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第52話 「竜の血」
リヴァイアサンの猛攻は、止まらなかった。巨大な顎が、ノアを狙って真下から突き上げる。脚の疾さで辛うじてかわすが、水の抵抗が、その速さを半分も許さない。ヴェルナの槍も、フィーナの剣も、硬い鱗の前では、浅い傷をつけるのが精一杯だった。そして何より、テオのドームが、もう限界だった。「魔力が……保たない。このままでは、呼吸する空気ごと、結界が……っ」。
このままでは、全員、海の底で溺れて終わる。ヴェルナは、奥歯を噛みしめた。一族が、命を懸けて守ってきた封印。その奥で眠る支配者を、人間たちと共に倒す日が来るなど、考えもしなかった。だが――今、彼らは、自分の隣で戦っている。一人で島を守り続けてきた、あの長い孤独の中では、決して得られなかったものが、ここにある。
「……仕方のない奴らだ」。ヴェルナが、低く呟いた。「お前たち、私から離れていろ。巻き込まれるぞ」。その体が、内側から、熱く輝き始める。背の翼が大きく広がり、褐色の肌を、硬い鱗が覆っていく。フィーナが目を見開いた。「ヴェルナ、あなた、まさか――」。竜人族の、本当の姿。失われた一族の、最後の血が、深海の底で、今、目を覚まそうとしていた。




