第4話 話し合い
各立場からの見解は似ても似つかないものばかりだった。
「ではまず、国連の方針からお聞かせ願えますか」
六人はそれぞれ、テーブルを囲うようにそれぞれの書類、資料等を持ちながら、話し合いを始める。その場には先程までの幾分か緩やかだった雰囲気とは違い、真剣で緊張感が溢れる。若い職員達はその緊張感に息を呑みながらも職務を行う。
それも当然だ。
この場には日本政府の要人、米国の軍人、国連の職員、世界的な武器商人、大怪獣を倒した超人、日本政府から名指しで指名された科学者、が揃い踏みしている状態である。普通の一般人であれば、気圧されてもおかしくはない。
「国連の方針としては全面的に日本のやり方を援助する方向性です。何かの薬品を利用して溶かすも良し。国民に被害が出ない範囲で、兵器を使用して遺体を処理するも良し。自然の分解能力に委ねる方針でも良し。そういった感じです。ただ、核の使用であったり、利用を禁止されている薬品・武器の使用は推奨しない、といったところです」
木崎が進行役を務めながら、話し合いは進められていく。
いの一番に意見を求められたのは王だ。国際社会の意見と言っても遜色ない国連の意見。彼はその総意を伝える立場の人間として、この場に派遣されたも同然だ。
「基本的には我が国も、国連の方針と同様だ。日本がどのような方法で大怪獣の遺体を処理するのかは当国の判断に任せる。必要であれば、援助も惜しまない。だが、一点違うとすれば方法について、だ。我が国はどのような方法でも良いとしている『らしい』。
流石に核弾頭の使用については歴史的な問題、国際的な問題があるから推奨はしていない。しかし、それ以外の方法については、やむを得ない場合を除き、許可するべきだとの判断を下すだろう。私個人的には市民等の無関係な人々に被害が及ばないのであれば、どのような方法でも構わないと考えている」
「流石、米国様だな。基本的には手段は問わないってか」
王の言葉に続き、ルミナリエが米国の代表兼作戦立案担当者としての意見を述べる。米国は今回の大怪獣の騒動ではダメージを一切受けなかった。だが、『友好』国である日本が大怪獣によって甚大な被害を受けた。そのため、米国は日本の『友好』国として援助に名乗りで出た。
また、大怪獣の進撃により、人的資源も日本は不足していた。そのため、米国はルミナリエを人的資源の『支援』として派遣した。
「なら、そう言うお前の意見はどうなんだ、リーサル」
「俺は今回、武器とか兵器の援助、並びに資源の支援をするために呼ばれたから、本来はこういうところでは口を挟まないんだけども、意見を求められたからには言う。俺的には大怪獣の外側からのアプローチではなく、内側からのアプローチも必要だと考えてる。詳しいことはまだ、考えついてない。そんな感じだな」
リーサルはルミナリエの言葉に真面目な顔をして返答する。先程までの冗談交じりだった会話を繰り広げていた際との表情とは違い、真剣な顔をしていた。
世界的な裏社会の売人だとしても一国が戦争や紛争ではなく、巨大生物によって滅びるのは喜んで見ていられない。だからこそ、彼は今回の日本からの提案を受けた。それも、日本からの巨大な資金援助を約束したうえで。
「内側からのアプローチなんて面倒臭い。でも、俺はそこまで頭が働く方でもないから判断はお前らに任せる。言っておくと、俺はアイツの解体に手を貸しても良いが、面倒な作業はお断りだ」
「そう言うな、オール。解体作業をする場合はお前の力が必要になるだろう。それにリーサルの言うことには一理ある」
「はあ、これだから軍人様は理知的だな」
「日本の政府の意見はどうなんでしょうか。一番尊重するべきはこの国の意見ですし」
王は雰囲気の悪くなりかけたその場に、一声を挙げる。被害を受けた国以外の者達同士で言い合いをしたところで、解決には結びつかない。必要なのは現場の日本の意見である。尊重すべきは被害を受けた日本の意見だ。
「我々としては周囲に被害が出ない範囲であれば、どのような方法でも良いです。ですが、正直、処理や解体に詳しい者がいないので判断に困っている、というところですね。ですので、永島さんにその判断を任せます」
「え、『俺』に全振りなんですか」
その場にいた全員の視線が永島へと向けられる。流石の永島も、一人称が表向きの「私」から素の「俺」へと変わっていた。王は永島の顔を見て違和感を覚えた。彼の顔はその中で誰よりも緊張感がない顔をしていた。だが、その目はつい先程まで配られた資料を見ており、唐突に話が振られ、動揺しているようにも思われた。
「で、その全振りされたあんたはどうするつもりなんだ、ナガ、ナガ、ナガスマ、?」
「な・が・し・まです、リーサルさん」
「ナガスマ、ナガサマ……ナガシマ、ナガシマか。分かった」
「まあ、俺の意見としたら、リーサルさんの意見に同意です。外部からのアプローチだけではなく、内部、つまり、内蔵等へのアプローチをしてみても良いかなと。例えば、あれだけ大きいのですから誰かが中に入る、とか」
「……それは、流石に」
「ま、今の段階では内部に関しても詳しいことが分かってないので、おすすめはできません。もう少し、調査が進んでからかと。あとは何故、彼がここまで巨大化したのか。何故、標的となったのが日本、詳しく言えば、東京だったのか。地球上の生物なのか、地球外生命体なのか。そういったところを、まずははっきりさせていくべきかなと思います。一介の科学者の意見なので参考程度に考えていただければ」
王の苦々しい表情から何を思ったのか、永島はさらに言葉を続けた。永島の意見は確かに真っ当で順当な意見だった。遺体の処理をするうえでは大怪獣がどういうものなのか、何か目的があったのかを知ることは必要なことだった。
ただの一介の科学者。
本人はそう自らのことを表現したが、現時点で誰もが大怪獣の遺体の処理のみに目が行くところで一人、『何故、こうなったのか』を言及する永島は明らかに浮いていた。
一介の科学者と表現するのは良くも悪くも、相応しくない科学者だと王は実感した。その界隈で彼が有名になる謂れの片鱗を見た気がした。
「つまり、薬品や武器の利用はできうる限り行わない方が良い。そして、現在分かっている情報を整理し、大怪獣の目的や行動ルート等を明らかにすることが大怪獣の遺体の後処理をするうえでは必要である、と。それらのことを明らかにしたうえで再度、どう遺体の処理を行うかをはっきり判断する、ということだなな」
「そうなりますね。私は当国がそれで良いというのなら、その判断を尊重しますが」
「永島さんの判断を我が国としては尊重するのでそれでいきましょうか。他の方々はどうですかね」
ルミナリエ、王、木崎の三名の言葉にオールとリーサルは頷く。永島は「じゃあ、それで」と言った。その場の責任者六名の総意が決定した瞬間だ。
「それでは、これからその結論に従ってそれぞれ行動を行うわけですが、皆様、どうしますか」
「あ、それなら俺、いや、私、大怪獣をこの目で一度、見ておきたいんですが」
「それなら私も同行してもいいですか」
「大丈夫です」
王は永島の言葉に挙手をする。永島那由多という人物が何を考え、これからどうするのかをその目で見定めるために同行に手を挙げた。それ以外にも、いくつかの理由はあるが、主な理由は「それ」だ。
「俺は個人的に調べたいことがある。まあ、大怪獣に関することなのは言っておく。でも俺の仕事にも関わることだから、勝手にやらせてもらうからな」
リーサルは二人の会話が終わったと同時に立ち上がりながら、そう言った。完全に話し合いに飽きている様子だ。
「私はここに残って調査と作戦の立案と洒落込もう。あとは祖国への報告を行う」
「俺は、俺は調べるのも作戦立案も得意じゃない。でも、あの大怪獣と戦って少し気になったことがあった。だから、それに関して思い出す。思い出したら、誰かしらに報告はする」
ルミナリエが発言すると、それに続くようにオールが言葉を続ける。オールの言葉はどこか思わせぶりにも感じられたが、超人である彼にしか分からないこともあるのだろうと全員がそれで納得した。
オール自身はそんな周囲の気持ちを考えず、一人、扉に向けて歩みを進めていた。
「では皆様にそれぞれ、そうしていただくとして、私は閣僚の方々への報告と記者会見の準備を行います。必要があれば、個々にご連絡を致します。各々、専用の携帯をお渡ししますので必要になったらそれを使って各自、ご連絡を取り合ってください」
木崎は側にいた佐藤に声を掛けながら、その場にいた全員に向けてそう言い、部下達に五人に対して専用の携帯を配らせる。木崎自身は既に専用の携帯を所持している。
スマートフォンでも良かったが、情報流出やハッキング、クラッキングがあった際に面倒だと首相が所謂、ガラケー、ガラパゴスケータイを使用するように言ったのだ。五人全員が一度はガラパゴスケータイを見たことがあるか、利用したことがある人間だったのが功を奏した。が、一人でもその存在すら知らない者がいたら、大問題になっていただろう。
「それでは次は三日後にここに集合と言うことで」
木崎のその言葉を最後に六人はそれぞれの役割を果たすために散らばる。
永島と王は大怪獣の遺体のもとへ、リーサルは自らの調査へ、ルミナリエはその場に、オールは己の勘を信じて、木崎は閣僚達のもとへと足を進めた。
救世主達は己が目的のために。
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