2章 32 螺拳
よ、ようやく王都だ・・・綺麗なお嬢さん(ただの念動力による負荷)を背負いプルプルしながら王都の壁が見えて思わず地面に手をついた
ジャタンとラカンが冷たい視線を俺に注ぐが貴様らは知るまい!この負荷に耐えながら歩き、更に気功で疲れた身体を癒すという大変な作業を!永久機関待ったナシ!24時間戦えますよ?・・・てか、考えてみればジャタンとラカンがいなければピューっと王都まで来れたんじゃ?当たり前のように一緒にいるからついつい忘れてた・・・俺・・・飛べたやんけ・・・
「なんだか王都前が物々しいな」
俺がへたり込んでいるとジャタンが王都の方を見て呟いた。物々しい?何かあったのか?
何とか気力で立ち上がり改めて見てみると・・・うーん、確かに王都に入る門の手前に人が集まってる。かなりの人だかりだし、遠目から見ても一般人には見えない。みんな道着着てるし・・・そう言えば・・・
「なあ、なんでこの格好を見てみんな暗器使いって思うんだ?」
確かにコスプレショップのオヤジは暗器使い御用達みたいな事を売りにしてたが、見た目でバレたら暗器使い失格じゃ・・・
「本気で言ってるのか?」
ジャタンの質問にコクコクと頷くと、盛大にため息をついた後に教えてくれた
袖の広さ、懐に何かを仕込んでも分からないようなゆったりとした造り、機能に特化したカンフー服に比べて無駄が多すぎる・・・らしい。えー、ゆったりした方が着心地良いし、袖の中にお財布とか入れるのオシャレと思うが・・・まあ、そのまま正拳突きしたら財布が吹っ飛んで行きそうだが・・・
道着と造りが違うからただ単に暗器使いと言われてるかと思ったらそういう事ね・・・俺は機能的にも問題ないのだが・・・内ポケットがいっぱいあるからシールも好きな所に移動出来るし・・・モゾモゾ動かれるとくすぐったいのが玉に瑕だが
「・・・つまりあの人だかりにこの格好で行ったら逮捕されちゃうと・・・」
前回は某チャリティー番組並の黄色い道着で訪れたから問題なかったが、さすがに所属していないのに道着を着るのは憚られるから灰色の暗器使いスタイルで行動してる。通って来た村でも奇異な目で見られていたのは知っていたが、もしかしたら王都に入るのは気が引けるし、あの集団が何なのか分からないが絡まれる予感がする・・・出来ればトラブルは避けたいのだが・・・
「絡む勇気がある者の方が少ないと思うがな。俺なら素通りだ」
「どういう意味だよ」
「そのまんまだ。関わりあいになりたくない・・・お前は抜き身の剣を持ってる奴に話しかけるか?」
「いや、怖いわ!」
「だろ?そういう事だ」
???つまり暗器使いの格好が抜き身の剣と同じような意味って事か?・・・抜き身の剣・・・通り魔的な・・・ああ、俺も裸足で逃げるわ
「って!結局捕まりそうじゃねえか!危険人物として!」
「逆だ逆・・・捕まると分かってて抜き身の剣を持ち歩く奴はそうそういないだろ?それと一緒で暗器使いが日中堂々と歩くと思うか?思わないだろ?」
むむっ・・・確かにそうかもな。悪い事を企んでる奴は大概コソコソするはずだ・・・堂々と行けば逆に怪しくない。しかも、別に調べられても出てくるのはギリスのシールのみ・・・よし、行こう
俺はどんな理由で集まっているか知らないが、とりあえず堂々と王都の門へと進んだ。止められた。くそジャタンめ!
「待て!・・・そこの灰色の暗器使いの後ろにいる2人・・・お前ら螺拳派か?」
なぜその名を!・・・ああ、見た目で言っただけか。それよりも集まっている奴らの視線は俺の後ろにいるジャタンとラカンに注がれる。統一性のない道着・・・4種類か?何してるんだろ?
「元螺拳派だ。今は流派を離れて流浪の身だ。それがどうした?」
「・・・」
ジャタンが答えると聞いた奴が視線を横に・・・その視線を受けた者が更に横にいる者に・・・視線のピンボールはとうとう俺へとやって来た・・・いや、俺に答えを求めるなよ!
「今は・・・あっ、うーん・・・」
質問して来た奴が何かを言いかけて困ったように頭を掻くと王都の方から誰かがやって来たのが目に入る。あまりこちらの世界では見ない丸メガネをして颯爽と歩く姿は妙に絵になり、目を惹き付ける。多分その原因は服だな。カンフー服でもシャツでもなく、光沢のある赤色の服で俺の服みたいに袖口が大きい。けど、胸周りはピッチリしてるから暗器使いじゃないな・・・服に刺繍とか入ってるしお偉いさん?
「!・・・スザク様!」
そのスザクと呼ばれた男の存在に気付いた全員が一斉に膝をつき頭を下げた。やっぱりお偉いさんぽいな
スザクと呼ばれた男は頭を下げる者達を通り過ぎると俺の前まで来た・・・近くで見ると迫力あるな・・・歳の頃なら30前後か?丸メガネの奥で目を細めて俺らを見つめる・・・まるで俺らを品定めしているように・・・
「仮装なら時期が悪かったな・・・牢に入れておけ」
「ちょっ・・・」
文句を言おうとした俺の肩に誰かが手をかけた。振り向くとジャタンが神妙な面持ちで俺を見つめ首を振る。まさか黙って投獄されろって言うのか?冗談だろ?
スザクの言葉で膝をついていた者達が一斉に立ち上がり俺らを取り囲む。ジャタンだったらいきなり牢に入れられると聞いたら「絡むわよ」とか言って反抗するもんだと思っていたけど・・・結局俺らは3人共捕まり牢屋へと連行された
俺が何をしたって言うんだ・・・格好か・・・格好がダメだったのか!
と、言うわけでまるで流れるように投獄されてしまった
身体検査も碌に行わないでポイッと3人同じ地下牢に入れられて何の説明もないまま放置プレイ・・・せめて一人部屋にしてくれ
「参ったな・・・もう始めたのか」
はん?始めた?壁に寄りかかりスカしながら言うジャタンにイラッとしたが、とりあえず聞いておこう
「何を?」
「国の乗っ取りだ」
へえー乗っ取りかぁ・・・乗っ取り・・・乗っ取り!?
「・・・ジャタンジョークか?」
「ジョークじゃない・・・本気だ。螺拳派は本気で国を乗っ取るつもりだ」
「なんで?」
「・・・女だよ・・・あの女の存在が全てを狂わせた・・・」
ジャタンは語り始めた・・・螺拳派が分かれたきっかけを・・・国を乗っ取ろうとする訳を・・・
かなり前の話・・・ラコンの若かりし頃、ラコンは兄であるラジンと共に螺拳道場を盛り立てていた。その頃は仲のいい拳法兄弟として有名で道場もそこそこ繁盛していたらしい。そしてラジンに子が生まれ、その子はラハンと名付けられ螺拳道場の将来を担う者として育てられていた
修行一辺倒だったラコンは未婚のままラジンと共にラハンを育てていた。そのラハンはラジンはもちろんラコンを実の父親のように思っていたらしい・・・が、その良好な関係は突如として終わりを迎えた
ラハンに嫁ができた。エシスという螺拳の門下生だった。そのエシスがラモンを産みラコンは実の孫が出来たように喜んだが、エシスはラコンの事を疎ましく思っていた。本当の義父であるラジンがラモンを可愛がるのは当然であり微笑ましく思っていたが、義父の弟と言うだけで所詮は他人・・・次第にラモンに近付く事さえ拒否するようになった
エシスに影響されてラハンまでもラコンを避けるようになり、ラジンより道場を任せれたラハンはとうとう螺拳派を2つに割った。それがラハン率いる本家とラコン率いる分家となる
ラコンには子供がいない為に分家は一代限りとなるはずだったが、ラカンが生まれた事によりラコンに欲が生まれる。分家としてではなく本家になりたいと・・・
「・・・なんでそこまでそのエシスって人はラコンを近付けたくなかったんだ?ラコンってラモンにとって大叔父になるだろ?親戚じゃないか」
「大叔父だったら良かったんだけどな。俺の予想だとラモンにとって老師は叔父に当たると踏んでいる」
「・・・ん?どういう事?」
「だから・・・ラモンの父はラハンではなく・・・老師の兄のラジンではないか・・・と」
んん??あれ?よく分からなくなってきたぞ・・・えっとラモンの母親はエシスで父親はラハン・・・ラジンは祖父になるはず・・・それが実は父親はラジンで・・・え?・・・ええ!?
「ラハンはその事を知らない・・・で、エシスは近親者である老師ラコンが気付くと不味いと判断して老師を遠ざけた・・・と睨んでる」
「なんだよ!予想かよ!」
「俺の勘は当たる。ほぼ間違いないだろう」
女の勘みたいに言うな!・・・いや、なんだ・・・昼ドラみたいにドロドロしてきたぞ・・・
「エシスは武術家としてより強い者に惹かれたのかも知れない。ラジンはラハンとは比べものにならないくらいに強かった・・・今は老いてそうでもないらしいが・・・」
ラコンを追い出しに成功したエシス・・・ジャタンの勘だが、エシスとラジンの子のラモンはエシスの思惑通りなのか成長と共に強大な力の片鱗を見せ始めた
そこでエシスに野望が芽生える。ラモンを使えば国すらも奪えるのではないかと
エシスはラハンを巧みに操り、ラモンを使って各地の道場を支配下に治めた。国を我がものにする為に・・・
「・・・えっと・・・全部憶測だよね?」
「勘よ」
『よ』じゃねえよ!『よ』じゃ!本性出てんじゃねえか!
「分家に与して本家を色々調べたけど、裏付け出来るような所まではいってない・・・だけどあの女の考えそうな事は分かるわ・・・老師も昔は拳法一筋の方だったのにあの女のせいで・・・」
そのエシスって女のせいで妖怪に進化したのか・・・でもあそこまで歪むか?そんな事で・・・
「門の前にいた奴らは暗器使いのあんたより黒い道着の私達を警戒していた・・・恐らく動き出したんじゃないかしら?螺拳派・・・いや、あの女エシスが」
憎々しげに言うジャタン・・・さぞかし醜い女の争いがあったに違いない・・・いや!ジャタンは生粋の男だった!
「ジャタン・・・アタルとはいえあまり外部の者に螺拳の恥部を晒すな・・・」
「・・・そうだよな。拳の道をひたすら歩んでいた螺拳派が女の言いなりになって国を荒らすなんて・・・どう考えても恥部だよな」
「ジャタン!」
「ラカン・・・お前はそんな螺拳派に戻るつもりなのか?老師を変えてしまった・・・強さではなく権力を求めるようになってしまった今の螺拳に!」
びっくりするくらい蚊帳の外・・・ジャタンはどうか知らないけどラカンは強さだけを求めてきたはず・・・なら権力なんて・・・
「戻る・・・俺には螺拳しかない・・・俺から螺拳を取ったら・・・何も残らん・・・」
悲しい・・・それは悲しすぎるぞ・・・ラカン!
結局ジャタンはそれから何も言えず静寂が牢屋を包み込む
て言うかこの牢の中・・・トイレないじゃん・・・どうすんだろう
そんな事を考えていると誰かがやって来る気配を感じた
牢の中は明かりが少なく薄暗い・・・なので目を凝らしてやって来る人物を見ているとその人物がようやく確認出来て安堵する。もうトイレの心配はしなくていい、と
「前は空から、今度は地下からお出ましか?」
「地下にお出まししたのはお前だろ・・・シュラ──────」




