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終焉

「……」

「……」

「……」

「……」


 ヒルデの詠唱後、黙って見守っていたが、しばらくの間何も起こらなかった。

 謎の声は聞こえない。


「……」


 失敗……という事だろうか? そう考えるしか無いと思い始めた頃……


「ぷぷぷ……ぷはぁー! もうー駄目! あはははは! なにみんなして真剣な顔してんのさ! もう僕耐えられないよ! あはははは!」


 爆笑……そんな言葉が相応しい程笑っている。急に笑い出すもんだから、ただの危ない人みたいだ。


「コルチェ、何がそんなに面白いんだ?」

「えー! 涼介、まだわからないの? ぜーんぶ嘘! 禁忌の魔法なんて無いんだよ! ヒルデは嘘を教わったのさ! その魔法はねぇ、禁忌を破った者を炙り出す通信魔法なんだ。ただ、声を届けるだけの魔法なのさ!」


 コルチェが辛抱堪らず真相を語りはじめた。やっぱ悪役はこういうものだよな。なんて考えられる程、俺の感情は静まり返っていた。


「なんだ、そうだったのか。ヒルデ! 行くぞ!」


 俺はヒルデに声をかける。血に染まったヒルデは無言で立ち上がりこちらに歩いてくる。足取りはしっかりとしたものになっていた。


「ヒルデ……大丈夫か?」


 中島が心配そうに声をかけた。さっきは殺そうとしていたのに、今は、大丈夫か? なんて声をかけている。一寸先は闇で、未来の事なんか予想できはしないものだな……なんて不謹慎な事を考えていた。


「中島様……私は……もう、大丈夫です。涼介様に……罪人として認めていただきましたから……」


 こう言われると、ヒルデは罪人になる事を恐れていたのかな? なんて単純な答えを導き出してしまう。でも……案外そうなのかもしれない。みんな、罪人になる事を恐れ、善行を積む。しかし、いくら善行を積もうと、罪人になってしまえば終わり。一生善人とは認識されない、罪人として認識される人生を歩む事になる。

 ……それが、たまらなく恐ろしいのだ。


「そうだな。俺達はもう罪人だ。気にするな」

「はい」


 善であろうとするから、迷い、戸惑う。悪を受け入れた時、人は強く、逞しくなる。悪行を迷いなく行えるようになる。

 それが、悪を受け入れた者……罪人なのだ。


「なに浸っちゃってるのかな? 全然かっこよくないよね? それ」

「罪人はカッコよくはねぇよ」

「ふーん」

「それと……もうあれ消して良いぞ。ネタばらしした以上、リリナちゃんは偽物なんだろ?」

「んー、そうだねぇ。まあ、そこそこ面白かったからね! 消して欲しい?」

「いや、そのままでも良いぞ。タマが大変なだけだし」

「ふふ。涼介は優しいんだね! でもさ、あれは残しておくよ。君たちが罪人である証のようなものだしね! 記念って事で」


 タマは、どこまでもクソ野郎だった。


「じゃあ、レノ。悪いけど、後の事はよろしく頼むよ」

「かしこまりました」


 結局またレノに押し付ける事になってしまった。申し訳無い気持ちでいっぱいだ。


「あーそういえば、レノはリリナちゃんの本体がどこにあるか分かるか?」

「はい。リリナちゃんの本体は、地中に埋まっています。……あそこの下です」


 レノはリリナちゃんが置かれたすぐ近くを指し示した。


「コルチェはどうやったんだ?」

「魔法を使ったのだと思います」

「魔法? コルチェがか?」

「いえ、姐様の偽物が使用したのだと思います」

「あー」

「ねえねえ、ちょっと良いかな?」


 レノと話していたら、不服そうにコルチェが口を挟んできた。


「君さぁ、ベラベラと喋らないでくれるかな? さっきの事といい興ざめも良いところだよ。あんまり調子乗ってると、壊しちゃうよ?」


 コルチェが不機嫌丸出しでレノに絡む。正直レノを壊されたら……この先不安しかない。


「壊して頂いてかまいません。どうぞ」

「はぁ? 僕に喧嘩売ってるつもりなの?」

「いえ、ですが、もし壊していただけるのであれば、タマ様直々に願いたいものですね。コソコソと隠れて見ているだけじゃ面白くないでしょうから」


 レノはどうしちゃったのだろうか? ちょっとドキドキするくらいタマに喧嘩売ってるんですが……。でも……俺が止めて良い事なんか無い。これがアマテラスの意思なのであれば、見ていたいと思った。……ってか、単純に気持ちいい!


「あらあら、本当に分かっているのかしら……星ごと消し去っても良いのよ?」

「そんな事をしなくても、時間を操れるなら、過去に行って私を消してしまえば良いのでは無いですか?」

「過去? あなた、過去に戻れると思っているの? 何を企んでいるのか知らないけど、過去に行って何かしようなんて無理よ。過去に行けるなら、何があってもやり直せるとか考えてるんでしょう?」

「……」

「ふふふ。もうだんまりなの? じゃあ、教えてあげる。過去に行くのは無理よ。時間は遡る事は無いの。進むだけよ! 少しお利口になったわね!」

「そうですねー」


 レノが、ひと昔前に量産されていたギャルの様に語尾を伸ばした。あまりのレノの変貌ぶりに、ちょっとレアな状況に立ち会ったと興奮を覚えてしまう。

 しかし、これが引き金だった。タマを煽り過ぎなぐらい煽ったせいで、ついに報いの時が訪れた。コルチェは不意にレノに向かって行き、握り潰してしまったのだ。


「……忌々しい機械だったわね。最初からこうすれば良かったわ」


 握り潰され、地面に叩きつけられたレノ。それはあまりに突然で体が反応しなかった。今までずっと一緒で、片時も離れた事なんか無かった存在。俺が辛い時、必ず助けてくれた大事な親友……いや、家族同然だった。こんな馬鹿げた戦いを、今まで続けて来れたのはレノがいたからなのに……。俺は、腹の底から湧き上がる悪意を感じた。抑えきれない何かが、俺の中で弾け飛んだようだ。


「タマ……お前……何してくれてんだよ?」

「あら? どうしたの? 機械が一つ壊れただけじゃない? 涼介にとって、そんなに大切な物だったの?」

「ああそうだよ。今すぐお前を殺してやりたいくらいだ。コソコソ隠れてないで出てきたらどうなんだ? クズネコ」


 レノは最後、タマの事をクソミソ言って壊されてしまった。そんな一部始終を見ていたはずなのに……俺も、その末路を辿ろうとしていた。


「あぁ! あなたがこんなに感情的になるなんて! もっと早く壊すべきだったわ! ねぇ、今の気持ちを教えて! 涼介! 大切な存在だったレノを壊されて……どんな気持ちなの!?」


 俺の動揺に、タマはとても高揚していた。


「……お前を殺してやりたいって言っただろ? コソコソ隠れる事しか出来ない変態ネコが!」

「良いわ! そうね! 私もそちらに行きたくなっちゃったわ! もっともっと、あなたをこの手で壊したい! あの子が大事にしていたあなたを、私が独占して……壊すの! とーっても楽しみなんだから!」

「おまえなんかに姐さんが嫉妬するはず無いだろ? 姐さんは隠れてコソコソするようなクズに興味なんかねぇよ」

「あぁ?」


 コルチェの口調が変わる。確定だ。タマは姐さんにコンプレックスでも抱いているのだろう。


「それに、俺もだ。そもそも、こんな面白くもない茶番に付き合わされて飽き飽きしてたんだよ。子供が死んだくらいなんだよ? どうだって良いよ。何を嬉しがってまだまだいっぱい用意してあるからね!……だよ。鼻で笑う事すらできねえ。姐さんといた時の方が万倍怖かったし、面白かった。お前は……姿も表さない臆病者だし、茶番もつまんねぇ。おまえの存在意義なんて、姐さんと比べればミジンコ程度しかないんじゃないの? それに……」


 ネチネチと煽ってやろうかと思っていたけど、コルチェが襲ってきたので中断した。いや、中断させられたと言った方が良いのかもしれない。

 俺は、コルチェに真っ二つに斬られたようだ。

 しかし、すぐに近くの植物に転移する。


「なんなの? こんな子供じみたことしか出来ないの? ミジンコ」

「うるさいわね」

「なにそれ? 反論? 我慢の効かないガキ程度の脳みそしかない上に、会話のキャッチボールすら出来ない。そんなんで人を陥れようなんて考えてたの? マジで脳みそスッカラカンなんじゃねえの? 知的レベルが低すぎるから、話の合わない姐さんに嫉妬してるんだろ? 馬鹿にでもされたのかい? ミジンコちゃん。いやー恥ずかしいよね!」

「うるさい! うるさい! うるさい! もうこの星は破壊してやる! 私を怒らせたんだから……もうわかってるんでしょ? お終いよ」


 あーあ。ついに最後の時が来てしまった。

 これを防ぐために、俺は今まで戦ってきたのに、ついにやっちまったようだ。だけど……


「涼介、やっちゃったな!」

「涼介様、私とても気分が良いです!」

「私は、いつでもアムルタート様についていきます!」


 こいつら……死ぬとわかった途端に良い顔しやがって……。

 感情を抑え込んでいた分、解放された喜びが大きいのだろう。最後くらい人間らしく死のう! って心の声がダダ漏れだ。


「グレース」

「はっ!」

「おまえ、さっき俺のこと涼介様って呼んだよな?」


 リリナちゃんに触手を刺した時、グレースが咄嗟にそう呼んだ事を俺は目ざとく覚えていた。


「え!? いや、あの……も……申し訳ありません」


 こんな時にこんな事を言われるなんて思いもしなかっただろう。たじろぐグレースが妙に面白かった。


「いや、いい。アムルタートは本来姐さんを指す名前だ。涼介と呼んでくれ。敬称も要らない」

「え? いや……それは……」

「グレース!」

「はい! 涼介!」

「良し!」


 グレースに笑いかける。こんな姿だから、笑ったとわかるか微妙だが……しかし、グレースが……笑ってくれた。今までグレースの真顔と、怒り狂った顔、絶望に打ちひしがれた顔しか見たことが無かったが……。

 初めてグレースの笑顔を見たけど……スゲー可愛いな。


「本当に面白くない子達ね……もう良いわ!」


 そう言うと、コルチェの横に、姐さんが顕現する。


『……え? 嘘だろ? もしかして……』


 俺は咄嗟に駆けた。そして、姐さんの頭を触手で吹き飛ばす。すると……胴体は跡形も無く消えて無くなってしまった。


「……」

「……なんで姐さんを使うんだよ。おまえの力で星を壊してみせろよ」


 俺はそう言って、間を空けずにコルチェを触手で壊した。すると、タマが壊れたコルチェから飛び出す。

 すかさず触手で貫くと、タマのエネルギーをこれでもかと言うくらい吸収した。

 とてつもなく莫大なエネルギーが、体の中に吸収されていく。

 吸いきれないかもしれないと思ったが、どこか懐かしいエネルギーを感じる。これは……姐さん?

 そう感じたと同時に、俄然強く吸い上げる。タマの中にいる姐さんを吸い出す。二人分の怪物的エネルギーなんて、吸収できるのだろうか? そんな不安とは裏腹に、まだ足りないと強請る魔王の体。俺は触手を増やし、タマを滅多刺しにした。吸収速度が倍倍に増えていく。やがて……タマの中にあったエネルギーは底を尽き、抜け殻となったタマの実態だけが残る。

 捨てるのも抵抗があるので、触手に食わせた。やっぱり、この体は魔王と言われるようなものなのだろう。


「……」

「……」

「……」


 ふと見ると、三人とも固まっていた。

 それもそうだろう。俺も何が起きたのかわかってない。無我夢中の出来事だったのだから。

 そんな静寂を打ち破ったのは、やはりこいつだった。


「涼介……やったのか?」

「……わからん」


 これでやっつけたと言われても信じがたい。それに、あまりに呆気なくて実感も皆無だ。


「……え? わかんねぇってなんだよ」

「エネルギーを吸い尽くした感はあんだけど、そんなんで良いのかな? って」

「そうか……あれが本物かどうかもわかんねぇしな」


 もし偽物だとしたら、あの莫大なエネルギーはどう説明するのだろうか? 分体? でも……


「そうだな。だけど……エネルギーを吸収してる最中に姐さんを感じたんだ」

「本当の魔王か?」

「なんか違和感あるけど……おまえの認識からすれば……そうだよ」

「じゃあ、本当の魔王まで取り込んだって言うのかよ」

「んーわかんない!」


 感じただけだ。それに、なにもかもが説明できなかった。


「ええ……じゃあ……これからネコ探しか?」

「ん? んーだな! レノ!」

「おいおい……レノはさっき……」

「お呼びでしょうか? 涼介様」

「ええ!」


 中島はとても良いリアクションをした。


「二十年経っても、おまえのリアクションの良さは変わらないな」

「う……うるせえ!」


 恥ずかしそうにする姿は見ていて微笑ましい。だが、そんなことにかまけてる暇はないかもしれないので、レノに今後の相談をする。


「レノ、これからどうすれば良い?」


 お決まりの丸投げだ。俺はこれじゃなきゃ始まらない。


「では、アロー法国の代表を呼び出し、シューゼにて終戦の会談をいたしましょう」

「え? ネコは? あれで終わり?」

「終わりも何も、貴様がさっき吸い尽くしたのではないか?」


 ……聞き覚えのある声がした。恐る恐る声のした方へ向くと……


「姐さん……」

「ふん! しけた面を見せるな。おまえにとっては別れてから一日も経っていないだろう?」

「……そう……だけど」

「くっくっく。それにしても……おまえは良くやってくれたな! 良い余興であったぞ!」


 姐さんが楽しそうに笑っている。それにしれも、余興って……


「余興? いったいどういうこと?」

「私はあいつが大嫌いだったんだが、どういうわけか粘着されてな。しかも、私とは相性が悪かった。

 私と同じく死の概念が無くてな、器に閉じ込めなきゃいけないんだが、私には、良い器を作る力が無い。奴の巧妙な器に騙されっぱなしだった」

「器? それって……」


 嫌な予感しかしない。これはつまり……


「そりゃ、おまえだよ。涼介」

「ええ!! そんならそういう風に言ってくれれば良かったじゃないか!」

「奴は臆病者で、じっと隠れて虎視眈々と待ち伏せするようなクズだったんでな。おまえが器だと悟らせると作戦が水の泡になってしまう。だから、おまえには言わなかった。おまえは嘘がつけないだろう?」


 ……嘘がつけない体質をこれほど呪った事はない。


「うぅ……そういうことか……ん? おまえには?」

「ああ、アマテラスだったか? この世界のAIとやらには言ったぞ! 奴はそう……馬鹿だったからな! アマテラスであれば騙すことなど容易であったであろう」

「レノ……おまえ、知っていたのか?」

「はい」

「だから、リリナが魔物になるって……」

「ほぼ確定的でした」


 レノさんの進言を押し切り、無理に注入しなくてよかった……心からそう思った。


「そうか……じゃあ……この戦いで犠牲なってしまったのは、リリナだけか?」

「いえ、違います」

「そうだよな……二十年間戦争していたんだもんな……」

「そうではありません。犠牲者はいません」

「なに!?」

「リリナちゃんは、死んでいません」

「はぁ?」

「私が死んだと嘘をつきました」

「あ……あれ? そういえば、そうか……レノが死んだって言ったから、てっきり……あれ? でも……エネルギーは吸えなかった……」

「蹴られる寸前にすり替えてありました」

「そっ……そうっすか」


 たとえ、レノの進言を振り切って注入しても、問題なかったらしい。……でも、タマには疑われたかもしれないな……うん。


 まあ、考えてみればそうだ……この世界には、記憶の書き換え行為を監視して、パソコンのエンターすら押させない程の実行部隊が居るんだった。リリナちゃんが蹴られたなんて事を止められないはずがない。


「ですが、リリナちゃんの両親が精神を病んでいるのは事実です」

「そうか……でも、二十年も戦争状態だと思っていた民間人も、犠牲者って言えば犠牲者だよな……それに……グレース達も……」

「私は……元の世界を救えなかった身です。犠牲者と……言われたくはありません」

「そういえば……姐さんは……」


 グレースは姐さんに故郷を蹂躙されてしまった身だ。そう簡単に割り切る事は出来ないだろう。


「ふん! グレース、おまえの世界で私がしたことを覚えているか?」

「え? ええ。私の故郷を、島ごと化け物の住む島に変えてしまった……私が行った時にはもう、村には誰も……」

「そうだ。誰も居なかっただろう?」

「え? ……じゃあ……みんな生きて……」

「ああ。せっかくの器候補が居なくなっては困るからな、そこでも一芝居打っていたんだ。だが……お前たちが余りにうるさいから移動したのだよ」

「あぁ……じゃあ……私は……」


 いったいなんのために戦って来たのか? 意義のない、無意味な戦いに身を捧げていたことになる。グレースは、呆然と気を落としてしまった。無理もない。


「ふん! すまんな。だが、お前も聞いただろう? 禁忌の魔法……あいつはお前の世界でも悪さをしていた。だからおまえは、あの世界を間接的には……救ったと言えるだろうな!」

「あ……あ……」


 落ち込んでいたグレースが顔を上げ、声にならない呻きのような声を出した。しかし、それも束の間に……


「ああああああぁぁぁぁぁ!!!」


 姐さんの言葉を聞き泣き崩れるグレース。自分のした事が、善行であったと……意味のある行いだったと……ようやく救われたのだ。

 ……俺も謝った方が良いかな?


「あ……あの、グレース……。俺……俺も! あんな酷いことしてごめんなさい!」

「うっ……くっ……うわぁぁぁ!」


 下から俺を上目づかいで見上げていたグレースが、また大げさに涙を流し両腕を首に回してきた。


「え? え? ぐっ……苦……しい……グレ

 ……ス!」


 パワーがシャレになってない! 首取れる!


「お前……いったい何したらこんなに恨まれるんだよ」


 中島が笑っていた。

 そんな一連のやりとりを見守っていたレノが、おもむろに口を開く。


「この事件の一番の犠牲者は涼介様です」

「え? ……くっ……苦しい……」


 レノと話したいのだが、グレースが離してくれない。


「だから、グレースをやっただろう? 前にも言ったがレノよ、涼介になど、それで十分じゃないか?」

「いえ、この世界からも謝礼をいたします。ですが、まずは会談を済ませてからです」

「わ……わかっ……た! い……まは、無理!」

「かしこまりました。では、ある程度復興を済ませた数年後にいたしましょう」

「そう……いう……意味……じゃ!」


 俺の心を読んでくれないレノは、そう言うとすぐに姿を消してしまった。

 今更訂正するのも面倒なので、お互い落ち着いてからでも良いかと諦める。


 ……猫との戦いは呆気なく終ってしまった。全てが裏で仕組まれた出来事だったが、俺はうまく演じる事が出来たようだ。今は皆、笑っている。

 みんなそれぞれ、失った物は大きかったかもしれない。だけど……得た物はそれ以上の喜びだった。

 クソみたいな異世界転移に、どうしようもない力の差がある敵達。無力さと、悪意に塗れた異世界生活だったが、蓋を開けてみれば……これは、紛れも無い英雄譚だった。


 俺は英雄として、大した事はしていない。全てが流されっぱなしだった。やった事と言えば……思い出しても、ろくな事してないな……でも、最後に……みんなの笑顔を守る事くらいは……出来たと思う……だから……そんなことしか出来ない、ろくでもない英雄が……一人くらい居たって……いいよね?


 この物語は、なんの変哲も無い一般人が、死なない様に頑張った……そんな……小さな英雄譚……の様なお話。







皆さま、これにて花と魔王は終わりになります。今までお読み頂いた方々には、感謝しかありません。

去年の10月から始めて、ほぼ一年で書き切る事が出来ました。正直言うと、まだ続けるつもりでしたが、書いていくうちに、最終回となってしまいました。ですが、これはこれで良かったともおもいます。

まだまだ多くの謎をそのままにしていますので、後日談として書いていこうとも思ったり思わなかったり……。まあこれは、見たい方がいらっしゃれば書こうかと思います。謎のままってのも良いですよね?


長い様で短かった百話! 本当に楽しかったです。では、また!

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