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6:店先で

 土日など休日は混雑しているショッピングモールも、平日ともなれば何時に行っても驚くほどに客が少ない。侑季はバイト先である茶の専門店で商品を整理しながら、店内にいるわずかな客に「いらっしゃいませー」と声をかけた。

 もうすぐバレンタインデーという事で、店頭には何種類かチョコレートに合う紅茶が用意されている。それを目当てにしてきたのか、客の大半は年若い女性だった。

 きっと彼女たちは、意中の男性にチョコレートをプレゼントするのだろう。そう考えていると、自分でも意識しないうちに、

「俺なんて、ここ数年チョコなんて貰ってないぞ」

 ぽつりと呟いていた。

 女の子、特に同級生に貰ったのは中学三年生の時が最後か。姉と母からは毎年小ぶりなものを貰っているが、あれは「女の子に貰った」とは言えない。

 ため息をつきながらバレンタインコーナーの隣にある試飲のブースを見ると、紙コップが少なくなっていた。ポットに入っている紅茶もそろそろ少なくなってきている頃だろう、取り換えなくては。

 バックヤードから紙コップとポットを持ちだし、入れ替える。ポットの中に入っているのはローズヒップティーだ。チョコレートに合うようにと店長が厳選したもので、香りも程良い。

 紙コップに紅茶を注ぎ、空になったものを抱えて戻ろうとした時、

「あの、すみません。ちょっとお尋ねしたいんですが」

 背後から軽やかな声をかけられた。

「いらっしゃい、」

 ませ、と言おうとして、言葉がつまった。

 振り返った先に居たのは、テレビの中でしか見た事が無い様な端正な顔立ちの女性だった。二十代前半の様で、白いコートに艶やかな黒髪がよく映え、清楚とはこのことだろうかと思わず見とれてしまっていると「あの?」と首を傾げられた。はっと我に返った侑希はポットを落としそうになりながらも、きりっと背筋を正した。

「いらっしゃいませ。どうなさいました? あ、よろしければこちらローズヒップティーです。お一つどうぞ」

「ありがとうございます。それで、バレンタインに使えるお勧めのお茶はないかな、と思って」

「そうですね、かしこまりました。ご案内いたします」

 嬉しいです、と微笑んだ女性の顔は、直視できないくらい眩しかった。

 侑季は彼女をバレンタイン特設コーナーに案内し、手のひらサイズの袋を一つ手に取った。

「チョコレートに合うものですと、香りの高いアールグレイなどは避けたほうが良さそうですので、こちらのウバなんてどうでしょう」

「ウバ?」

「中国のキームン、インドのダージリンと並び、スリランカのウバと呼ばれる三大紅茶の一つです。口の中の甘さをすっきりさせてくれますし、カカオの風味もひきたててくれますよ」

 凛とした立ち姿に緊張しながらも、セールが始まる少し前に店長から叩き込まれた情報と、自分で調べた限りの知識を女性に説明する。女性は紅茶を一口ずる飲みながら、侑季が持ったものと同じ袋を手に取り、興味深そうに頷いた。

 にしても、バレンタインに使う、という事は、この女性にも彼氏がいるのだろうか。きっと見栄えの良いカップルなんだろうな、と勝手に想像する。

 女性が紅茶の袋を一つ一つ手にとって見始め、ふと思いつく。

「セイロンブレンドなんかもお勧めですが、こちらなんかどうでしょう」

 侑季が手にしたのは、ついさっき避けた方がいいと言ったばかりのアールグレイの袋だ。女性も不思議に感じたのか、形の良い唇をへの字に曲げた。

「アールグレイの葉を細かく刻んで、チョコと一緒に丸めてトリュフにするんです。そうすると、チョコの香りと混ざり合って香り高いトリュフが出来あがりますよ」

 するりと口から出たのは、数日前に姉が実際に行っていた製法だ。誕生日にあげたアールグレイの葉を刻んでいたために驚いたのだが、そういう使い方もあるのかと感心したものだ。

 女性も同じだったらしく、アールグレイの葉を手に取ると愛くるしい笑顔を浮かべた。

「紅茶の葉って、そういう使い方もできるんですね、勉強になりました。それじゃあ、これ買っていきます」

 店員さんが教えてくれた使い方、私もやってみようかな。

 にこりと微笑みながら続けられた言葉に、思わず顔が赤くなる。

「ぜ、ぜひ参考にして下さい! あ、レジはこちらです」

 女性が手にしていた袋を受け取り、レジに案内する。お金を渡すために差し出された滑らかな手にうっとりしながら、平静を装いつつお釣りを渡す。

 手提げの紙袋に品物を入れて手渡すと「ありがとう」と微笑まれた。清らかな笑みにドキッとしている間に、女性は背を向けて去っていった。

「ありがとうございました、またのご来店をお待ちしております!」

 慌てて頭を下げて声をかけると、女性はぴたっと立ち止まり、侑季に向かって頭を下げた。そのまま、心なしか嬉しそうに歩きながら、女性は侑季の視界から完全に消えてしまった。

 所作の一つ一つが丁寧で美しいのに、時折少女のような可愛らしさがのぞく。

 あんな女性にもう一度会えたらいいのにな、と思っていると、店の奥から「働け青年!」と店長の怒声が飛んできた。

※専門学校在学中の課題「美女、または美少女と出会い感動する」「美しいの類義語を多く使う」を加筆・修正したものです。

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