2章 16 シューリー国の掟
朝起きて恐る恐る出されたパンを口に入れる
普段より数倍咀嚼しいざ胃の中へ・・・・・・・・・うん、大丈夫だ!
ユンの母親であるユミはたーんとお食べとテーブルの上に山盛りに置いてくれた。それをラカンと競うように食べ、ユンを驚かせる
ラカンは無口だがよく食う・・・逆にジャタンは少食だ。卵でも丸呑みしそうなイメージだったが意外だった
食べ終わると強制イベントのように修行に駆り出され、ラカンとジャタンが見守る中、指運動に勤しんた。2人はなぜやらないのかと尋ねたら、他流派を学ぶ事は禁じられているらしい・・・指拳の方も他流派に教えるのはダメみたいだった
砂の中に指突っ込んだり、指だけで懸垂したり、指でバーベルのような重りのついた物を持ち上げたりと散々指をいじめ抜いて午前中の修行は終了・・・もう指動きません
午後は意外な事に座学から入る。と言うのも点穴の場所を覚えないといけないからだ。人体模型を使ってここは何?ここは何と説明する。そして覚えた所を実戦・・・ユン曰くこれを繰り返すと相手を見ただけで点穴の場所がポーっと浮かび上がって来るらしい
点穴はただ突くだけだと効果が薄いらしい・・・指に気功を集中し、突いた瞬間に点穴に流す事で気功が消え去るまで効果が持続・・・その辺は昨日身をもって体験したからよく分かる
医療にも使われる為、指拳道場は医者要らずなんだと・・・まあ、切り傷とかには効かないけど血を止める点穴とかもあるらしいし覚えれば超便利そうだ
「アタル・・・一日体験してみてどうだった?」
クタクタになり座り込んでいる俺にユンが話しかけてきた
「なんて言うんだろう・・・流拳とも螺拳とも違う感じ・・・流拳は防御からの攻撃・・・螺拳は攻撃に特化してるけど、指拳は・・・特殊?」
「そうね・・・指拳は昔、触れれば勝ちと言われるまでの流派だったの・・・特殊・・・異端・・・拳法ではないとまで言われてた。でもある時の当主が人を傷付ける点穴よりも癒す点穴を目指し始めて・・・衰退していった・・・あまりにも危険な点穴は失伝させ、人体に優良な点穴だけを伝え・・・」
「へえー偉いな」
「!?・・・そう言ったのはあなたで2人目よ・・・武術家では初めてね・・・本当にあなた武術家?」
いえ、ヒキニートです
「私はその話を初めて聞いた時・・・なんで?・・・としか思えなかった。最強に最も近いと言われた指拳を・・・なぜ・・・」
「過去形って事は今は違う?」
「ええ。今では点穴を突いて人が喜ぶと・・・私も嬉しい。強さなんてくだらないとさえ・・・」
「でも、自分に勝てる相手を望む?」
「それは・・・」
人を癒す事に喜びを覚えたけど、付き合う相手はより強い人・・・なんだろう・・・無い物ねだり?
「ま、まっ、いいじゃない!ところでアタル達はいつまで居られるの?他の子達のいい刺激になって修行に集中出来てるからさ・・・しばらく居られるなら嬉しいかなって」
俺はともかくラカンはかなりいい刺激になってるぽいな。修行の最中に横で物凄い突きやキレッキレの動きを見せられてり・・・ジャタンは違う意味で刺激になってるかもな・・・見られている恐怖というかなんと言うか・・・
「考えてなかったな・・・」
「じゃあさ、いい点穴何個か覚えてからにしなよ!頭痛が治まったり肩こり治ったり・・・色々あるよ!ほら、お通じが良くなったりも・・・」
「それはもう覚えてわ!」
「ふふっ・・・決まりね!私は用事があるからちゃんとご飯食べて早目に寝るように!遅刻したら許さないからね!」
母ちゃんか!
用事ってなんだろう・・・にしても点穴か・・・ぶっちゃけ神聖魔法で事足りるような・・・まあ、この国じゃ魔法は使えないから点穴とかに頼らないといけないんだろうな・・・
ガタッ
物思いにふけてると物音がした
「誰だ!」
「・・・バレたか・・・」
いや、本当に誰だよお前!
俺とユンの話を盗み聞きしていたのはヤクマルという門下生だった
もしかしたら俺らの仲を妬いて?とも思ったがどうやら違うみたいで・・・
「ユン姐さんはヤクモ兄さんの彼女だ!手を出すな!」
よし!分からん!・・・突然何を言い出すんだこのガキは・・・ヤクマル推定15くらいか?ナハトと同じくらいに見えるな。そもそもヤクモ兄さんって誰だよ
「えーと・・・順を追って説明してくれるか?」
「だからユン姐さんはヤクモ兄さんの彼女だ!」
おう!リフレイン・・・繰り返してるだけやんけ!
「ヤクモって?」
「俺の兄さんだ!」
「そのヤクモとユンさんが付き合ってる?」
「そう言ってるだろ!」
「じゃあユンさんはなぜ自分より強い奴と付き合うとか言ってんの?」
「それは・・・」
「ヤクモって弱いの?」
「兄さんは弱くない!てか、兄さんは元々武術家じゃない!」
はん?
「兄さんは・・・」
要約するとヤクモってのこのケイズ村で薬師をやってる青年。薬の調合や病気や怪我の知識が豊富で、言ってみれば医者だ。点穴で人を治す指拳の人達と自ずと交流が生まれ、そしてユンとヤクモは互いに惹かれ合った
しかし悲劇が訪れる
ユンが大怪我をしてしまい、点穴や薬では助からない状況に・・・必死に看病するヤクモ・・・その時奇跡が起きる・・・ヤクモは神聖魔法に目覚めヒールを使ったのだ・・・どこかで聞いた話だな・・・
で、ユンは助かったのだが、この国はとにかく魔法にうるさい。ヤクモが神聖魔法を使った事が広まり、国が動く事態に・・・ヤクモは捕らえられ死刑を宣告された・・・ひどい
ケイズ村の人達はヤクモにお世話になった人ばかり・・・命を助けてもらったユンと指拳派の人達、そして村の人達が一丸となり国に猛反発し何とか死刑は免れた・・・しかし
「二度と魔法を使えないようにと両腕を・・・結局兄さんは薬師を続けられなくなり村で1人・・・」
「ちょっ・・・両腕って食事は?・・・あっ、君が・・・」
「違う・・・両親に先立たれ、僕は幼かったからずっとユン姐さんが・・・」
もしかして用事ってそれか・・・でもだったら・・・
「なんで一緒に暮らさない?世話をするにしても・・・」
「ユン姐さんの負担になりたくないって・・・ユン姐さんが結婚しようって言ってくれたのに、兄さんは頑なに拒んで・・・」
あう・・・負担になりたくない・・・か。何となく分からないでもない・・・両腕をなくした状態で武術家のお婿になる・・・何も出来ず下手すりゃ下の世話まで・・・キツイよな・・・される方もする方も・・・
「ユン姐さんは朝昼晩と欠かさず行ってくれてる・・・前に出掛けた時は僕がしたけど・・・兄弟でも大変だった・・・それを毎日毎日・・・」
出掛けた時って対抗試合かな?毎日か・・・
「師範も二人の仲は認めてくれてる。けど師範も我慢の限界が来たのかユン姐さんに諦めろと・・・別の男を探せと・・・そしたらユン姐さんは・・・」
「自分より強い人・・・って訳か」
諦めたくないユンは強くなる・・・勝ち続ければ結婚しなくていい・・・けどヤクモは決して結婚してくれない・・・
「兄さんが・・・僕に言ったんだ・・・『もう俺を殺してくれ』と・・・『俺が死ねばユンは解放される』と・・・」
マジかよ・・・そこまで・・・
「僕には出来ない・・・でも兄さんは決して・・・ユン姐さんを・・・」
出口のない迷路・・・ヤクマルも迷ってる2人に翻弄されていた。決して結ばれない2人に邪魔者が現れないか見張って・・・なんか切ない・・・
「話は聞いた」
「ジャタン!?」
壁に寄りかかりニヒルなポーズを決めてるジャタン・・・なんなんだお前は!しかも薄らと涙・・・
「愛し合う2人を引き裂くものなどあってはならない!例えそれが歪でも」
いや、歪ではないと思いますが・・・はい
「蛇の人・・・」
「蛇の人言うな。小僧・・・俺も協力してやろう。この蛇舌のジャタンがな!」
気に入ってんのかい!もう蛇の人でいいじゃないか・・・蛇舌のジャタンってジャタンのジャタンみたいになるぞ?
「てかなんでそこまで魔法を毛嫌いするんだ?やられたとか聞いたけど異常だろ」
「知らないのか?」
「少し聞いたくらいで・・・なんかホビットとなんかあって魔法嫌いになったくらいしか・・・」
「ふむ・・・浅いな・・・ついでだ、話してやろう」
ジャタンから語られるのはシューリー国の過去・・・大陸全土を制覇せんと勢いのあった頃の黒歴史
人間は短命で魔法も弱い、他種族は長命で得意不得意はあったが魔法に長けていた。その立場を逆転させたのは何を隠そうシューリー国だった。その頃から武術に力を入れていたシューリー国は気は優しくて魔法に長けた・・・しかし体力的には人間より劣るホビット族に目を付けた。魔法の弱点は発動までに時間がかかる事・・・それを利用し武術でホビット族を圧倒し・・・奴隷にしていった
逆らえば子供すら殺し、言う事を聞かせて作り出したんだ・・・軍隊を
接近戦は武術で、遠距離からは魔法で次々に国に攻め入り、とうとう大陸制覇の一歩手前まで来た・・・が、奴隷として使い捨ての戦力として扱われていたホビット族の中にある一人の子が産まれる。その子は人間とホビットの間の子・・・その子は魔法にも長けて体力もあった
その子が立ち上がりホビット族は人間に・・・シューリー国に反旗を翻す
思わぬ反撃を受けたシューリー国は撤退を余儀なくされた・・・革命とも言えるその戦いの中、ホビット族にも多くの犠牲が出た・・・積年の恨み・・・それがホビット族を暴走させ降伏したシューリー国を・・・魔法で虐殺し始めた
火で焼かれ、水で陸に居ながら溺れ、風で切り刻まれ、生きたまま土に埋められる・・・支配していた者は逆に恐怖で支配されてしまった
その大虐殺は皮肉な事にホビット族の象徴ともなった人間とホビット族の子の死によって終わりを迎える
シューリー国を庇ったが故に裏切り者として処刑され、その事で目を覚ました者が多く現れたからだ
ホビット族は本来の優しさを取り戻し、大陸から姿を消す
残ったのは魔法に恐怖を抱いたシューリー国という残骸のみ・・・因果応報だが病魔となり巣食ったものは更なる悲劇を起こす
ホビット族に犯され身篭った当時の国王の娘・・・つまり姫様は胎児もろとも惨殺・・・しかも父である国王自らの手で
ホビット族憎しはホビット族が姿を消した事により魔法憎しに代わり今もシューリー国に根付いてる
「・・・という訳・・・アタル?」
「うわっ!?」
くだらない・・・自分が撒いた種だろうよ・・・それなのに魔法を憎む?魔法を使っただけで死刑?減刑で両腕を切断?・・・は?
「アタル!落ち着け!」
落ち着いてるさ・・・ああ、大丈夫だ。俺は神聖魔法が使える事が嬉しかった。一度だけとはいえシーナを救えた・・・誇らしかった・・・それを否定?
おびただしい数の死体がある
その傍で泣いている子・・・その子に近付こうとすると無慈悲にもその子は殺されてしまう
届かない・・・起きてからじゃ遅い・・・早く・・・滅ぼさないと・・・
「アタル!!」
「あ゛?」
あれ?ジャタンの顔が近くに・・・やられる!!
思わずジャタンに空圧拳を食らわせてしまった。ジャタンは吹き飛び壁に激突・・・うん?なんだこれ?
「ちょちょちょっと!大丈夫ですか?蛇の人!」
「くっ・・・やってくれるじゃねえか・・・」
「あ、いや・・・ごめん・・・」
だって近かったから・・・貞操の危機かと・・・
「ガンズに向けた殺気より更に濃い殺気振り撒いて・・・あくまで過去の過ちだ。もちろんだから関係ないとは言わない・・・今ではただのトラウマ・・・克服出来ない呪縛だ」
「・・・そのくだらない呪縛で犠牲になってる人がいる・・・助けられるはずの人が助からなかった事だってあるだろう・・・」
「全てが悪い事じゃない・・・魔法を使わないお陰で死ななかった人もいるはずだ。武術も魔法も使う者によって救いの手にもなれば凶器にもなる・・・分かるだろ?」
「・・・ああ・・・そうだな・・・」
決して魔法がないと生きていけない訳じゃない・・・それは俺がよく知っている・・・ただ・・・
「ムカつくな・・・魔法を使わせないよう強いてる奴らも、それを黙って受け入れてる奴らも・・・」
「・・・国には逆らえないだろう?」
「声が小さいんだよ・・・耳元で怒鳴ってやる・・・」
「おいアタル・・・何をするつもりだ?」
「NTR作戦及びNTB作戦を決行する・・・2人とも手伝え」
「エヌ・・・なんだって?」
まずはNTR作戦だ・・・俺は誰にも聞かれないよう注意しながらジャタンとヤクマルに作戦内容を伝えた──────




