百六十八番街
姐さんに放置されてしまった僕は、ケンの提案に乗り、百六十八番街を目指して荒野を歩いて行くことになりました。
ケンに、グダグダと不満をぶつけながら、まだまだ見えてこない街を目指します。
「なあケン、なんでこんな広大に荒野が広がってるんだよ。
この世界の技術力があれば、もっと隅々まで発展していてもいいはずだろ?」
かれこれ三十分くらい景色も変わらず歩いている。
広大で何も無い美しい景色は、ものの数分で飽きてしまい、俺は我慢の効かない駄々っ子状態にある。
日本の首都であれば、二十キロ四方が荒野なんて状況はほぼ無い。
この世界の技術力があれば、荒野など無くてもおかしくは無いはず……なんて、都合のいい解釈が捗っていた。
「涼介が想像しているのは、日本にある東京のことだよね?
でも、この世界から見ても、東京は異常だよ。
高度に発展した一極集中型都市って、経済的に見れば都合はいいのかも知れないけど、地政学的には脆弱だからね」
「ああ、なんか、偉い人達がそんな事を言ってた気がするー」
「まあまあ、二十キロ程度なら、一日歩けば到着する距離だからさ、頑張ろ?」
「うー。じゃあ、走るぞ! もう、パッと行っちゃおう! んで、そこで移動手段をなんとかしよう!」
「んー、移動手段は望み薄かもね」
走り始めてすぐに、ケンから、やる気を削ぐような一言が発せられる。
「なんでだよー、街なんだから、なんかあんだろー」
「物はあるけど、動かないよ。自律して動かす事は不可能だからね」
「あ……そうだったな。じゃあ、シューゼの人達ってどうしてんの?」
「特に移動しなくても、ライフラインを維持する事はできるからね」
「でもさー、なんかあんだろ? 非常事態的な何かが起きたらどうすんの?」
「んー、それも、問題ないね。街の作りは、その中で、完全にリサイクル可能な形態をとっているし、病気や怪我なんかは、徒歩圏内に総合医療センターが点在している。
喧嘩や、騒動とかも、時間はかかるけど、アンドロイドが駆けつけるよ!」
「ってか、それならアマテラスっていらないんじゃないの?」
「そうだね。今となっては、膨大な事象に対する最適解が導き出されていて、個々のAIだけでも自然な対応が出来るようになっているからね」
「なら、これ以上はどうすんだ?」
「アマテラスが人間を制御しない限り、無限に続くよ。
涼介の世界では笑われてしまう話なんだろうけど、人間の本能と呼ばれる部分は、もっと深いんだ。
生存本能は、高度な倫理観とともに細分化され、様々な角度から多角的に解釈されている。
そして、さらに、人は自分の倫理観を隠し、騙し、嘘によって保っていこうとする。
動物が、外敵から奪われることを恐れて、自分の食料を隠すようにね」
「動物がエサを隠す事と同じって……随分ぶっ飛んだ発想過ぎないか?」
「じゃあ、涼介にとって大切なものってなんだい?」
「いきなりそんな事言われてもなぁ」
「なら、涼介はなんでケン達アンドロイドの破壊を躊躇ったったんだい?」
俺は、あの時に感じた、妙な正義感とか、憐れみとか、なんて表現していいかわからない気持ちを思い出す。
なんでと言われても、バッチリ当てはまる答えなんて、考えてみたところで思いつくはずもない。
「さあな。坊やだからかな」
「そうやって隠そうとするって事は、涼介が生きる上で大切なものだからだよ」
「……ってかわかんねぇよ! こんなんズバッと答えられる奴なんていねぇだろ」
「あるだろう? 怖かったとか、可愛そうだったとかさ」
「そりゃ、怖かったし、ケンが……壊れる姿なんてみたくなかった……ってのもあるし、なんか違うだろ、って思いもあったし……色々だよ」
「なら最初からそう言えばよかったじゃない?」
「それは……」
「涼介は、ケンに気を使って言わなかったんだよ」
なんて言おうか考えていたら、ケンが食い気味に被せてきた。
そんなつもりは無かった……と思う。
でも、俺はあの時、この世界の期待に応えられずに、何を思っていたのだろうか?
今言ったことを言い訳に、何をしたかったのだろうか?
「ケンのことが大切だったからさ!」
「なんでそうなるんだよ」
「今までの話から言えば、ケンは、涼介にとって、隠したエサと同じってことになるね!」
「随分せつねぇな」
「例え話しだしね、涼介が大切に思ってくれているなら、ケンは嬉しいよ!」
「……なんだか、よくわかんねぇな」
「そうさ、本筋は単純でも、枝葉は複雑に伸びていて、どこに向かっているのかはわからない。
さらに、枝葉が幹のように太くなる場合もあるから、本能とは言えないような答えになることもある」
「じゃあ、結局、着地点はどこなんだよ」
「そうだね、生存本能が基本だけど、人間は、様々な知恵や、努力によって、単純な生命の危機から遠い場所まで来た。
そして、何が大切で、何をすればいいのかなんてことが、複雑怪奇な迷路のようになってしまったんだ。
でも、生存本能は、必ず、人間にシグナルを発してくれる。
理性と倫理を、どう繕ったところで、抑えられるわけじゃない。
大切な物を守るために、必ず、単純明快な解を導き出してくれる。
たとえそれが、倫理を無視した事だとしてもね」
「わかるようで、わからない話だな」
「ははっ! ごめんごめん。難しい話になっちゃったね。アマテラスと繋がっていたら、もう少しわかりやすく出来たかもね!」
「まあ、言わんとしていることは、なんとなくわかるから大丈夫だ」
「そお? なら良かった。
あ! 涼介、見えて来たよ!」
前を見ると、遠くの方に街が見えた。
ケンと話ながらも、ハイペースで走っていたら、思いの外早く着いてしまったようだ。
「お、あれか……なんだっけ」
「百六十八番街だよ!」
「そうだった。それにしても、番号じゃなくて、名前とかつければ覚えやすかったのにな」
「みんながラクライマ語を使っているから、番号制にするしかなたっかのさ!」
「言語統一されていて、いいなーって思ったけど、なんか味気ないな」
「でも、地方名はあるよ!」
「じゃあ、正確には、ここってなんて言うんだ?」
「シューゼ法国アライマル地方南百六十八番街だね!」
「覚えらんねぇ」
「えー!」
「地理は苦手なんだよね」
日本の都道府県ですら怪しいのに、パッと言われた地方名など覚えられるはずがない。
こういう面倒な事は、全部ケンに任せようと決めた。
「んじゃ、親切な人探しでもするかね」
「オーケー! じゃあ、あそこに見える背の高い建物まで行こう!」
団地のように連なる建物の所々に点在している背の高い建物。
そこは総合医療センターであり、集会所であり、その他様々な役割を持った管理施設のようなものらしい。
そこに行けば、俺のために一肌脱いでくれる人が見つかるかもしれないとのことだ。
特徴の乏しい外観をしている建物の中に入れば、これまた特徴の無い内装が出迎えてくれた。
中央に配置されたエレベーターで、三十五階を目指す。
エレベーターのドアが開くと、そこは広々とした広間だった。
ここまで来て、ようやく人の姿を見ることが出来てホッと一安心だ。
「じゃあ、涼介はここで待ってて! ケンは誰か助けてくれる人を募ってくるから!」
「ん。じゃあ、よろしく」
どうやら、晩御飯に突撃はしなくて済みそうだ。
ケンと別れた俺は、手持ち無沙汰になり、まばらに点在する人々を眺めてみる。
みんな落ち着いており、今が非常事態なんて危機感は無かった。
それよりも、なんだかみんな楽しそうに思い思いの事をしている。
『前に行った街でも、こんな感じだったな』
以前ミーアの住む街に行った時も、住人はみんな落ち着いており、危機感は無かった。
『ミーア……元気にしてるかな?』
勢いに任せて別れてしまったミーアの事を思い出し、一人感慨に耽る。
ミーアは、なかなかに素質のあるツンデレーションな女の子だった。
ツンの状態まま別れてしまった事に、少し後悔があったり無かったり……。
「連れて来たよ!」
今となってはどうでもいい、ミーアの事を思い出していたら、ケンは女の子を連れて戻ってきた。
茶髪でストレートヘアが綺麗だ。
華奢な体には似つかわしく無い、豊満な胸が特徴的な儚げな美人。
うん……この世界、反則。
「ケン、もう説明は済んでいるのか?」
「バッチリさ!」
「そうか」
俺は、反則巨乳美人の方を向き一礼する。
「突然のお願い事にも関わらず、ご足労いただき、感謝いたします。
私の名は、アムルタート。
ご説明は受けたかとは思いますが、この稀有な病のため、どうか、ご助力をいただきたい」
「はい……とても大変な病だと聞いております。
私に出来る事があれば、なんでも言ってください」
俺の姿を見ても、彼女は物怖じすることなく、優しい笑顔で接してくれた。
この世界の女の子は、すべからく良い子(ミーア以外)で、容姿端麗であった。
耐性のない人間が、一度その一端に触れてしまえば、間違いなく恋に落ちると確信出来る。
これからする事の了承は、ケンが取って来てくれたので、俺は感謝すれば終わりの楽な仕事だ。
アマテラスから切り離されたとしても、ケンは良く出来たアンドロイドである事に、変わりはないらしい。
「では、早速だが、良いか?」
「はい。いつでもどうぞ」
「では……」
俺の触手が、彼女の巨乳を越え、心臓を貫く。
いつもの心地よさとは別に、大きく柔らかな手応えまでもが伝わってくる。
「んっ……」
目をつぶり、恐怖に耐える姿が実に悩ましい。
このままもう少し堪能していたいところだが、名残惜しい感触に別れを告げ、触手を抜く。
無意識に狙いが外れてしまったようで、穴の空いてしまった服から、見えてはいけないものが見えてしまった。
「すまない!」
「きゃ!」
咄嗟の事に慌ててしまい、触手で隠すように触れてしまった。
柔らかな、至福の感触が触覚を満たす。
「あ……あの」
「今離す」
触手の一部を穴を塞ぐ服のように変化させ、そっと切り離す。
穴を隠すように服に張り付けた、花を模した大きなブローチ。
咄嗟の判断としてはうまくいった、これなら申し訳が立つだろう。
「申し訳ない……それで我慢してくれ」
「あ……いえ……こんなこともできるんですね」
「ああ。代償のようなものだ」
「綺麗です……。気遣ってくださってありがとうございます」
日本でこんな事をすれば、ただでは済まないだろう。
この世界の基準は、今ひとつ馴染めないものの、煩悩の暴走を止められなかった自分を、少し反省しなければならない。
なんとか姉さんの試練を乗り越え、とりあえず一息つけたようだ。
これから十日間、この街の人に世話にならなければならないが、ケンの働きを見るに、そう問題もなさそうだった。
すいません。小説を読み漁ってました!




