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剣と魔法・・・時々超能力  作者: しう
気功の章
88/447

2章 47 心の旅

ここは?


ああ、いつものぬかるみの中か・・・あれだけ沈めたのにまだ上は見えてこない


あの小鳥は・・・今も苦しんでいるのだろうか・・・早く助けないと・・・


──────アタル──────


不意に声がして振り返る


すると懐かしい・・・本当に懐かしい姿が飛び込んできて涙腺が崩壊する


・・・シーナ・・・


──────いっぱい・・・人を殺しちゃったね──────


ああ・・・だけどまだ足りない・・・もっと・・・もっと沢山沈めないと・・・


──────違うよ・・・アタル──────


違う?何が・・・


次の瞬間シーナが光だし俺はあまりにも眩しくて目を閉じた。そして目を開けると周囲のぬかるみは・・・きれいさっぱり消え去っていた


「これは・・・」


「久しぶり・・・アタル」


夢・・・だよな?・・・でも今まで遠くに感じていたシーナがとても近くに感じる


「一時的にアタルにまとわりつく闇を取り去ったの。でも・・・闇は深い・・・多分また侵食してくる」


「闇・・・さっきまであったぬかるみの事か・・・なあ、シーナ・・・俺は俺の創り出したシーナの幻影と喋ってるのか?それとも・・・」


「幻影じゃないよ・・・私は私・・・シーナだよ」


「・・・シーナ・・・」


俺はゆっくりとシーナに近付く


手を伸ばし、触れると消えてしまうのではないかと恐る恐るシーナの頬に触れると温もりが伝わってくる


「わっ!・・・えへへ・・・アタル・・・」


思わず抱き締めてしまった。最初は強ばっていたシーナも力を抜き俺の背中に手を回す


「シーナ・・・シーナ・・・」


「・・・これが・・・現実だったら良かったのに・・・」


「・・・現実?やっぱりこれは・・・夢?」


夢・・・夢とは思いたくない・・・確かな感触・・・鼓動・・・吐息すらも感じるのに・・・


「うーん・・・夢・・・じゃないかな?私にもよく分からないけど、恐らくここはアタルの心の中・・・で、私はその心の中の住人・・・」


「って事は俺が創り出した・・・」


「うううん・・・それは違うよ。さっきも言ったように私は私・・・なんならアタルの知らない私の事でも話そうか?」


「・・・スリーサイズとか?」


「・・・エッチ・・・」


シーナはスルリと俺の腕から抜けると背を向けた。俺が追いかけようとすると振り返り悪戯っぽく笑う


「べー・・・そうね、ホタルちゃん覚えてる?獣人族の・・・」


「ウサギ!」


「ふふっ、そう・・・ホタルちゃんが私にだけに言った言葉があるの・・・」


ああ、そう言えばあの時シーナに耳打ちしてたな。シーナが笑ってたから別に気にしてなかったけど・・・


「あの時ホタルちゃんはこう言ったの・・・『アレは魔法じゃないです』って・・・」


「!?・・・それは・・・」


アレってアレだよな・・・ホタルを拘束した時に使った念動力・・・


「ふふっ・・・あの当時はアタルを信用していたから魔法じゃなくても良いと思っていたの。で、今はずっと見てたから・・・知ってる」


「ず、ずっと見てたって?」


「ここから・・・ずっとアタルを見てた」


うっ・・・真っ直ぐ見つめられると・・・やましい事はしてないつもりだけど・・・いや・・・やましい事はしてるか・・・それにしても俺の心の中にシーナが・・・どういう事なんだ?


「アタルがぬかるみと呼んでるモノ・・・深く暗い・・・『闇』・・・あの『闇』に支配されている時のアタルも・・・私は見てた」


「・・・支配?」


「うん・・・『闇』は負の感情・・・憎しみや怒り・・・普段のアタルはそれを嫌い切り離した・・・そして生まれたのが『闇アタル』・・・うううん、『黒アタル』かな?」


黒アタル・・・なんか微妙・・・でも思い当たる節はある・・・まるで自分の意思とは関係なく身体が勝手に・・・


「『黒アタル』は単純・・・ただ敵と思った人を・・・その・・・排除するだけ・・・その行為に一切心を痛めない・・・『闇』は深くなる一方なのに・・・でもそれは・・・アタルがアタルを守る為に生み出したもの・・・」


「・・・どういう事?」


「・・・アタルは心の中で・・・その・・・私が死んでしまった時の事を引きずってる・・・で、自分と敵対する人を殺し続ければ・・・私を助けられると信じてる・・・そんな事はないのに・・・」


「・・・」


「でもアタルの心は・・・壊れる寸前だった・・・だから守る為に・・・心が痛まないような人格を創り出したの・・・それが『黒アタル』」


二重人格・・・そんな言葉が頭に浮かんだ


「『黒アタル』は何をしても心を痛めない・・・だから敵対する人を平気で殺してしまう・・・でも実際は・・・痛めないだけで『闇』が深くなる・・・このままだといずれ・・・『闇』に飲み込まれてアタルまで・・・」


「・・・その『闇』に飲み込まれたらどうなる?」


「・・・『黒アタル』がアタルになる・・・つまり・・・ただ感情もなく人を殺し続ける・・・魔物・・・」


ゾクリと背筋に冷たいものが走る。魔物・・・もしかして初めてダルスと会った時に言ってた事はその事だったのか?


「私は・・・凄い複雑なんだ。アタルがそうなってしまったのは私が原因。・・・そこまでアタルの『闇』を生み出したのは・・・アタルが・・・その・・・いっぱい私の事を想ってくれてたのかなって思うと・・・嬉しいような・・・凄い複雑・・・」


「あ、いや・・・まあ・・・」


「でも・・・私はアタルがアタルであって欲しい・・・殺しちゃった人は確かに悪い事をしたかもしれないけど・・・殺しちゃダメ・・・殺してしまったら・・・相手の『闇』をアタルが背負い続けたら・・・アタルは・・・」


ぬかるみに沈めたと思っていたけど実際はぬかるみを増やしただけ?となると俺はもう・・・


「ああ・・・でも俺は・・・守る為に・・・この先も人を殺してしまうかも知れない・・・」


「アタルならきっと・・・出来る・・・それに私も背負う・・・アタルの『闇』を・・・これからもずっと・・・」


「・・・なんか照れ臭いな・・・でもシーナが見ててくれるなら何とか出来そうな・・・見てた?・・・ずっと?・・・」


一気に血の気が引いた。ずっと見てたってもしかして・・・


「うん、見てたよ」


「・・・あの・・・ほら・・・指拳道場での・・・」


「うん、見てたよ」


うわーい、めっちゃ笑顔。同じセリフを繰り返すシーナだったが、笑顔が・・・なんて言うか迫力ある笑顔だ・・・


「アレはその・・・不可抗力と言うか・・・演技と言うか・・・」


「必要・・・あったかな?ユンさんの・・・」


ない・・・いや、あった!そこに山があったから!


「・・・そんなに・・・触りたかったの?」


「あれは・・・その・・・」


「・・・私の・・・触ってみる?」


・・・えっ?・・・伏せ目がちで照れながら言うシーナ・・・これは・・・


緊張で大量の唾を飲み込む


恐る恐る手を動かすと一瞬シーナはビクッと震えた


いける・・・そう確信して手をシーナの胸に伸ばすとシーナは顔を上げた


「あっ・・・」


えっ?まだ触ってない・・・てかシーナは俺ではなく、俺の背後に視線を向けていた


確かに人の気配がする。俺は振り返り後ろを見ると・・・


「・・・揉むか?」


「揉むわけないだろ!なんでここに居るんだ!・・・ラカン!」


そこには何故か胸を突き出すラカンが居た。ええい!頬を赤らめるな!


「何故ここに・・・か。俺にも分からん・・・気付いたらここに居た」


「あー、そうですか!ではさっさとお帰り下さい・・・俺はこう見えて忙しい」


「髪・・・俺のだろ?」


髪・・・そう言えばここに来る前にラカンの三つ編み部分を切り取って持って来たんだった・・・後でアイリンみたく自分の髪に付けようと思って・・・


「髪があるからなのか分からないが・・・呼ばれたような気がしてな・・・お取り込み中だったか?」


「お取り込み中だ!・・・って、どうよ?国一番になった感想は?」


「・・・悪くない・・・お前が負けない限り俺は一番であり続けるしな」


うっ、そうだった・・・ラカンに勝つ事はもう出来ない・・・くそ・・・勝ち逃げしやがって・・・


「んん!・・・初めましてラカンさん・・・シーナと言います」


「ああ、初めまして。螺拳のラカンだ」


蚊帳の外となっていたシーナ画咳払いをして俺の横に立ちラカンに挨拶する。なんか奇妙な光景だな・・・ここ・・・俺の心の中・・・だよな?


「これからは2人でアタルを見守りましょう。アタルが・・・悪さをしないように」


「・・・そうだな。死後の世界があるとは思わなかったが存外悪くない・・・見させてもらおう・・・アタルの歩む道を」


なんか・・・ムカつく・・・


「ほらほら、早く目を覚まさないと。いつまでも寝てたらみんなが大変だよ?」


「うむ・・・待たせている者がいるのだ・・・早く目覚めろ」


くっ・・・人の気も知らないで・・・


「もしかして・・・嫉妬してる?私がラカンさんとここに居ることに・・・大丈夫だよ・・・私は──────」


えっ?何て?待ってくれ・・・続きを・・・シーナ・・・シーナ!




目を覚ますと山が二つ飛び込んで来た


白い山・・・これは・・・


「ん?おい!目を覚ましたのならさっさとそこから起き上がれ!」


シュラの声・・・後頭部の感触と目の前の山から・・・ここはビャッコの膝の上?しかもこの揺れは・・・


「・・・馬車?」


「そうだ!お前がいきなり倒れるから・・・いいからさっさと起きろ!」


「国王様嫉妬?プププッ」


「うるさい!ナハト!処刑するぞ!」


「お前がそれを言うとシャレにならんだろ・・・よっと」


ビャッコの心地よい膝の上から起き上がるとやはり馬車の中だった。微かに揺れる車内にはシュラとビャッコ、それにナハトが乗っていた


「いきなり倒れるから驚いたぞ・・・大丈夫なのか?」


「お陰様で・・・ビャッコの膝の感触のお陰で」


「おい!・・・ハア、まあいい。もうすぐ王都だ・・・しばらく安静にしてろ」


「膝の上で?」


「ぶっ飛ばすぞ・・・気を失ってたから特別に許しただけだ・・・二度はない!」


「ケチ」


「誰がケチだ!誰が!」


「・・・そんな事よりもうすぐ王都?俺はそんなに寝てたのか?」


「そんな事って・・・ああ、まる三日な。寝ていると言うより意識がない・・・そんな感じだ。一体何があった?」


三日も・・・何があったって・・・恐らく念動力の使い過ぎ・・・のような気がする。疲れもあったのかな・・・


「・・・さあな。それより俺って変な顔してなかったか?ほら・・・ニマニマしたり・・・」


「元から変な顔だから分からん・・・ニマニマしてたって・・・どんな夢を見てたんだ?」


「夢・・・か?・・・いや、ビャッコの膝の感触を楽しんでた」


「てめえコノヤロウ!」


シュラが怒り立ち上がると馬車が激しく揺れる


正直に話しても・・・とても信じられないだろうな・・・俺は確かに・・・シーナとラカンに会っていた・・・胸にしまっていた小瓶とラカンの髪の毛を触りながら馬車の外を見る。またいつか・・・2人に会える事を願って──────


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