2章 31 四星拳
テリトウ村を出て次の村に到着後、今度は道場破りなんかしないぞ!っと鼻息荒く村の中心部へと向かっていた
村の名前はトムラ村・・・ト村じゃなくてトムラ村
中心部肉体派近付くにつれて聞こえてくるのは今話題の魔法の事・・・でも、それと同じくらい話題になっている話があった・・・それは・・・
──────謎のローブ男現る──────
は?なんで?
ジャタンとラカンに聞いても分からんと首を振る
話してる内容は悪徳道場を1人で潰しただの、国に仇なす暴漢を懲らしめただのまんま俺の事・・・悪徳道場は螺拳道場だし、暴漢は波動派の事っぽい。更にそのローブの男は最近になってやっと解禁になった魔法を駆使すると言うから間違いない・・・俺の事だ
「ナハトが喋ったとか?」
「ないな。ナハト達3つ子は捨てられていた所をラハンに拾われて恩義を感じている。たとえ悪徳道場が名前を伏せていたとしても面白おかしく誰かがローブの男の事を調べ始めたら明るみに出る可能性が高い・・・そんな危険を冒してまで広めようとは思わないだろうな」
「3つ子!?」
「アタルも対抗試合で見ただろう?アイネ、クライネを・・・その2人とナハトは3つ子だ」
あらまあ、双子かと思ったら3つ子かよ。育てられないって親がった捨てたのか?確かに3つ子の世話は大変そうだけど捨てるなんて・・・
「話が逸れたな。つまりナハト達の忠誠心は非常に高い・・・螺拳派の不利になる事はしないだろう・・・だから、もし広まったとしたら別の・・・」
別?他に目撃者が・・・あっ
「もしかして・・・シュラ?」
「シュラ?誰だそれは・・・ってあんた!その名前・・・国王様じゃ・・・」
あいつ知ってたよな・・・そう言えばどうやって知ったんだろ?
「おいアタル!聞いてるのか!?」
ジャタンが耳元でうるさい・・・考えても仕方ないか・・・直接聞けばいい事だしな
俺達は一晩トムラ村で過ごすとまた王都に向けて出発した──────
「スザク・・・顔色悪いぞ?」
用があってスザクの仕事部屋を訪れると・・・んまあ、書類の山が出来ていた。スザクは俺の王としての権限が必要のない事は全てこなしてくれている・・・つまり細かい事はスザクに丸投げして楽をしてるって訳だ
「誰のせいですか誰の・・・魔法反対派からの苦情やら魔法に関する事件やら事故やら・・・もうてんてこ舞いですよ!」
書類から目を離し、チラリと俺を睨むとまた書類に目を向ける・・・顔色は悪いが元気そうだ
「叫ぶ元気があるなら大丈夫だな。もうひとつ追加していいか?」
「殺す気ですか?」
「スザクが死んだら俺が困る・・・死なないように気を付けてくれ。で、だな・・・」
ギロリと睨むスザクに一通の手紙を渡す。スザクはため息をつきながらも手紙を受け取るとすぐに目を通した
「・・・これはいつの話です?」
「今朝方届いたから昨日か一昨日だろうな」
「・・・辞職してもよろしいでしょうか?」
「国が滅ぶぞ?」
主に政務関係で
「どんな脅しですか・・・魔法案件だけでもいっぱいいっぱいなのに・・・他の者には?」
「言ってない。セイリュウやゲンブ爺が聞けばどう反応すると思う?」
「分かってて聞いてませんか?」
「だよな・・・分かりきってるから困ってるんだ」
来た手紙にはこう記されていた
──────波動派、螺拳派と接触。その後、各地に螺拳派と思わしき者達が向かい候──────
波動派が俺を襲って来た事はスザクに話してある。泳がす為にわざと波動派が王都を去った後に・・・かなり大目玉を食らったが、泳がせていて正解だった。黒幕は螺拳派で間違いないだろう
螺拳派のラモンが数年前に各地で道場破り紛いのことをしていたのは知っていた。それはもしかしたら人集めの為にやっていたのかも知れないな・・・俺を・・・国を倒す為に
「波動派単体で国王様を狙うとは到底思えませんでしたが・・・螺拳派ですか・・・しかも、既に複数の流派を従えてる可能性が高い・・・やっぱり辞めます」
「まあ、待て。別にお前にどうこうしてくれと頼んでる訳じゃない。軍をまとめるセイリュウや王都の守備を任せてるゲンブ爺だと何も考えずに突っ込んで行きそうだからな・・・スザクに聞きたいのは、俺はどうすればいいか、だ」
正直楽しくて仕方ないが、あまりに規模が大きいと市井の者達にも被害が出てしまう。楽しんでばかりいられないのが王の辛い所だ
「・・・もう既に動き出しているのでしょう?ならば早急に集めなされ・・・天下六拳及び周辺の流派を」
「そうなるか・・・」
「当然です。たとえ肩透かしを食らったからと言って文句など言いますまい。暗殺未遂だけでも波動派を潰すには充分・・・本来なら捕らえて黒幕を聞き出すべきだったのですが・・・過ぎた事は仕方ありません。即刻招集し、来たる謀反に備えるべきです」
大事になるな・・・出来ればひっそり楽しめればと思ったが・・・
「ハア・・・四星を全て集めて下さい・・・魔法の件は後回しです・・・今は対螺拳派に集中します」
「そうしてくれ・・・ビャクもか?」
「当然です。これは国王様・・・あなたを護る戦いなのですから・・・」
俺の号令で集められた四星拳・・・軍を司るセイリュウ、政治を司るスザク、防衛を司るゲンブ、護衛を司るビャッコ・・・この4人で国が回っていると言っても過言じゃない・・・いや、現実にはスザク1人でだが・・・
四星拳は各流派から優秀な人材が選ばれ、元の名を捨て決められた名を名乗る。スザクは確かイーフォンだったかな?もう長い事スザクとしか呼んでないから忘れた
昔と違って今は他国と喧嘩してる訳でもないから、軍を司るセイリュウは主に魔物討伐隊だ。まあ、他国を攻めるとしたらセイリュウが先頭を切って行くのだろうが、そんな予定はサラサラない
スザクは内政、外交と大忙しだ。外交の方はほとんどないから主に内政でヒーヒー言ってる
防衛を司るゲンブは主な仕事は王都の防衛・・・って言っても誰が攻めてくる訳でもない為に治安の維持に見回りや門番などで活躍してる。平和な世では暇な職だな
で、最後のビャッコは俺の護衛・・・要は近衛兵だな。で、俺の師でもある・・・近い歳なんだが実力は遥かにビャク・・・ビャッコの方が上・・・
「へえ、おもしれえ事になってんな・・・俺が魔物とみなして駆除してやんよ」
「吠えるなやセイリュウ。防衛の役はワシじゃろうて」
スザクから事のあらましを聞いてセイリュウが言うとすかさずゲンブ爺がツッコミを入れる。元々2人・・・いや四星は仲が良くない。我が強いからか、集まれば喧嘩ばかり・・・大体この後・・・
「駆除だの防衛だのまどろっこしい事言ってんな!敵ならば喰らうのみよ・・・」
ビャク参戦!そして、意味が分からん!なんだ喰らうって・・・
3人がいがみ合いスザクがそれを見てため息をつく・・・いつもの光景だが、今はそれを楽しんでる場合ではないな
「3人共黙れ・・・スザク、お前ならどうする?」
一応は俺の言う事を聞いてはくれる・・・表向きだけは。口を閉じた3人を見てもう一度深くため息をついたスザクが静かに口を開いた
「こちらから攻めるのは難しいでしょう。相手の規模、位置など把握するのに時間がかかりすぎます。国王様の放っている『目』も全てを追いきれてる訳では無いので・・・そうなると王都の四方にある門を守り王都への侵入を防ぐ事が最善だと判断します」
「老いたかスザク!守ってばかりでは押し切られるぞ!」
「セイリュウ・・・我らは第一に国王様の御身、第二に民の命を守る為に戦う・・・攻めては相手の思う壷だ」
「逆だろ!?守りに入る方が相手の思う壷だろうが!そんな後手後手の策じゃ・・・」
「後手?もう既に後手に回ってるのに何を今更・・・我らの先手とは奴らが動く前に仕留める以外にない。つまりこの時点で我らは後手に回ってると分からないか?」
「んだとぉ?」
やっぱりこうなるか。スザクの意見が正しいがそれで素直に納得する連中じゃない。特にセイリュウとビャクは大人しく敵を待ち構えるなんてお行儀のいい事は出来ないだろうし・・・
「守りならワシの仕事だろうて・・・ワシに王都の守りを任せてお主らが攻めればいいのでは?」
言い争うスザクとセイリュウに割って入るゲンブ爺。だが、スザクは首を振る
「先にも言ったようにどこから来るか分からない。規模も不明な為に分散すれば突破される可能性が高くなる」
「こやつらが大人しく言う事を聞くか甚だ疑問だかのう」
「おいジジイ!誰にもの言ってんだ!」
「ワシはこやつらと言うただけだがのう・・・自覚はあるようで安心したわい」
「このっ・・・」
「セイリュウちっと黙れ。ゲンブ爺も挑発すんな。暗殺する気ならいざ知らず、大挙してくる可能性があるってんだ・・・国を護れ四星」
四星の役割は別でも意味は全て国の為・・・この俺でさえ我慢してるってんだ・・・この言葉で言う事を聞かないなら・・・
「・・・王」
「・・・坊」
「・・・若」
「・・・国王様」
どうやら全員納得してくれたようだ・・・全員呼び方が違うのが気になるが・・・まあいいだろう
その後はスザクの案を全員黙って聞き、言い争う事無く準備に取り掛かる運びとなった
いつ襲ってくるか分からない状態で待つのは精神的にくるものがあるが、それと同時に久しぶりにワクワクしてきた。後はどうやって参戦するかを考えるのみ・・・気付いたら螺拳派が全滅・・・なんて事だけは避けないとな──────




