2章 15 指拳道場
「何だそんな事だろうと思ったぞ!ナーハッハッハッ」
ナーハッハッじゃねえ・・・一触即発の雰囲気だったが、何とか誤解は解けて今は道場の中に案内されてお茶を囲んでいる
ユンの父親であり指拳道場師範シホウは笑いながら茶をすする。見た目は穏やかそうなのだが、実際は豪快な感じだ
「ははっ・・・すみません言葉足らずで」
「あまり気にすんねえ・・・あまり螺拳派はいい噂聞かねえからな・・・ウチのもんも気がたっちまって・・・なあ?ユン」
「はい・・・申し訳ない。まさかあの試合から流拳派と螺拳派が和解してたとは思わず・・・」
悪いがユンには嘘をついた。事実を言ってしまうのは螺拳派も望んでないだろうし、流拳派だって・・・なので流拳派と螺拳派は和解して螺拳派派ハモト村を去ったという事にした。その後に誰かに襲われたかどうかは知るところじゃない
「・・・この二枚舌め・・・」
後ろでユンとシホウに聞こえないくらいでジャタンが呟く。コイツわざと揉めようとしていた節がある・・・気を付けないと・・・
「・・・この蛇舌め・・・」
「・・・蛇舌?・・・」
チロチロと舌を出して・・・多分コイツは生まれた時に舌をチロチロ出しててジャタンって名前付けられたんじゃないか?だから蛇舌・・・うん、きっとそうだ
蛇舌と言われて不思議がってるジャタンを無視して出されたお茶を飲む・・・ほうじ茶ぽいな
「で、どんな用件だ?まさか本当に指導に来てくれたのか?」
「あ、いや、たまたま通ったからこの村の宿屋でも教えてもらおうかと・・・」
「宿屋・・・村に住んでるから使った事はないが・・・父上は?」
「ふむ・・・知らん事はないが・・・どうせならウチに泊まってはどうだ?なんならユンに夜這いかけても良いぞ!」
よ、夜這い!?
「父上!」
「器量はいいんだが、理想が高くてな・・・自分より強い男に嫁ぎたいって・・・もう子が居てもおかしくないのにこのザマよ」
「指拳派も大した事ないのだな」
「聞こえてるわよ・・・目ぇくり抜いたろかコラ」
「勝っても拒否権があるならいつでも」
立ち上がる2人・・・どうしてこう好戦的なんだよ・・・血の気多過ぎだろ
「どうせやるなら皆の前にしな・・・それとも負けるのが恥ずかしくて皆の前じゃやりたくないかい?」
お父上!煽るなよ!
「上等・・・彼らの前で道着を全部ひん剥いてやるわよ!」
カマになってますよジャタンさん
「穴という穴ほじくり返してやるよ」
だからそれご褒美ですってユンさん
なぜこうなる・・・
道場内に黄色い道着を着た指拳派の門下生達が入って来る
ジャタンとユンを取り囲み、余裕の笑顔・・・それだけユンが強いってことか
俺とラカンも離れ、審判はシホウがやるようだ
準備運動なのかクネクネするジャタンに対してユンは目を閉じ精神統一・・・そして人差し指と中指だけを立てて構える
あの指が肛門に・・・考えるだけで穴がキュッとなる
「始め!」
特に何の注意もなくいきなり始めるシホウ・・・いや、なんか色々あるだろうよ。金的禁止とか目潰し禁止とか
2人はそんな事を気にせずお互い間合いを詰める
ジャタンがクネクネした軌道の拳を放つとユンは屈んでそれを躱し、指を肛門・・・じゃなくて首に狙いを定めて突いた。ジャタンは仰け反り躱すが、そこからユンの怒涛の攻撃・・・一方的に攻められてジャタンは防戦一方だ
ユンの指がジャタンの右肩ら辺に当たるとジャタンの右腕がダラリと下がる
もしや秘孔?ジャタンが苦悶の表情を浮かべると突かれた肩を押さえて飛び退いた
「くっ・・・点穴か・・・」
「なんならお通じが良くなる所を突いてあげようか?人前で大量に漏らせば少しはその口も大人しくなるでしょ?」
「さすがユン姐さん!」「よっ!男前!」「漏らしたら道場の掃除しろよ!」
えげつない・・・えげつないよユン姐さん!いやでも待てよ・・・ジャタンの場合はそれもご褒美かも・・・
動かない右腕を下げたまま脂汗をかきながら構えるジャタン
ユンはゆったりと構え誘うように指をクイクイっと曲げた
「後悔するわよ!」
確かにお通じが良くなる所を突いたら後悔するだろうな・・・汚れ的な意味で
ジャタンはフェイントを混じえてジグザグに駆け寄るとユンの隙を突いて左腕をユンの右腕に絡める
だけどユンは冷静に左の指でジャタンの左肩の付け根に指を突っ込むとジャタンの左腕も力が入らなくなったようで動きを止めた
両腕を封じられたジャタン・・・勝負あった道場思いきやジャタンは身を沈めて足でユンの足を絡め取ろうとする・・・が、ユンは両足の付け根に指をズブリ・・・ジャタンは無惨にも道場に仰向けに転がり動けなくなってしまった
「勝負あり!」
すかさずシホウがユンの勝利を告げた
手も足も出ないってのはこの事だな・・・ジャタン・・・無念・・・
「くっ・・・やるならやりなさいよ!」
いや、お前待ち望んでないか?そんなに大衆の面前で漏らしたいのか?
「やめとくわ。道場汚したくないし」
ごもっとも・・・ジャタンも諦めなさい
「で、次はどっち?」
うん?どっち?
「出来れば弱い方から来て欲しいわね・・・そっちの方が盛り上がるし」
「お呼びですよ?ラカンさん」
「お前とは戦った記憶はないが・・・なんなら今ここで雌雄を決するか?」
ええ!?それってユンと戦うかラカンと戦うかの2択にならないか?君らと違って俺は基本平和主義なんだが・・・
「さっさと決めて・・・なんなら2人相手でもいいわよ」
頑なに動かないラカン。先に行くのも嫌、共闘するのも嫌・・・イヤイヤ期か!
さすがにラカンと戦うのはイヤだしな・・・仕方ない
とぼとぼと前に出るとビタンビタンと床に転がって暴れてるジャタンが目に入った。俺と目が合うと動くのをやめてじっと俺を見つめる
「見てんじゃねえよ」
このっ・・・首根っこを掴んでとりあえずカーリング風にラカンに投げ付ける。残念な事に大きく外れて門下生達も大袈裟に避けると道場の壁に激突してた。ざまー
「あの大将戦みたいにはいかないわよ」
振り返るとユンは構えてた。片足を上げているのでスリット部分からおみ足が・・・やはりこっちを選んで正解だ・・・ラカンの硬そうなお肉とは比べ物にならん
「始め!」
展開早いって!もっとおみ足を・・・と思ってる隙にユンは瞬時に懐に忍び寄る
うわっ!いきなり突いて来た・・・どっ、どうしよう・・・と思っていると身体が勝手に動き、手がユンの腕に添えられる。おお・・・俺もいっぱしの拳士っぽい!ユンの軌道を手でズラそうとしている・・・しかも無意識の内に・・・だが
ズブッ
そんなズラしなど意に介さずユンの指は胸の部分に突き刺さる・・・いた・・・くはないが・・・これは・・・
「ちょ、ちょっと!ズレたじゃない!!」
そんなこと言いましても・・・やばい・・・これは・・・お通じが・・・
「ま、待って待って!ダメよ!」
「ト・・・トイレ・・・」
「出て右に曲がった角よ!頑張って!!お願い!」
いや・・・お願いされても・・・念動力で溢れだそうとするものを必死でせき止める。少しでも刺激があると解放してしまいそうだ・・・ダメだ・・・解放してしまうと世界が終わる・・・パンドラの箱の底には希望なんてありはしない!あるのは一生もんのトラウマだ!
ケツ筋に力を入れ、内股になりながらヒョッコヒョッコと言われた通り進む。曲がった瞬間に大きな笑い声が聞こえたが今はそんなの無視だ・・・とにかく・・・とにかく前へ
ヘビーな戦いだった
俺は勝利した
道場の中をこっそり覗くとラカンとユンが戦っていた。互角の戦いみたいで門下生達も今までにない盛り上がりを見せている。2人共良い顔してるぜ
「あっ!・・・ぷっ」
俺の存在に気付いたユンが腹を抱えて笑ってしまい勝負はうやむやのまま終了・・・踏んだり蹴ったりだ・・・
「ごめんごめん!中途半端に捌かれちゃったから狙いがズレて・・・」
あの凛々しかった審判ユンさんはどこに・・・手を合わせて謝るユンからはあの時の凛々しさを全く感じられんわ本当に
ラカンと戦って発散出来たのか妙にサバサバしてる。ジャタンにも遺恨は残してないみたいだ・・・ジャタンの方は知らないけど。しばらくしたら手足が動くようになってたけど、別に食ってかかったりしなかったから負けを認めたのだと思う
門下生達は修行に戻り、再び道場内で茶を囲む
「で、ラカンとはどうだったの?」
「うーん、お互い手探り状態だったし・・・それよりアタル・・・あなたなんで手を抜いたの?大将戦の時の迫力と全然違ったし、手探りって言うよりやる気ないって言うか・・・まさか私が女だから?」
「え?いや・・・そんなにダメだった?」
頷くユン・・・うそっ・・・なんか身体が自然に動いた瞬間、俺ってイケてる!って思ったのは間違いだったのか?結果やられちゃったけど戦ってる感があって・・・
「気功も使ってないし・・・そもそも鋼拳ダルスの一番弟子って言う割には鋼拳使ってなくない?私の攻撃いなそうとしたのも流拳ぽいし・・・」
うっ・・・疑いの視線が突き刺さる
「鋼拳ダルスの?」
ああ、お父さんまで・・・どうしよう・・・何かいい言い訳は・・・
「あっ!」
言い訳を考えていた俺は出されたお茶に口をつける。するとユンは口に手を当てて何かに気付いた様子・・・なん・・・ぬっ!?まさか・・・
「ごめん!言い忘れてたけど点穴に気功流しちゃったからしばらく・・・何も口にしない方がいいよ」
遅いわ!・・・まずい・・・破裂する・・・トイレ・・・
この後何とか襲い来る猛威に打ち勝ったのだが、何かを口にするのが怖くなり何も口にせず寝床についた
結局泊めてもらう事になったのだが、やられた事を考えると・・・なんだか釈然としない。割と本気で夜這いでもしてやろうかと思いながらその日は眠りについた




