意外と簡単に詰んでしまう、死ねない体
「レノ、どお? なんかわかった?」
ケンとだべっていたが、なかなか終わらないレノの作業が気になって、進捗状況を確認している。
「まだ、解析には時間がかかります。また、一部データが損傷しており、修復作業をしております」
「どのくらいかかるの?」
「データの確認に三日、検証に一週間といったところでしょうか」
「え? ずいぶんかかるんだね? そんな時間かかったことって、今までなかったじゃないか。なんで?」
疑問に思う頃には解決していたのに、人間が感じる時の流れと、同じ速度まで遅延してしまっているようだ。
「今までは、解析、検証、命令を、すべてアマテラスによって実行されていましたが、今は、私がそのすべてを実施しております。
私の性能が1とすれば、アマテラスの性能は、およそ十億倍。
アマテラスであれば、この作業を、コンマ一ミリ秒前後で完了するでしょう」
「うん。アマテラスがすごいってことは、わかったよ! レノ、ごめんな!」
「いえ、お待たせして申し訳ありません」
レノに聞いてもよくわからない。アマテラス抜きで、すごいことをしているんだなって感想しか、俺の弱い頭では、理解できなかった。
「涼介、レノはあれでも、量子コンピュータ以外では、最高の性能だよ。アマテラスが規格外すぎるだけさ!
ちなみに、レノは、ケンの約百倍くらい高性能だよ!」
「ごめん、そういった、なぞなぞは得意じゃないんだ」
「え? なぞなぞじゃないよ!」
「え? もういいよ?」
アマテラスと交信できないことで、ケンのキレがなくなってしまったのだろうか?
ルイの爺さんに、話術を学んだと言っていた頃のケンが懐かしい。
アマテラスと交信できていれば、こんな生ぬるい返しをすることはなかっただろう。
「……まあ、レノも頑張ってるって、わかってくれれば問題ないかな」
「うん」
性能の差がはっきりと出てしまっているケンを、悲しく思っていても始まらない。
人間の生活を豊かにするための部分が、吐出してしまっているようだ。
日常会話がこうも変化してしまうほど、アマテラスの恩恵は大きかったらしい。
さて……そうすると、当面の問題は、時間がかかるってことだな。
情報が乏しい状況で、レノ抜きで何をしたらいいか、全然思いつかない。
実質、十日も暇になってしまった。
「姐さん、とりあえず、ここはレノに任せて、帰ろう?」
とりあえず、十日もの時間、こんなところで過ごしていたら、暇すぎて姐さんが怒り出すだろう。
それに、俺も暇すぎて、耐えられない。
「帰りたければ帰るがいい。私は、レノを手伝うことにする」
思いもよらない方向に、状況は変化してしまった。
姐さんはここに残りたいらしい。
「え? 姐さん、レノのやってることわかるの?」
「あたりまえだ。まあ、おまえたちが理解できたところで、手伝うことなんてできはしないがな」
「えー! じゃあ、俺、帰らない!」
姐さんがいないのに、一人だけ帰っても仕方がないだろう。
美女達に囲まれて、キャバクラごっこでもしてろとでもいうのだろうか?
まあ……それはそれで、面白いかもしれないが……。
「帰らなければ、苦痛に悩まされることになるぞ?」
「あ……そうだった。ねー、本当に姐さん帰らない気?」
二日目には苦痛が始まる難儀な体だった。
姐さんの元で待っていたいが、そうも言っていられない。
「帰らないと言ってるだろうが」
「でも、あの猫とか来たらどうすんのさ!」
大声で言うことでもないが、俺は、本当に何もできない。
猫が来たって、逃げることすら叶わないだろう。
「ああ。あいつなら、私たちと入れ違いで、ここを出たから大丈夫だ」
「そうなの? ってか、あの猫はどんだけ早く移動できるんだよ! そんな素振り見たことないよ!」
あんな可愛い猫ちゃんが、マッハを超えて移動する姿は想像できなかった。
「奴は、どこにでも存在するし、どこにも存在しない。目で見えるものがすべてではない」
「姐さん! わけが分からないよ!」
「そのうちわかる」
「またそうやって、すぐにはぐらかすんだから!」
その後、しつこく質問する勇気も出ず、もんもんと姐さんを見ていることしかできなかった。
姐さんは、俺との話を切り上げたあと、レノの近くで目をつぶり、そのまま動かなくなってしまっう。
「こりゃ完全に置いてけぼりだな……」
「とりあえず、帰ろうか?」
「そうだな……。って、ケン、帰り道わかるか?」
「大丈夫! ちゃんと覚えてるよ!」
「よし! 偉いぞ、ケン!」
「ただ……」
「ただ?」
「千二百キロくらい先だけどね」
「あ……」
これは……思った以上の大ピンチかもしれない。
姐さんの魔法があれば、一時間もかからずに帰ることが可能だが、千二百キロを徒歩で帰るなんて、俺の体がタイムリミット迎えるのが先になってしまう。
「ケン、ヤバない? どうしたらいい?」
「涼介が魔法で飛べれば良いんだけどねぇ」
「それしかないか……とりあえずやってみよう……」
使ったことのない魔法に、賭けてみるしかないようだ。
早速、ケンと地上に出て、見よう見真似で魔法を唱えてみる。
「フライ!」
足が地面から離れる。ふわふわと浮いた体は、バランスをとるのが難しく、クルクルと回転してしまう。
「涼介、何やってるの?」
「何やってるって、飛ぶ練習だよ!」
「なら、飛びながら、風も操らないとダメなんじゃない?」
「なるほど」
俺は、ケンのアドバイスを真摯に受け止め、風をイメージする。
すると、爽やかな心地のいい風が、俺の頬を撫でた。
「ダメだ! これ以上は無理!」
そう気を抜いた瞬間、体の浮遊感は消え、引力に引き寄せられる。
ドサッ!
うまく着地できず、右肩を地面に打ち付けてしまった。
「ダメそうだね」
「……うん。魔法が使える様になった頃には、俺の精神体は、消えちゃってるだろうな」
これは……詰んだか?
俺の異世界での冒険は、ここで幕を閉じてしまうのだろうか?
なんとも呆気ない幕切れだ。
だが、そもそも、ここまで生き残れただけでも、奇跡的だった。
不運に次ぐ不運。
どうする事もできない、運命の悪戯に踊らされ、抗う術もない程に、力の差があった世界との対峙。
一歩でも間違えれば、今の俺は、無かっただろう。
それに、ちょっと疲れたってのもある。
ずいぶんと気が弱くなっていた。
「ここまでか……」
「え!? 諦めちゃうの!?」
「良くここまで生き残ってこれたと、自分で自分を褒めたいくらいだ」
死ねないよりはマシ。
しまっちゃう猫に、しまっわれちゃうよりはマシだろう。
なんの力もない、ただの一般人が、こんな伝説の当事者になること自体、無理だったんだ。
「ちゃんと考えれば、解決策はあるはずだよ!」
「ダメだ。姐さんに頼み込んだら、根城まで送ってくれるかもしれないが、もし怒らせでもしたら、この世界の人に迷惑がかかる。
俺一人の命のために、そんな賭けみたいなことはできないよ……」
これは、姐さんが怖いから、って理由の言い訳なんかじゃない。
本当に起こり得る、危ない賭けだからだ。
「……もう! まだまだ可能性はいっぱいあるじゃない! ここから西の方角二十キロ程度先に、街があるよ!
そこで、涼介のエネルギー吸収を頼める人、探そ?」
凝り固まった考えでは、こういった単純なミスをしてしまう事がある。
ちょっと考えれば、思いついただろうに。
ここ数日、無休の波乱続きで脳が参っていたのだろう。
こんな人間が、一体何故ここまで生き延びてこれたのか、甚だ疑問だ。
まあ、まだこの世界の人は、誰も死んでないわけだが。
「ケン! そういうことは、早く言いなさい!
一人で感傷に浸ってた俺が、馬鹿みたいじゃない!」
「ケンは助けることはしないよ! できるだけ最適解を提示するだけさ!
それに、普段の涼介なら、こんなこと、すぐに思いついていただろうからね!」
「いやいや、 こんな状況で、普段通りにされたら……って……まあいいや。
ケンに当たってもしょうがない。考えることすらしなかった俺が悪いんだ。悪かったな、ケン」
「涼介のそういうところ、ケンは、凄いと思うよ」
「なにがだよ……」
アンドロイドにおんぶに抱っこの状態の、どこが凄いっていうのだろうか?
茶化してはいないのだろうが、すんなりと受け入れることは難しい。
「はは! じゃあ、行こうか!」
「何故笑った……。クソ! ケン、行くぞ!」
「おー!」
そして、二人は、西へ向かって歩き出す。
花のない、男二人のぶらり旅。
見知らぬ土地で、「突撃! 僕の晩ごはん」が始まろうとしている。
俺は、何食わぬ顔で、人様の家へ突撃できるだろうか?
美味しいですねー! なんて、リポートしたら、通報されてしまうような絵面なのが心配だが、そこは、ケンがなんとかしてくれるだろう。
命を繋ぐ、ごはんを求め、近くの街までいざ行かん!
果たして涼介君は、ちゃんとリポートできるのでしょうか?
しゃもじではなく、触手を持って挑みます!
前話の後書きで、感想、評価、ブクマをせびってしまい申し訳ありませんでした。
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