友達
「あなたの名前を教えてもらっても良いかな?」
「はい。私はユイと言います」
「ユイ……良い名前だな」
異世界にしては日本名っぽい名前に、少し懐かしさを覚える。
「ありがとうございます。あの……お加減はどうですか?
私でも大丈夫だったでしょうか?」
決まり決まったこの世界の優しさ。
自分のことよりも、まず他人を案じてしまう。
優しさだらけで麻痺してしまうんじゃないか? なんて思っていたが、自分の身の振り方を省みる機会ばかりが増えていた。
人の性格の構築は、環境による影響は関係ない、なんて学者もいたが、そんな事は断じて有り得ないと思う。
「ああ。ユイ。あなたのおかげで、随分と楽になった。ありがとう」
「いえ、お役に立てて嬉しいです」
儚げな表情に、僅かな笑みが零れる。
上品なその様は、彼女の生い立ちまでも気になってしまうような、そんな魔性を含んでいた。
「ユイ、何かお礼がしたいのだが、私にできる事はないか?」
「お返しは必要ありませんよ? 何も不自由な事はありませんので」
「だが……」
「それよりも、アムルタートさんは、もっとエネルギーを分けてもらえる人が必要なんですよね? 私、友達にも声をかけてみます!」
「本当か? それはありがたい話だが……なぜそこまでしてくれるのだ?」
「困ってる人がいたら、助けてあげたいと思うのは、そんなに不思議じゃないと思いますよ?」
「そっ……そうか。だが、私は人じゃないぞ?」
「あっそうでした。でも、人じゃなくても、同じです!」
「そうか……」
言っている事はわかるのだが、ここまでサクッと信頼関係を築けるのは、一重にアマテラスの信頼と、その従者であるアンドロイド、ケンの功績があってこそなのだろう。
いきなり、人ならざる者のために、心臓を貫かせてくれと言っても応じてくれないだろう。
それがたとえ、安全な行為だったとしてもだ。
「じゃあ、私、早速声を掛けに行って来ますね!」
「あ、必要な人数は八名だ。それと、一日に一人だけでいい」
「大丈夫です。その事も説明は受けましたので!」
「そうか、では、よろしく頼む」
「はい!」
見かけによらず、行動派な彼女は、儚げな表情とは裏腹に、小走りに駆けて行ってしまった。
後ろ姿なのが悔やまれるが、生見てしまったのだ、これ以上は求め過ぎだろう。
「よかったね! 涼介」
「ああ。ケン、助かったよ」
「でも、あの失敗は頂けないね! ケンは不満だよ!」
俺の不注意で、彼女の胸を曝け出してしまった失態を見て、色恋ハンターケンは御立腹のようだ。
「ああ。綺麗だったな」
「ちょっと! 何思い出してるのさ! 次からは気をつけてよね!」
「ん? うん」
「まったく、ケンは涼介を止められなくて悔しいよ」
「アンドロイドに感情ないんだろ?」
「無いけど、感情で表現したとしたら、そういう事なの!」
「はいはい」
ケンを適当にあしらい、彼女の感触思い出す。
今は何を考えようともケンには届かない。
この世界から、ようやく解放された俺の脳内スペース。
思春期男子にとって、これが健全な思考なのだ。
エロ無しなんて、聖人君子のような人ばかりだったら、人類は繁栄してはいなかっただろう。
ユイのおかげで、今日の問題は解決し、明日からの問題も解決できそうだ。
ユイ様様である。
「じゃあ、ケン。これからどうする? ずっとこの広場にいるのは問題だろう?」
「そうだね。この広間に近い部屋を用意したから、そこに移ろうか」
「ケン、流石だな!」
「ふふ! 涼介のためなら、なんだってするよ!」
「頼りにしてる」
「任せて!」
こんな状況でも、俺が何かを考える事は何もない。
全ては、周りが用意してくれる。
そんな贅沢な状況にどっぷりと浸かり過ぎたせいか、自分で何かしようなんて考えが、あまり出てこなくなってきている。
もし誰かに助けを求められれば、快く手を貸してしまいたくなるだろう。
俺を助けてくれた女の子達は、そんな自然な心境から、おのずと手を差し伸べてくれたのかもしれない。
なので、後のことは、ケンとユイに任せ、俺はケンが用意してくれた部屋に行く。
VIPルームよりも遥かに狭い部屋だったが、ビジネスホテルなんかよりは広い部屋だった。
でも、俺にはVIPルームは広過ぎて、このくらいの部屋の方が落ち着く。
ずーっと休み無しで動き回ってきたので、すぐさま眠気が襲ってくる。
俺は簡単に部屋を見回すと、ベッドに倒れ込み、そのまま寝てしまった。
***
「涼介! ユイが来たよ!」
「ん?」
寝ぼけた頭を起こすように、全身で伸びをする。
ぼんやりと前を向けば、目の前には巨乳があった。
「やあ、ユイ」
巨乳から目を離さずに挨拶する。
「おはようございます。アムルタートさん。
今日のお加減はどうですか?」
「ああ、ユイのおかげで問題無い。ありがとう」
「それは良かったです。それと、必要な人数を集めてきましたよ! 話しをしたら、みんな快く引き受けてくれました!」
「そうか! ユイ、ありがとう!」
ユイからの朗報に、寝ぼけた頭がスッキリと回り出す。
今度は巨乳にではなく、ユイの顔を見て、笑顔でお礼をする。
「あ……いえ、お役に立てたようで、嬉しいです……」
急に明るい声でお礼を述べたため、ユイは驚いてしまったようだ。
役に立てて嬉しいようで、お礼を言ってから、顔がほんのり赤くなっている。
「まったくもって、非の打ち所のない愛らしさだな」
「え?」
「あ……」
寝起きで動きの悪い頭が、考えた事を口に出していた。
「あー、悪い。考えが声に出てしまったようだ」
「いえ……」
赤くなった顔が、更に赤くなる、とても可愛らしい。
「ユイにこれ以上動いてもらうのも悪い。後はケンにやらせよう。
ケン、頼めるか?」
「任せてよ!」
「あの!」
ユイが少し焦ったように割って入る。
後はケンに任せれば問題は無いのだが。
「みんな私の友人なので、私がいた方が良いと思います!」
「だが……そこまで世話をしてもらうのも、悪い。それとも、ケンだけでは問題か?」
「いえ……大丈夫だと思います」
「ならば、ユイをこれ以上縛り付けておくことはできない。また、一週間後、ユイには助けてもらわなければならないからな」
「それは大丈夫ですけど……でも……んー」
ユイはどうにもできないもどかしさから、悲しい表情をあらわにする。
いじめたつもりはないのだが、こっちが何か悪いことをしているかのような、そんな腑に落ちない表情を見せつけられていた。
「ユイ、落ち着け」
「ん……はい」
「ユイの気持ちはわかった。ユイにはまた世話をかけるが、私と一緒に来てくれるか?」
ユイの目が開き、パッと笑顔が咲き誇る。
根城に呼んだ女達もそうだが、誰かのために何かすることが、これほどまでに嬉しいことなのかと信じられない思いだ。
ユイは嬉しそうに答える。
「はい! アムルタートさん!」
「ふふ。ありがとう。では、早速行こうか」
「あ、今度は見えないようにしてくださいね!」
「ああ、あの時は申し訳無かった。あれはユイの魅力に惹かれてしまって、無意識だった。
今度はちゃんとしよう」
ユイはなんとも言えない表情で、手で胸を隠すような仕草をする。
「……アムルタートさん。私の友達には絶対ダメですよ!」
ユイに釘を刺されてしまった。
まあ、せっかく援助してくれると名乗り出てくれた友人に、そんな仕打ちで返せるほど、俺の肝は座っていない。
なので、そんな気持ちはユイで解消しようと思う。
「ん? ユイはそっちの方が良いのか?」
「え? わ……私にも、ダメです!」
「そうか、すまない。だが、ユイは心地よく、とても良かったぞ」
「なっ! 何ですか、それ?」
ユイは、ちょっと怒り気味な口調で、俺の発言の意図を問いただす。
内心、掛かった! と、喜びが顔に出そうだったが、この体では、そんなヘマはしない。
「ああ、ユイのエネルギーはとても良質で、体がとても軽くなった。ユイは最高だ」
「あ……そういう事ですか」
「ん? どうした? 顔が赤いぞ? 大丈夫か? 無理しているんじゃないか?」
「あ、いえ……大丈夫です」
ユイは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
こんな事をしても、ケンに悟られないため、やりたい放題だ。
ケンは今頃苦虫を潰したような心境になっていることだろう!
ただ、まあ、そろそろ自重しないと後が怖い。
そんな馬鹿話をしながら、ユイに連れられて、大広間に着く。
少し歩くと、ユイに手を振る女の子がいた。
「マオちゃん!」
マオちゃんと呼ばれたその子は……俺にラクライマ語を指導してくれた、マオさんだった。
読み漁った小説の影響をモロに受けているような気がしましたが、気にせず投稿することにします!




