2章 26 王とアタルと・・・
完全に気付かれた
計画では慰霊碑に向かって語りかける王様の後ろから気付かれないように近付いて囁くつもりだったのに・・・その為に警護の人達に迷惑がかからないように遥か上空からゆっくりと降りて来た。宿屋に缶詰状態になってる時に主に修行したのは気功を消す修行。つまり気配を消す修行だ。上空から降りて来ても気配を察知されたら意味がない。ヤクモに手伝ってもらいつつ気功を限りなく消す事により、同じ部屋に居ても存在が感じられないくらいになった。まあ、元々気配を消すのは得意だったからな・・・教室の隅で・・・
で、近付いて何を囁くかと言うと
『魔法を認めよ』
そんな言葉をまるで慰霊碑から伝わって来たように囁く・・・すると王様はキョロキョロして気付くんだ・・・これは天啓だ、と
そして王様は魔法を認めるようになり、ヤクモも晴れて魔法を使えるようになってハッピーエンド・・・のはずだったんだが、失敗に終わった
となると次の作戦・・・ノータリンをぶん殴る・・・NTB作戦は言う事を聞かなかった時の最終手段だったのだが、強行するしかないようだ
降り立った俺を身体を起こし見ている
キリッとした眉毛が特徴的な俺と同い年位・・・突然降りて来た俺を見ても動揺した様子もなくまるで品定めするようにじっと見つめてきている。その瞳は全てを見透かすように・・・これが王様か
「何しに来た?」
威厳のある少し低い声・・・最初の一声がそれかよ・・・
「えっと・・・じ、直訴?」
「何をだ」
「ま・・・魔法・・・使える・・・みんな嬉しい」
「は?要領を得んな。簡潔に俺にも分かるよう申せ」
くっ・・・まともに会話する予定なんてなかったから頭が真っ白だ。王様は膝を立てて一応聞く姿勢になってくれてる。凄いチャンスなのに・・・言葉が・・・
「そもそも顔を晒さぬのはどうなのだ?どこの誰ぞか分からぬ者の意見を俺が聞くとでも?」
ローブを深く被り隠している顔を覗き込むように見つめる王様。身バレは不味いんだよな・・・どうする・・・どうすれば・・・
「・・・お、俺の意見って訳じゃない・・・俺は代弁者・・・ゆえに顔を晒す必要は無い・・・」
「代弁者?誰のだ?」
「・・・国民のだ」
「ほう?で、国民の代弁者たるお主が何を訴える?」
「魔法の・・・解放を」
「魔法の解放?具体的に申せ」
「・・・魔法を使用した事に対する・・・罰則をなくせ」
「・・・なるほど。魔法を使用し罰を受けた者の近親者か」
「違う!く、国を憂う者・・・国を思って・・・」
「何を憂う?魔法の使用を許可せねば国が滅びるとでも言うのか?」
「・・・助けられなかった命を助けられる・・・」
「それは魅力的だな。で?奪われるはずではなかった命を奪うか?」
「なぜそうなる?」
「我が国が魔法を禁じた理由を知らぬとは言わせぬぞ?それとも何か?魔法で奪われた数多の命が眠るこの碑の前で知らぬ存ぜぬで通すか?」
「それは・・・」
シューリー国が魔法を禁じた理由・・・ホビット族に数多くの人が魔法で殺されたから・・・でも、それは因果応報・・・今は・・・
「魔法がなくてもさして困らん。いや、逆に魔法を禁止する事により武術が進化しているとさえ思える。その状況下で魔法の使用を許可する必要性を感じないのだがな」
「武術で・・・気功で治せない傷が魔法では治せるとしても?」
「先程から治す治すと言っているが、魔法は治す為のものだけでは非ず・・・人の命を奪うものである事に目を瞑る気か?」
「なら・・・せめて人の為に・・・回復する魔法だけでも許可を・・・」
「あれはよくてこれはダメと線引きするのは容易い。が、一度緩んだ締め付けは必ず綻ぶ。その為に一切の魔法を禁じてるのだ・・・例外は認めぬ」
「救えなかったはずの命が救えるんだぞ!?目の前で零れる命を・・・救う事が出来るのに指をくわえて見てろって言うのか!?」
「その回復の魔法がどれほどのものか知らないが、人の命を奪う魔法に関しては知っている。俺だけじゃなく国民全員に刻まれてるはず・・・もしそうでないのなら締め直さねばならぬな・・・綻びを」
ブワッと王様から風が吹いたような気がした
綻び・・・シューリー国が忌み嫌う魔法。その存在を認める動き・・・か。日本に居た頃、俺は魔法の存在なんて漫画やアニメ、ゲームの中だけの存在と思っていた。それがこちらの世界では当たり前で・・・だから魔法が使えない事が窮屈に感じる。でも・・・日本に居た時のように魔法が使えないのが当たり前と思っていたら?目の前で交通事故に合い瀕死の人を見て・・・もし魔法が使えたらなんて思うだろうか・・・思わないだろうな・・・慌てて駆け寄ったり、救急車を呼んだり・・・だって魔法なんて使えないのだから・・・
それと一緒で、一度魔法を認めてしまったら思ってしまうだろう・・・魔法が使えたら・・・と。魔法の便利さを知ってしまったら・・・。シューリー国はメイザーニクスと違って発展が遅いように感じる。恐らくだけどその違いは魔法によるものが大きいんじゃ?魔法は便利だ・・・斧だと何日もかかる大木も、風魔法で一瞬で切り倒しているのを見た事がある。土魔法で道路を舗装したり、水魔法で火事を消火したり、火魔法を使って豚の丸焼きを一瞬で作ったり・・・使えるなら使いたい・・・でも、それが・・・綻び・・・
「どうした?わざわざ空から舞い降りて来て言いたい事はそれだけか?」
言いたい事は・・・あれ?俺なんで王様の前に立ってるんだっけ?
ヤクモが魔法を使えるように・・・だよな?でもなんで俺が?そりゃあヤクモはいい人だし、魔法を使っただけで両腕を奪われるなんて納得出来ない・・・でも出会って間もないヤクモの為に俺が王様に直訴するまでになるか?
!・・・そうか・・・確かにヤクモの腕を奪った事に怒りを感じてるし、魔法を使えない理不尽さも感じてる・・・でも俺が・・・なんで王様に直接訴えかけようとしたか・・・それは決して同情とか怒りじゃなく・・・日本で今起きている事と同じだからだ
超能力と魔法の違いはあるけど、使えるはずの能力を使えず、もし仮に使ってる所を見られたらヒカリ達みたいに・・・
確かに超能力は犯罪に使われるケースが多々あった。身近で言うとケンさんの覗き・・・でも、もし超能力が普通に使える世の中なら、大地震が起きて瓦礫に埋もれた人を透視で発見したり、瓦礫を念動力でどかしたり・・・医者をテレポートで連れて来たり・・・
「終わりだったらさっさと去ね。いい暇潰しになると思いきや・・・む?」
なんだ?・・・周辺に妙な気配を感じる
俺みたいに気配を消して・・・それが複数ここを取り囲むように
王様も気付いたみたいで周囲を伺っている。ここは警護の人達によって護られてるはずなのに・・・
「仲間か?」
「いや、知らな・・・」
答えている途中で気配が濃くなる。この気配の正体は・・・殺気!?しかも俺じゃなくて向けられてるのは恐らく・・・王様
姿を表したのは白の道着の連中・・・流拳派と同じ色だが流拳派ではない。北側に配置されてた・・・確か・・・
「波動派か・・・まだ儀は終わってないのだが、暇になり散歩でもしに来たか?」
そうそう波動拳!なんかエネルギーの塊でも出しそうな流派だ
「・・・」
無言で構える波動派の皆さん。どうやら本気らしい・・・多勢に無勢か・・・ここは・・・
「手伝おうか?王様」
「手出し無用・・・てか、しゃしゃり出て来んな・・・楽しみが減るじゃねえか!」
あらまあなんと好戦的な王様だこと・・・喋りながら一枚服を剥ぎ取ると道着姿に・・・コスプレショップで売ってたような刺繍入りの道着だ。虎の刺繍・・・う、うん、強そうだね・・・
やる気満々の王様を無言で囲む波動派の皆さん。全部で5人・・・みんな強そうだが大丈夫なのか?
「襲われる理由くらい・・・知りたいもんだ・・・なっ!」
動き出す王様。正面の奴に駆け寄ると目にも止まらぬ速さで攻撃を繰り出している
波動派の奴も負けじと受けては攻撃、受けては攻撃を繰り返し一進一退・・・生でカンフー映画を見てるみたいだ
飛び蹴り、肘打ち、蹴り上げてからのかかと落とし・・・流れるような一連の動作も決定打には至らずお互い一歩も譲らない
そこに背後からの強襲が加わると徐々に王様は劣勢になっていった
「チッ!」
波動派は連携が出来てる。決して邪魔にならないように攻撃に参加していた。2人相手に何とか持ち堪えるがもう1人が加わるとさすがにキツそうだ。少しずつ王様が攻撃を食らう事が増えてきた
「うぜえっ!!」
おお!?気功を身体全体から発して波動派の3人を吹き飛ばした。でも入れ替わるように様子を見ていた2人がすぐに突っ込んで行き、王様休む暇なし
ん?2人の内1人は少しやりそうな雰囲気・・・さっきは3対1で互角に近かったのに、今は2対1で王様劣勢・・・吹き飛ばされた3人は起き上がり腕を組んで戦いを見ているがその表情に余裕すら見えている
4人は同列、1人だけ抜きん出てる感じか・・・王様は防戦一方になりつつある。こりゃあ王様の負けだな
正面の奴から蹴り飛ばれ、後ろの奴に蹴られてまるでピンボールのように再び正面の奴の前に立つと、正面の奴は手のひらを王様の胸の辺りにそっと添えた
次の瞬間に王様の身体は微かに震え膝から崩れ落ちた
気功を流してダメージを与えたのか・・・恐らくアレが波動拳・・・
崩れ落ちた王様を見下ろす正面の奴の目は冷たい・・・あー、これはもうトドメを刺すやつだ・・・コイツらは王様を殺して何がしたいんだ?王様に恨みでもあるのか?でも、とりあえず・・・
「!?」
全員に空圧拳
正面の奴以外はまともに食らって吹き飛んだが、正面の奴・・・咄嗟に後ろに飛んで衝撃を逃がしたっぽい・・・凄いな
「・・・まさか威空拳!?手を出してこないから無視していたが・・・護衛か?」
初めて喋ったな。威空拳・・・気功を飛ばす流派か。まっ正直に答える義理はないから勘違いさせておこう
王様と波動派の奴らの距離が離れたので念動力で身体を浮かせると王様の近くに降りた
その行動に波動派はかなり警戒してすぐに攻撃してこなかった
「・・・ヒール」
手のひらを王様にかざして魔法を放つ。結構食らってたけどホーリーヒールを使う程じゃないだろう
「バカな!?魔法だと!?」
正面の奴・・・結構喋るじゃないか。無口キャラは終了か?
「・・・コレが・・・。フン!恩を着せて魔法の使用を認めさせる気か?」
「それだったらいくらでも回復してやるんだがな・・・で、どうする?手伝おうか?王様」
回復したとはいえまた1人で戦えば同じ結果になるのは目に見えてる。王様は少し考えた後、口の端を上げて笑みを浮かべながら立ち上がった
「・・・手を貸せ。さすれば俺に魔法を使った事を許してやろう」
コ・・・コイツ・・・
「もう泣いてお願いされても回復してやらないからな!」
「上等・・・お前は雑魚の4人をやれ・・・俺は奴をやる!」
この・・・偉そうに・・・。確かにそれでちょうど均等になるくらい正面の奴は強い。いい加減正面の奴ってのもあれだからあだ名を付けよう・・・特徴のない顔・・・無口・・・無口でいいか
無口は王様の意向に沿うように4対1と1対1に分かれるように指示する。無口的には元々王様は1人で倒せるから、得体の知れない俺に4人当てるつもりだったかも知れない
「あっさりとやられて迷惑かけるなよ」
「・・・王様はやられてもいいぞ。そしたら俺が全部倒すから」
俺の言葉に鼻で笑って返す王様・・・やな野郎だ
こうして何故か直談判に来たはずなのに王様と共闘して波動派と戦う羽目になった・・・




