2章 46 決着
狼狽するオッサンとオバサン・・・確かラハンとエシスだっけか?そりゃあそうだよな。ラモン達が王都を攻め始めてそこまで時間が経っていないのだから、ここに俺らがいる事自体が理解できないはずだ
時は遡る事、数時間前──────
ラモンを倒した後、ジジイと話していて気付かなかったがいつの間にか道場には人が集まっていた
ユン、アイリン、リュウシ・・・あと鋼拳のなんちゃらって奴とナハト・・・あれ?なんでナハトがここに居るんだ?
「正直どうかなって思ってたけど本当にラモンに勝つなんて・・・凄いねアタル君」
「・・・シュラ、そこに残党がいるぞ?」
「待って待って!前に言っただろ?僕はアタル君の味方だって・・・覚えてないの!?」
「アタル・・・どうやら事情があるみたいネ・・・聞いた時は知た事かと思たけド・・・少年は本気で螺拳を裏切タ・・・その証拠に私達の前で螺拳の門下生達を倒しタ」
アイリンは庇うようにナハトの前に立ち、東門で起こった事を話した。東門にいた多くの螺拳の門下生達はほとんどアイネとクライネとナハトで倒してしまったらしい。それも含めて罠の可能性もあるが・・・
「お主ら・・・国王様の御前だぞ・・・跪け」
おお、ビャッコが目を覚ましたみたいだ。ただ傷は回復したけど足元がふらつくのか少年に肩を借りてやっとこさ立っている状態・・・回復魔法って体力は回復しないのな・・・不思議だ
ビャッコに言われて俺とダルス以外がシュラを一旦見て焦って跪き頭を下げる。俺は・・・まっいっか
「ビャク・・・良かった・・・んん!皆の者、面を上げよ。まだ終わった訳では無いが先ずは駆け付けてくれた流派に感謝する。ジュウク、すまぬが至急スザクを探しここに・・・」
「発言をお許し下さい。スザク様ならイエン殿と共に城の入口付近でお倒れになっており、私達の手の者が手当てをしております。既に治療はある程度施されており命に別状はないかと思いますが招集に応じるのは難しいかと」
ユンがシュラに伝えてる最中に俺をチラリと見た。そうです、私がある程度治療しました。ホーリーヒールを使えば完治するだろうけどもしあの時使っていたら俺がやられてただろうな
「そうか・・・さて、どうするか・・・」
「ここでナハトを信じるか信じないか悩んでても仕方ないだろ?どうせやる事は変わらないからナハトを連れて螺拳道場に乗り込むか?そこで全てはっきりするだろ」
「簡単に言うな、アタル。『目』の情報だと首謀者ラハンは螺拳道場に残っている・・・討伐に向かっても逃げられるだけだろう・・・『目』で監視しつつ追い込む事も可能だが、現状はそれも厳しい・・・まだ正確には分かってないが今回の戦いで被害もかなり出ている。その状態でラハンを討伐出来る者を差し向けるなど・・・」
「その『目』がやるとかは?」
「鍛えてはいるがとてもじゃないが無理だろう。気功を使える者も居るが隠密に特化している・・・無駄死にはさせたくない」
なるほど・・・あくまでも監視役に徹している訳か・・・なら
「シュラ・・・俺とナハトの他に2人選べ・・・もちろんラハン討伐のメンバーとしてな」
「アタル・・・だから・・・」
「ラモンが倒されたと知られ、王都から討伐隊が放たれたと分かられたら逃げられるんだったら・・・知られる前に倒しに行けば良いだろ?ナハト、計画の成否を報せる術は?」
「成否・・・って言うよりラモンが負けると思っちゃいないね。ラモンが王都を制圧した時に狼煙を上げる事になってるよ。各村の村人にお金を渡して狼煙用の材料を渡してるからラハンにすぐ伝わるようになってるけど・・・」
「じゃあ、今のところは逃げる心配はないな。てか、勝つことしか考えてないのかよ・・・」
「確かに少人数で行けばバレぬやも知れんが奴とて馬鹿ではあるまい。あまり時間をかければ訝しむだろう・・・馬で飛ばしたとしても時間がかかり過ぎる」
「大丈夫大丈夫・・・さすがに数時間くらいならまだ戦ってんのかなーって思うだろ?」
「だから!数時間では辿り着けぬと・・・」
「行けるさ・・・方向さえ分かればな」
「どうやって!」
「・・・空──────」
てな訳で俺はシュラの選んだ2人・・・シュラとビャッコ、それに加えてナハトを連れて螺拳道場へと訪れた。最初に空を飛んだ時はかなりビビっていた3人だが、しばらくすると楽しんでいるようにも見えた・・・そのお陰で俺はクタクタなのだが・・・
「悪者退治だと?ナハトよ血迷ったか!」
「血迷ってないよ。元から僕はこうするつもりだった・・・真実を知ったその時からね」
ナハトの言う真実・・・それはナハト達3つ子の実の両親の事。ハレル村には元々延槍拳と螺拳、ふたつの流派が道場を構えていた
だがいつの頃からかハレル村には螺拳道場しか存在しなくなり、人々は延槍拳の存在を忘れていった。そんなある日・・・
「隣の村に行った時、僕を見た老人が言ったんだ・・・『ムジク師範に似ている』って・・・その人は昔延槍拳を習っていたけどやめて家業を継いだから助かったんだって・・・子供が生まれたとは聞いていたけどまさか螺拳派になっていたなんてって嘆かれたよ・・・その時は意味が分からなかったけど・・・何故か引っかかるものがあって色々調べたら真実に辿り着いた・・・ラハン・・・アンタは僕達を捨て子だと言った・・・でも真実は違う!補助金欲しさに延槍拳の師範・・・僕の父であるムジクと母であるカナデを殺した!そして門下生も全て!・・・僕達は赤子だった為に・・・いいように使う為に捨て子だったと言いくるめて・・・」
「・・・フン、そんな見ず知らずの老人の戯言に惑わされたか・・・今の話では門下生は皆殺しにされたのだろ?何故その老人がその事を知っている?」
「その老人はただ僕がムジクと似ていると言っただけだ・・・教えてくれたのは老人は老人でも・・・アンタの父であるラジンだよ!」
「!・・・なんだと・・・」
「アンタらが相手してやらないからちょっと相手してやったらベラベラと嬉しそうに喋ってくれたよ。汚いやり口から非道な行いまで全てね・・・それを聞いた時、僕は復讐を誓った。どんな手を使っても・・・アンタらを殺すと!だけどアンタらにはラモンがいる・・・だから僕はラモンを倒せる人物が現れるまで待った・・・そして現れたんだ・・・ラモンを倒せる人が!」
「ラモンを倒せるだと?笑わせるな・・・アレは人の手には負えない。今まさに王の首でも取っている事だろう」
「ん?とっくに気付いてると思ったけど気付いてなかったのか。シュラ、お前の首が取られてるらしいがどうなんだ?」
「あいにく首は健在だな。心労で少々肩こりがあるからその事だろう?」
俺とシュラのやり取りでようやくシュラの存在に気付いたラハン。ナハトばっかり見てたからここにターゲットが居ることに気付いてなかったみたいだ。結構間抜けな面を晒してる
「バ・・・バカな・・・国王様がここに居るはずか・・・」
「我が国の領地だ。どこにいようと俺の勝手だろう?それとももう国を乗っ取ったつもりでいたか?螺拳ラハン!」
「ぐっ・・・まさか読まれていたとは・・・入れ違いになったか・・・」
「入れ違い?きっちりラモンを倒して来たぞ?」
「ふざけるな!王都に到着したという狼煙は確認した!それも数時間前だ!ラモンを倒して今ここにいられるはずもなかろう!・・・そもそもラモンを倒すなど・・・」
「防御を過信し過ぎて攻撃を教えなかったのが仇になったな。受けて殴る・・・単純だが確かに強い。まっ、受け切れれば、な」
「・・・まさかラモンの体内に渦巻く気功を突破したのか・・・有り得ぬ!デタラメだ!」
「それが有り得るんだなー・・・試してみるか?」
ごちゃごちゃとうるさいから黙らせようと前に出ようとするとナハトに止められた。そうだった・・・ラハンはナハトの獲物だった
「もう終わりだよ・・・ラモンもバセンも・・・味方になったセイリュウとゲンブも倒した・・・あとはアンタだけだ・・・ラハン!」
「・・・育ててやった恩義も忘れて・・・ラモンがやられるとは思えん!ここで王の首を取れば・・・我らの勝ちだ!」
往生際の悪いことで・・・ラハンは一直線にナハトではなくシュラに向かって駆け出した
「アタル君!僕が勝つまで手を出さないで!」
咄嗟に手を出しそうになった俺を牽制しナハトはシュラの前に躍り出た
しばらく打ち合うもナハトは劣勢を強いられてる。如何せん体格差は元より気功の差が大きいみたいだ。気功は念動力と同じで使えば使う程多く練れるようになる。才能の差とかもあるんだろうけどオッサンと少年じゃオッサンに分がある・・・年の功ってやつだな
「チチッ」
シールが服の中から出て来てナハトを心配そうに見つめて短く鳴いた。預けていたシュラには懐かなかったクセにナハトにはえらく懐いていた・・・シールは人を見る目があるな、うん
「おいおい、こんな時に食うなよ?」
・・・あー、なるほど。シールは自分を見る目に敏感なんだな。食糧として見てる奴には懐かず、純粋にペットみたいに見てくれる人には懐く・・・あかん!ビャッコの目が獣そのものだ・・・
冗談?はさておきナハトはピンチの連続だ。もう既に満身創痍・・・あと一撃でも食らえば終わりかもしれない
「フン!付く相手を間違えたな・・・貴様亡き後は残る2人は可愛がってやるから安心しろ」
「付く相手を間違えた?冗談・・・戦ってて思うよ・・・ラモンがいなければ所詮螺拳なんてヘボ拳法だってね」
「・・・ならばあの世で見ておくといい!螺拳が世界を制する様を!」
あー、これで決まりだな
ラハンはラモンのように拳を振り上げ渾身の一撃を放とうとする・・・いや、誘導される。ナハトは恐らくこの時を待っていたのだろう・・・挑発に乗って大振りになったラハンの隙を付きサイドに回り込むと手刀を放つ
「螺旋槍!」
螺旋状の気功を纏った手刀を突き出しラハンの脇腹に深く突き刺した。体格差と気功の多さで勝てないならと隙を付き最小限の動きで最大限の攻撃を繰り出す・・・一撃必殺とはいかないまでも恐らく致命傷になるだろう
「ぐあああああああああああ!」
脇腹に指がすっぽり入ってるんだ・・・そりゃあ痛いよな
「調べたのは過去の真相だけだと思った?いずれ・・・延槍拳を復活させる為に・・・色々聞いていたのさ!」
隣村の老人に話を聞いて自分なりに延槍拳を再現したナハト・・・ちゃっかり螺拳も入ってるのはご愛嬌だな。老人は基礎までなら修得していたらしいからあとはナハトが自分なりの延槍拳を築いていくしかない
「・・・勝負あったな・・・終わりだ、ラハン」
脇腹を押さえながらうずくまるラハンを見下ろしシュラが言うとエシスはスっとその場から逃げようとした
「どこに行く?国を盗み取ろうとした女狐が」
「白の闘衣・・・四星拳ビャッコ・・・」
「ケジメだ・・・最後の狩りといこうか」
ゴキゴキと指を鳴らすビャッコ・・・あのオバサンは終わったな・・・
ナハトはうずくまるラハンをしばらく見下ろした後、踵を返しこちらに戻って来る。トドメを刺さず時間をかけて苦しめってところか。しかし往生際の悪いラハンは後ろを向いたナハトに突然襲いかかる・・・が
「ぐっ!・・・なんだ!?」
「ナハトが言ったろ?勝つまでって。もうナハトが勝ったから手は出させてもらう」
「ふざけるな!こんな所で・・・こんな所で終わってたまるか!」
念動力で動きを拘束しているが必死にもがくラハン。ラモンは一切拘束出来なかったのは気功の差だろうか・・・未だに自分の力が分からないな・・・
動けず叫ぶラハンの前に再びナハトが立つ
そして身体を沈め貫手を構えてラハンを見据えた
「苦しみ死ねばいいと思ったけど武士の情けだ・・・僕の手で・・・父の拳であの世に送ってやる!・・・延槍撃!」
「ま、待て!・・・ぐふっ!」
流れるような動きで心臓を一突き・・・今度は螺拳とのコラボじゃなくて純粋な延槍拳なんだろうな・・・ナハトが貫手を引き抜くとラハンは白目を向き血を吐いて絶命した。ちょうどその時ビャッコもエシスを倒し終え仮初の夫婦は夫婦仲良くあの世へと旅立った
「今度こそ本当に終わりか」
「ああ・・・そうだ・・・な・・・」
シュラの言葉に返そうとすると・・・目の前が暗くなる・・・遠くからシュラが俺を呼ぶ声が・・・あ・・・れ?──────




