第100話 「声を連れて」
翌朝、四人は陽の柱を降りた。あれほど猛っていた柱の内は嘘のように凪ぎ、焔羽の鳥たちは巣の縁から、降りていく四人をただ静かに見送っている。テオが吹き抜けを振り仰いだ。「王が解放されて……柱そのものが、眠りに就こうとしているんですね」。地上へ出ると、南の空気は、もう別物だった。二つに見えた太陽は一つに戻り、殺人的だった日差しは、乾いた土をあたためる、ただの陽射しになっている。そして砂海の際には、約束通り、白い帆があった。南風号。船縁で大きく手を振るザラへ、フィーナが手を振り返す。
「よく戻った! 全員揃ってて何より――」。軽口の途中で、ザラは固まった。ノアが、口を開いたからだ。「ザラ。ただいま。……約束の水は、フィーナに先を越された。ごめん」。たっぷり十秒は絶句してから、彼女は腹を抱えて笑い出した。「喋った! しかも第一声が謝罪かい! 生きて戻った上に、土産が声とはね……上等だ!」。ノアは胸元から、罅の入った太陽の護符を外して差し出した。灼熱から、確かに心臓を守り抜いてくれた護符。ザラは罅を指でなぞり、それから護符をノアの首へ押し戻した。「守り切って罅が入ったんなら、こいつは本望さ。持っていきな。……親父も、きっとそう言う」。
その夜、ラズラの町に、ふた月ぶりの雨が降った。人々は通りへ飛び出し、老いも若きも、空を仰いで濡れそぼった。回復したガリムの音頭で町は祝いに沸き、その輪の中で、ノアは乞われるまま、ぎこちない声で何度も人々の名を呼んだ。呼ばれた者は皆、なぜだか胸が温かくなると言って笑った。宴の隅では、テオだけが兄の野帳を膝に、一つの頁へ見入っていた。水にふやけて読めなかった箇所を、旅の間、少しずつ読み解いてきたのだ。滲んだ文字は、こう告げていた。「円環は、他の六つと成り立ちが異なる。環の内へ入る道を知る者は、もはや地上にいない。手掛かりは、始まりの都の大書庫に――」。
宴の喧騒を離れ、ノアは一人、砂丘の上で窓を開いた。地図の上、六つの赤い印は、すべて静かな金色に変わっている。残るは、ただ一つ。世界の中心で、他のどれよりも深く、暗く脈打つ、最後の印。窓が、新たな文字を刻んだ。「最後の封印――守護者、ウロボロス」。ガルダの遺した言葉が、胸に蘇る。同胞に非ず。楯に非ず――鎖。ノアは深く息を吸い、取り戻したばかりの声で、遥かな世界の中心へ向けて、静かに告げた。「……待っていて。必ず、迎えに行く」。その刹那。中心の印が、どくり、と一際大きく脈打った。まるで――その声が、確かに届いたかのように。




