字体のほうです。7月11日生まれで(かに)()です。父の仕事の都合で、東京の高校から転校してきました。趣味は読書です。とくにミステリー小説が大好きです。これから1年間よろしくお願いします」

 惠美は頭を下げた。緊張しているのが教室に伝わったが、転校生ともなれば当然だろう。

 ふたたび、新しいクラスメイトたちから拍手が起きた。

 すかさず惠美はこう付け加えた。

「5月の転入生は珍しいと思いますが、こういう事情があります。父の仕事の前任者が、4月にこの土地に転勤になったのですが、その人が突然、辞めてしまったんです。なんでも家業を継ぐことになったとか。それで(きゆう)(きよ)、父が代理として転勤になり、家族ともどもこの雲海市に引っ越して来ました」

 教室に、「なるほどー」「水が合わなかったかー」「ホームシックじゃねぇの」などと声が上がる。

「それから倉田さん。職員室でも話しましたが、うちの高校はいじめ防止の(いつ)(かん)で、あだ名呼び禁止ですからね。これは守ってくださいね。制服が東京の高校のものなのは、3年なので仕方ないですが」

 太田先生が念を押した。

「わかりました」

 惠美の返事はしっかりとしたものだった。しかし、まだ緊張しているようで表情が固い。

「みなさん、倉田さんに自己紹介をしてください。出席番号順に(あく)()くんから」

 太田先生がそう言うと、生徒たちは転校生に自己紹介を始めた。


 ここは、雲海総合病院の内科の診察室だ。

 中年の医師がパソコンの置いてある机の椅子に座り、マスクをした真が患者用の椅子に座り、璃々杏はその隣に立っている。

「うれしいニュースですよ。渡辺真くんはただの風邪です。インフルエンザじゃありませんよ。よかったですね」

 中年の医師が、電子カルテを見ながら喜ばしげに言った。

 医師の言葉に、真と璃々杏は無反応だった。

「あれ、インフルエンザじゃないって聞くと、たいていの患者さんは喜ぶんだけどな」

「ええ、まぁ」

 熱のある真はだるそうだ。

「息子を観察していて、インフルエンザじゃないと思ったものですから」

 中年の医師は、少しカチンときたようだ。

「渡辺さん、素人が勝手に判断しちゃいけませんよ。そりゃ素人の勘は鋭いものがある。われわれ医師が驚かされることも少なくありません。でも、やっぱり素人判断はダメです。背後に大きな病気が隠れていたときには、最悪の場合、手遅れになってしまいますからね」

「分かりました」

「わかりました」

 璃々杏と真が渋々うなずいた。

「お薬を出しておきます。(よう)(じよう)してくださいね」

 医師はつまらなそうに言った。



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