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第1話 「鋼の目覚め」
意識が戻ったとき、最初に感じたのは土と苔の匂い……いや、匂いはしなかった。鼻が、何も嗅ぎ取らないのだ。男は仰向けのまま、頭上で揺れる木々の梢をぼんやりと見上げていた。ここはどこだ。自分は誰だ。名前を思い出そうとしても、記憶は霧のように手のひらをすり抜けていく。
身を起こそうと腕に力を込めると、関節から硬い金属音が響いた。見下ろした自分の手は、人の肌ではなかった。鈍く光る鋼の指、継ぎ目だらけの腕。胸も脚も、すべてが冷たい機械でできている。痛みはない。ただ恐怖だけが、胸の奥でざわめいた。
その胸の中心で、何かがことり、ことりと脈打っている。たった一つ、温かいもの。心臓だ。機械の体に、本物の鼓動だけが宿っていた。
呆然と立ち尽くした瞬間、視界の右下に淡い光が灯る。半透明の四角い窓。そこには見覚えのない世界地図が広がり、所々で赤い印が明滅していた。まるで、彼の名を呼ぶように。




